永里優季が取り戻したサッカーを楽しむ心。アメリカで実感する選手の質、観客の質、環境の質。
アスリートにとって、環境の変化がプラスに働くことは、決して珍しくはない。
永里優季がアメリカに渡り、はや2カ月が過ぎようとしている。彼女はまるで水を得た魚のように、新しい土地にすんなりと溶け込んだ。
5月24日にシカゴへの移籍が正式発表された永里だが、NWSL (ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグ)デビューは8月13日まで待たなければならなかった。ひざの負傷で戦線離脱を余儀なくされ、移籍後もリハビリを続けていたためだ。
ひざの痛みは、どうなのか。それを聞くと、永里は間髪入れずに「痛みは、もうまったくないです。違和感もないですし。以前と同じようにプレーできていますよ」と答えてくれた。
■永里に漂う充実感
8月17日のシアトル・レイン戦では出場機会が訪れず、川澄奈穂美、宇津木瑠美との日本人対決はお預けとなったが、21日のカンザス・シティ戦で初スタメンを飾った。9月4日のノース・カロライナ・カレッジ戦で、移籍後初ゴールを記録。この試合においては、1得点1アシストを記録して2-1の勝利に大きく貢献した。
シカゴに移籍して、生き生きしているように見える。永里にそう伝えると、こんな返事が返ってきた。
「デビュー戦でも、ウォーミングアップから観客を煽ってました。良い雰囲気を作りたくて。大きくジェスチャーとかしたりして。アメリカのファンは盛り上がるべき時に盛り上がってくれて、プレーしていて楽しい。ミスしたら、ため息をつかれたりもしますけど。
スタジアムと練習場は(男子チームの)シカゴ・ファイアーが使うところと一緒です。練習施設にしても、充実しています。こういう環境を揃えるのは、女子サッカー界ではまだ簡単ではないです。
アメリカのサッカーはダイナミックですね。ポゼッションというより、トランジションサッカー。シカゴは、あえてある程度相手に攻めさせて、一気にカウンターで勝負を決めるようなスタイルです。特定の選手のコンディションに頼ってしまう部分もある気がしますけど、ショートカウンターの鋭さは抜群です」
■アメリカで感じた質の高さ
永里が言いたいのは、女子サッカーが広く認知されているアメリカにおいて、観客の質や環境の質が高いということだろう。そして、それが選手の質を向上させるという好循環を生んでいる。そのサイクルこそが、アメリカを長く世界女王に君臨させている土壌となっている。
また、シカゴでは、思わぬ“再会”も果たしている。
シカゴで8番を背負うジュリー・エルツは、2015年のカナダ・ワールドカップでアメリカ代表のCBを務めていた。この試合前、「(GKの)ソロとディフェンスの選手の信頼感が不足していると思う」と語っていた永里は、ジュリーのマークを振り切り、27分に反撃の狼煙となる日本の1点目を挙げている。
だがシカゴに来て、ジュリーの成長ぶりに驚いたという。
「ジュリーは、シカゴでは代えの利かないボランチです。すごく賢くて、試合を読む力もある。IQが高いのかもしれない(笑) それに、まだ25歳なんですよ」
最後に、永里に聞いてみた。永里がよく使う言葉に、「進化」がある。その進化に、周囲の影響はあるのか、と。
「進化というのは、周りに感化されている時に、起こるものだと思うんです。周りに引き出される部分が、すごく大きいかなと。そういうのは、アメリカに来て、強く感じています」
シカゴは現在、3位に位置している。4位以内に入れば、10月にスタートするプレーオフに進出。残りは3試合だ。