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敏腕SDモンチ退任は劇薬になるか。新たな航海に漕ぎだしたセビージャ。

森田泰史スポーツライター
昨年サンパオリ監督の就任会見に相席したカストロ会長とモンチ前SD(写真:ロイター/アフロ)

セビージャは今夏来日してセレッソ大阪や鹿島アントラーズと試合を行い、プレシーズンツアーを進めている。チームがコンディション作りに集中する一方で、クラブは選手獲得と放出に追われて忙しい日々を過ごしているようだ。

昨季限りでモンチSD(スポーツディレクター)が退任し、ローマでの新しい挑戦を決めたことは、セビジスタにとって少なくない衝撃を与えた。

ホセ・アントニオ・レジェス(移籍先アーセナル・移籍金3000万ユーロ)、ジュリオ・バチスタ(レアル・マドリー・2000万ユーロ)、セルヒオ・ラモス(レアル・マドリー・2700万ユーロ)、ダニ・アウベス(バルセロナ・3000万ユーロ)、イヴァン・ラキティッチ(バルセロナ・1800万ユーロ)、カルロス・バッカ(ミラン・3000万ユーロ)...。モンチSDがまとめたビッグディールは数知れない。

上記6選手獲得にセビージャが投じた資金は、たったの1300万ユーロ(約17億円)である。レジェスとS・ラモスはセビージャのカンテラーノのため、当然ながら獲得資金はゼロだった。「安く買って、高く売る」。モンチSD在籍時のセビージャほど、このフレーズを体現したクラブはないだろう。

これから、正確には今夏から、セビージャに立ちはだかる壁は、まさに敏腕SDの存在感だ。

「モンチ以前・モンチ以後」の、モンチ以後が始まったのである。

■ビトロの移籍で先行きが不安に

新たに要職に就いたのは、オスカル・アリアスSDだ。モンチSDの後任を務める重圧は想像に難くない。

予想通り、というべきか、新SDの船出は厳しいものとなった。7月の段階でスペイン代表MFビトロのアトレティコ・マドリー移籍が決定(1月までラス・パルマスにレンタル)。それも、ホセ・カストロ会長がビトロの契約延長を公言してから、2日後に急転直下で移籍が成立した。

「ビトロはセビージャを利用してアトレティコから受け取る年俸を釣り上げた」とカストロ会長は選手を批判したが、ビトロは契約解除金3750万ユーロ(約48億円)を自己負担してスペインプロリーグ機構に支払い、セビージャとの契約を解除してからアトレティコ入りを決めている。

ビトロの移籍騒動の余波は大きかった。スペイン代表MFの契約延長に深く携わっていたホセ・マリア・デル・ニド・カラスコ副会長は、責任を取って辞任。モンチSDが去り、クラブ幹部のマネジメントにおいても、セビジスタに不安を残す出来事だった。

■ノリートを「半額」で手に入れる

ビトロ移籍で、クラブ内には少なからず失望感が渦巻いたはずだ。

だが歩みを止めるわけにはいかない。セビージャは迅速に反応した。ビトロの穴を埋めるため、マンチェスター・シティFWノリート獲得に踏み切ったのである。

ノリート獲得を強く求めていたのはこの夏就任したエドゥアルド・ベリッソ監督だった。ノリートはベリッソ指揮下のセルタで、2シーズンプレーして65試合出場25得点を記録。スペイン代表にまで上り詰めた過去がある。

セビージャはノリートを移籍金900万ユーロで獲得。シティは昨年夏にノリートを獲得するためセルタに移籍金1800万ユーロを支払っていたから、これは「半額」の値だ。指揮官の要望に応え、なおかつモンチSD顔負けの交渉術でノリートを手中に収めた。アリアスSDの面目躍如、といったところだろう。

■クラブ史上最高額でムリエルを獲得

目玉補強のノリート獲得を実現させたセビージャだが、ほかにもサンプドリアからルイス・ムリエル(2000万ユーロ)、インテルからエベル・バネガ(900万ユーロ)、ティグレからギド・ピサーロ(640万ユーロ)、リールからDFセバスチャン・コルチア(500万ユーロ)を獲得している。ムリエル獲得に際してはクラブ史上最高額の2000万ユーロ(約26億円)を支払い、大きな賭けに打って出た。

一方で、セビージャはビセンテ・イボーラを1360万ユーロでレスター・シティに、アディル・ラミを600万ユーロでマルセイユに、マリアーノを460万ユーロでガラタサライに売却している。選手の売り時は逃さない。収支のバランスを取るように努める。アリアス新SDはモンチ前SDの培ったノウハウを確実に踏襲している。

しかしながらチャンピオンズリーグを見据えるセビージャは、まだ補強を終えていない。前線には昨季後半戦レンタル加入していたステファン・ヨベティッチ(インテル)を最後まで待つ考えだ。そしてセビジスタが期待するのは、今夏シティを退団したヘスス・ナバスの帰還である。

セビージャは船出から座礁したかに見えたが、立て直した。ただ、彼らを大きな変化の波が襲っているのは事実だ。敏腕SD退任は、劇薬となってアンダルシアのクラブを高みに導くだろうか。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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