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窮地で現れた「バルサのメッシ」。悲願のW杯制覇でマラドーナを超えられるか。

森田泰史スポーツライター
エクアドル戦でハットトリックを達成したメッシ(写真:ロイター/アフロ)

窮地に陥っていたアルゼンチンを救ったのは、やはりリオネル・メッシ(バルセロナ)であった。

ロシア・ワールドカップ南米予選。最終戦を残して6位に位置していたアルゼンチンだが、メッシがエクアドル戦でハットトリックを達成して3-1の勝利を収め、逆転で3位に滑り込んで本大会出場権を得た。

メッシはここまでキャリア通算で32個のタイトルを獲得している。そのうち、アルゼンチン代表で獲得したのは、わずか2タイトル。所属クラブと代表で余りにもアンバランスな成績である。

代表でのタイトルは2005年のU-20W杯、2008年の北京五輪と世代別で獲得したものだ。A代表では無冠となれば、なおさらである。

■天使と悪魔、2つの顔

バルセロナではエースの名を恣(ほしいまま)に、類を見ない得点力で試合を決定付ける。攻撃フットボールとスペクタクルが約束されたチームで輝きを放つ一方、代表戦ではパッとせず、メッシは母国メディアから厳しい批判に晒され続けた。

12歳からバルセロナで過ごすメッシだが、彼の愛国心に疑いの余地はない。ただ、彼はトップデビュー直後からロナウジーニョ、デコ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタと偉大なクラック(名手)たちに囲まれて過ごしてきた。ボールを握り、ポゼッションで相手を圧倒するスタイルは彼に多くの恩恵をもたらしてきた。

特にシャビ、イニエスタの存在はメッシにとって大きかった。「操舵士」として舵を握る彼らが攻撃時の方向性を定め、メッシに自由とスペースを与える。メッシはバイタルエリアを筆頭に危険なゾーンで易々とボールを受け、アシストとゴールで違いを作った。しかしながらアルゼンチン代表にシャビやイニエスタの代わりを務められる選手はいなかった。

加えてアルゼンチンサッカー協会は混沌の中に足を踏み入れ、南米予選の最中に2度の監督交代を断行。3カ月で3人の監督が指揮を執り、プレースタイルを確立できないまま予選は佳境を迎え、終盤戦では4試合連続無得点とゴール欠乏症に陥った。

■崖っぷちのアルゼンチンと救世主メッシ

そして迎えた運命の一戦、エクアドルとの大一番で、「バルサのメッシ」が現れた。

アルゼンチン代表に特別な変化があった訳ではない。しかし、メッシは通常所属クラブで見せている決定力を発揮し、得意の左足で3発を叩き込んでロシアへの道筋をはっきりと示してみせた。

神の域に達した。救世主だ。彼は全知全能である。アルゼンチンメディアは手の平を返してメッシを絶賛した。ディエゴ・マラドーナに比肩した、そんな声も聞こえてくる。

マラドーナは1986年のメキシコW杯でアルゼンチンを優勝に導き、大衆に歓喜を届けた。バルセロナで数多のタイトルを獲得しようが、まだアルゼンチン国民は本当の意味でメッシを認めてはいない。マラドーナを超えるために、メッシはW杯を獲らなければいけない。

■バロンドールの行方

マラドーナとの比較は避けられない。だがメッシが戦う相手は過去ばかりではない。クリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリー/ポルトガル代表)との争いだ。

順当に行けば、2017年のバロンドールはC・ロナウドに与えられることになる。これでメッシとC・ロナウドは受賞回数5回で並ぶ。完全にイーブンとなった状態で、ワールドカップイヤーを迎えるのだ。

メッシは2016-17シーズン、公式戦で52試合に出場して54得点を記録した。対するC・ロナウドは46試合42得点。現在もなお「バロンドールは個人賞」と嘯く者もいるが、両者の明暗を分けるのは2017年のチャンピオンズリーグのタイトルに他ならない。

マラドーナは26歳の若さで世界の頂に立った。メッシは現在30歳で、次が最後のW杯になると予想されている。ロシアの地でジュール・リメ杯を掲げ、過去・現在を超越した史上最高の選手に...。アルゼンチン国民の期待は膨らむばかりだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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