リーガ制覇以来の守備力を誇るマルセリーノ・バレンシア。「第三のクラブ」を超えた先に見える未来。
今季のリーガエスパニョーラで序盤戦を盛り上げているクラブを挙げるとすれば、それはバレンシアだろう。マルセリーノ・ガルシア・トラル監督に率いられ、「第三のクラブ」を狙うどころか、首位に肉迫する勢いだ。
リーガ第8節消化時点でバレンシアは5勝3分け(勝ち点18)と無敗を維持。首位バルセロナ(勝ち点22)、3位レアル・マドリー(勝ち点17)、4位アトレティコ・マドリー(勝ち点16)の間に割って入り、堂々と2位に位置している。
■ベニテスが率いたチームを彷彿とさせる
バレンシアは開幕から本拠地メスタージャでの3試合でクリーンシートを達成した。第7節アスレティック・ビルバオ戦(3-2)で無失点記録は途切れたが、ホーム3試合連続無失点達成は2001-02シーズン以来である。
01-02シーズン、ラファエル・ベニテス監督が率いたバレンシアは開幕節でレアル・マドリーを1-0で破り、序盤戦から勢いに乗った。GKサンティアゴ・カニサレス、DFロベルト・アジャラ、MFダビド・アルベルダ、パブロ・アイマールを中心としたバレンシアはデポルティボ・ラ・コルーニャを振り切り、31年ぶりの優勝を飾った。
ベニテス・バレンシアを支えたのは強固な守備だった。01-02シーズン、得点ランクトップ10に入ったバレンシアの選手は一人もいない。それでも2試合出場23失点でサモラ賞(GK最優秀賞)を受賞したカニサレスを最後尾に据えて高い守備力で難局を切り抜けてリーガタイトルを攫った。
■バレンシアで輝きを放つゲデス
マルセリーノ監督は4-4-2を基本布陣として全体をコンパクトな組織になるよう仕立て上げた。「チームファースト」の考えを持つマルセリーノ監督ではあるが、ゴンサロ・ゲデスはそのチームで燦然と輝いている。
バレンシアとゲデスは不思議な縁で結ばれている。バレンシアは2014年夏にエンソ・ペレス、ロドリゴ、アンドレ・ゴメス、カンセロと一挙4選手をベンフィカから獲得。ベンフィカのカンテラーノであるゲデスは、主力放出を機に急遽トップチームに引き上げられた。
2017年1月、そのゲデスをパリ・サンジェルマンが3000万ユーロ(約39億円)で獲得する。だがフランスでは輝く居場所さえ用意されなかった。錚々たるメンツの中で埋もれ、ポルトガルで「クリスティアーノ・ロナウド2世」と称された男は伸び悩んだ。
そこでウナイ・エメリ監督は、以前率いたバレンシアへの移籍を歓迎した。マルセリーノ監督はラジオ局『オンダ・セロ』で「エメリに助けてもらった」とゲデス獲得の裏話を明かしている。バレンシアにはレンタル加入で、買い取りオプションは付けられていない。しかし、バレンシアはすでに1年のレンタル延長に向けて動き始めているようだ。
クラブが引き留めに努めるのも無理はない。ゲデスはここまで6試合に出場して1得点4アシストを記録。バレンシアニスタの新たなアイドルとなったのである。
■攻撃の鍵を握るパレホと得点製造機ザザ
バレンシアの攻撃の鍵を握るのは、ダニ・パレホだ。
パレホはリーガ第8節を終え、703分に出場。序盤からの8試合において、2シーズン連続で700分以上の出場時間を確保しているのは、現所属メンバーではパレホだけである。
加えて、主将であるパレホは選手、コーチングスタッフ、クラブを繋ぐ存在だ。2016年夏にはセビージャ移籍に迫り、一時は強硬姿勢を示してファンの信頼を失った。だが最終的には残留を果たし、マルセリーノ監督は現在その恩恵を大いに授かっている。
そして忘れてはならないのはザザの決定力である。昨季、冬の移籍市場で加入したイタリア人ストライカーは、リーガ移籍1年目で20試合出場6得点を記録。今季はすでに8試合で7得点と、自身のスペインでの最高得点記録を塗り替えている。
今季、ここまで無敗を維持しているのはバルセロナ、アトレティコ、バレンシアのみだ。バレンシアは2011-12シーズンを最後に、3位以内に入れずにいる。「第三のクラブ」の称号をすっかりとアトレティコに明け渡してしまった。
だが今季は異なる。ディエゴ・シメオネ監督に率いられたアトレティコが2強時代を崩壊させたように、マルセリーノ・バレンシアは「3強時代」に風穴を開けようとしている。