柴崎岳に満ちる、静かなる自信。負傷を乗り越え更なる高みへ。
メディア嫌いだと、聞いていた。
8月某日に初めてヘタフェを訪れた。幸いなことに、その日は天候に恵まれ快晴、非公開練習後に接触の時間を待った。
しばらくして、柴崎岳が現れる。ヘタフェのメディア部門統括者と同伴で、彼は練習が終わってすぐに我々の下に来てくれた。
セッティングの段階で、メディア部門統括者は「ガクは真面目なんじゃない。シャイなんだ」と言っていた。そこに、柴崎のパーソナリティーを紐解く鍵があるのではないか、そう思えた。
■柴崎のスペインでの姿勢
筆者と一緒にいたスペイン人記者が、柴崎にスペイン語で話し掛ける。最初は緊張もあったが、徐々に打ち解ける。以前から現地では現地の言葉を話すように心掛けていると話していた柴崎は、真摯に、誠実に、その記者に対応していた。
スペイン人記者はそのあと、「ガクに通訳はいらないんじゃないか?」と冗談交じりに言っていた。スペインに来て、8カ月。それであの理解力は本当に凄いと、驚いていたのである。
取材中、おもむろに後方から柴崎の名を叫ぶ声が聞こえた。私服姿のスペイン人が彼の名前を呼び、無邪気に手を振っている。ヘタフェのファンだ。柴崎は照れくさそうに、だが晴れやかに手を振り返す。ヘタフェファンの愛情が垣間見れるシーンだった。
昨季限りでテネリフェとの契約が満了した柴崎は、奇しくも1部昇格プレーオフ決勝で相見えたヘタフェから、今夏オファーを受けた。今、柴崎がやっていることは、日々、「スペイン」を肌で感じ、そこに溶け込み、この地で受け入れられ、その中で自分を出していくことを模索していくことではないか。そんな風にも思えたのである。
■勝ち取ったボルダラス監督の信頼
開幕から4試合連続でスタメンに名を連ね、今月16日に行われたリーガエスパニョーラ第4節ではバルセロナ相手に左足で鮮やかなボレーシュートを沈め、首位を走るチームを震え上がらせた。
しかし、柴崎はスーパーゴールを決めたあとに左足甲を痛めてしまう。本拠地コリセウム・アルフォンソ・ペレスの観衆から大きな「ガク!」コールを送られ、大きな拍手を聞きながら後半9分にMFアルバロ・ヒメネスと交代でピッチを後にした。
繰り返し検査が行われ、柴崎は1カ月半ほど戦列から離れることになった。ヘタフェは柴崎の手術に踏み切らず、保存療法で回復の経過を見守っていく考えで、そこには早期復帰に対する希望的観測も含まれているようだ。※最終的に柴崎は手術を決断。2017年12月9日のリーガ第15節でエイバル戦で実戦復帰した。
調子を上げてきたところでの離脱は、確かに惜しい。だがホセ・ボルダラス監督の信頼は変わらないだろう。今季リーガ開幕から4試合連続で先発起用されていたのは9選手。その一人が柴崎だった。
■負傷により代表招集も見送り
それは日本代表を率いるヴァイッド・ハリルホジッチ監督も同じだ。
先に発表されたキリンチャレンジカップ2017のハイチ戦(6日開催)、ニュージーランド戦(10日開催)に向けた代表メンバーの中に、柴崎の名前はなかった。しかしながらハリルホジッチ監督は柴崎、斎藤学(横浜F・マリノス)、大島僚太(川崎フロンターレ)の名前を挙げ、招集する意向があったことを示唆した。
負傷がなければ、という話である。ただ柴崎に関しては、プレー強度の高いリーガでスタメンを張れれば、また招集のチャンスは巡ってくるだろう。その強度の高さに耐えられる肉体と精神、さらに高い技術と正確なキックは指揮官の好むところだ。
■日本人選手の評価を上げる
柴崎は、メディア嫌いなどではなかった。確かに、すごく冷静なタイプだ。しかし何より、彼自身がそれをしっかりと理解している。彼を取材して、その自己分析能力の高さに舌を巻いた。
赤い炎というより、青い炎。内に秘めた熱い闘志、これまで結果を残してきて培ってきた自信が、確実に彼の中に宿っている。
柴崎、そしてエイバルの乾貴士はスペインでの日本人選手の評価を確実に上げている。彼らの功績は大きい。計り知れない、と言ってもいい。
柴崎の一刻も早い全治を願ってやまない。それがヘタフェ、ワールドカップを控えた日本代表に必要であることは、間違いないはずだ。