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2季連続で開幕スタメンに名を連ねた乾貴士。指揮官が信頼を寄せる運動量と貢献度。

森田泰史スポーツライター
アップダウンを厭わない乾はゴール前にも顔を出す(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

なんと、勝負強い男だろうか。

最後のプレシーズンマッチとなったサラゴサ戦で、エイバルの乾貴士は先制点をマーク。開幕スタメンを決定付けた瞬間、そんな思いが頭を過ぎった。

そして、思考は現実のものとなる。乾はリーガエスパニョーラ開幕節で堂々と先発のメンバーに名を連ねた。敵地ロサレダで行われたマラガ戦では、サイドラインぎりぎりで飄々とキックオフのホイッスルを待つ、左MFを「我が物」とした乾の姿があった。

■昨季と今季の違い

2年連続で開幕のピッチに立った乾だが、昨季はデポルティボ相手に不甲斐ないプレーを見せ、その後スタメン落ちという苦しい状況に追い込まれた。乾自身が「外されて当然だった」と認めていたように、そこから3試合出番がなかった。

しかし、今季は違う。同じ轍は踏まない。乾はその決意を示すべく、開幕節のマラガ戦で躍動する。17分、ダニ・ガルシアからのサイドチェンジのボールを左サイドで受けると、柔らかなトラップで対応に来たマーカーを一瞬で置き去りにしてクロスを入れる。6月の代表戦(シリア戦)を彷彿とさせるプレーでエイバルファンを沸かせた。

77分には、ペナルティーエリア内でパスを受けて決定機を迎えた。完璧なコントロールから右足で放たれたシュートは、マラガ守護神の好セーブに遭ってしまった。それでも、乾はチームの勝利のために走り続けた。

■オフ・ザ・ボールと運動量

マラガ戦で乾(10.8Km)はキケ・ガルシア(11Km)に次ぐチーム2番目の走行距離を記録。その運動量でチームメートを大いに助けた。

ホセ・ルイス・メンディリバル監督は、かつて乾の長所を「ポジションに早く戻ってくれることと、チームメートとのコンビネーション」だと語っていたことがある。乾の運動量と戦術理解度に指揮官は絶大な信頼を寄せているのだ。

その証に、メンディリバル監督は新戦力のイバン・アレホやベベではなくて乾を先発で起用。それに留まらず、開幕戦ではフル出場させた。乾が昨季、フル出場したのは7試合。今季は1試合目から90分のプレータイムが与えられている。

スペイン紙『マルカ』をはじめ、現地メディアでは乾を開幕スタメンから外すところも多かった。新加入のイバン・アレホへの期待値は高く、ペドロ・レオンが負傷している状況を顧みても、乾はベンチスタートが濃厚だと伝えられていた。

だが、彼らの予想は覆された。あの決定機をモノにしていれば、明日の見出しにでもなったかもしれないが、そんなことは乾にとってどうでもいいだろう。彼に重要なのはチームの勝利であり、エイバルはマラガ相手に1-0とその目標を達成している。

■進化する乾のプレー

今季初の公式戦で目を引いたのは、運動量だけではない。乾のオフ・ザ・ボールの動きにも、磨きがかかっている。

17分に左サイドを突破したシーンでもそうだったが、ボールを引き出す際の幅が広がっている。元々高いテクニックとプレーアイデアの豊富さには定評のある選手だ。それが今では、「ボールが来る前に勝負が決まっている」という場面を作り出せるようになってきている。

エイバルのコーチングスタッフは昨季、乾に「突破」を求めていた。乾を評価するが故に、要求も高くなる。移籍1年目に通訳を務めていた岡崎篤氏(UEFAプロライセンス所持)は「タカの最初の2~3歩は止められないと言われていた」とスタッフの声を証言していた。

まだまだ、乾のプレーには進化の余地がありそうである。2017-18シーズンは、ワールドカップ前年のシーズンだ。ロシアに向けて、今後1年の乾の成長が楽しみで仕方がない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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