U21欧州選手権を引き金に起きた「もうひとつのクラシコ」。バルサとマドリーのセバジョス争奪戦。
この数日、スペインメディアでは連日「セバジョス」の名前が踊っている。ベティスに所属するU-21スペイン代表MFダニ・セバジョス。彼をめぐり、ビッグクラブが争奪戦を繰り広げているからだ。
引き金となったのは、先月ポーランドで開催されたU-21欧州選手権だった。マルコ・アセンシオ(レアル・マドリー)、サウール・ニゲス(アトレティコ・マドリー)、ジェラール・デウロフェウ(バルセロナ)、サンドロ・ラミレス(エヴァートン)ら豪華メンバーが揃うスペインは揚々と決勝進出を果たした。
決勝でドイツに敗れ、最終的にスペインは準優勝に終わった。だが、今大会で個人の評価を大きく上げた選手がいる。それがセバジョスだ。5得点を挙げてゴールデンブーツを受賞したサウールを余所に、セバジョスは大会MVPに輝いている。
■「格安」な移籍金がビッグクラブを惹きつける
予てからスペインで有望な選手として将来を期待されていたベティスMFだが、今回のビッグトーナメントをきっかけにレアル・マドリー、バルセロナ、ユヴェントスが彼の獲得を真剣に検討し始めている。
彼らがセバジョスを狙う大きな理由のひとつは、その「格安」な移籍金だろう。20歳という若さに、ベティスの設定する契約解除金1500万ユーロ(約19億円)を顧みると、計り知れないリターンが期待できる。
バイエルン・ミュンヘンは今夏、22歳MFコランタン・トリッソ獲得に固定額4150万ユーロ(約51億円)の移籍金を支払った。マンチェスター・シティは同じく22歳のMFベルナルド・シルバ獲得に移籍金4920万ユーロ(約61億4300万円)を支払っている。セバジョスがいかに「お買い得品」であるかは一目瞭然である。
■もうひとつのクラシコ
やはり、注目を集めているのはマドリーとバルサが同時にセバジョスを狙っている点だ。「ピッチ外のクラシコ」あるいは「もうひとつのクラシコ」と言える、この争いはメディアを通じて日に日にヒートアップしている。
マドリーを率いるジネディーヌ・ジダン監督は、現有戦力維持を今夏の目的としていた。フロレンティーノ・ぺレス会長がマンチェスター・ユナイテッドGKダビド・デ・ヘア、モナコFWキリアン・ムバッペ獲得に躍起になっていないのは、そのためである。
ジダン監督の敷くシステムは明確だ。前線にFWカリム・ベンゼマ、ガレス・ベイル、クリスティアーノ・ロナウドの“BBC”を擁する4-3-3。中盤の3枚にはMFカセミロ、ルカ・モドリッチ、トニ・クロースが構える。
それだけではなく、MFイスコ、ハメス・ロドリゲス、マテオ・コバチッチ、マルコ・アセンシオがバックアッパーとして控えている。つまり、中盤補強を懸念材料として、セバジョス獲得を試みる必要はない。
では、なぜマドリーがセバジョスを手中に収めようとするのか。それはバルサとの覇権争いを制するために他ならない。
マドリーは昨季5年ぶりにリーガエスパニョーラの奪冠に成功した。チャンピオンズリーグ連覇で前人未到の偉業を成し遂げてもいる。スペインとヨーロッパで「王者」の称号を恣(ほしいまま)にしているマドリーは、来季開幕前にバルサを叩き、世界中にその権威を見せ付けようとしている。
■両クラブの思惑
マドリーは今夏、近年守られてきたアトレティコ・マドリーとの「紳士協定」を半ば強引に破る形で、DFテオ・エルナンデスを獲得している。アトレティコがテオに設定していた2400万ユーロ(約30億円)の契約解除金に少し上乗せをし、固定額2600万ユーロ(約33億円)+成果報酬額200万ユーロ(約2億5000万円)でテオの移籍を成立させた。
なりふり構わない体は、まるで獣だ。隣のクラブとの協定を食い、次は獲得レースという難局を食い、獰猛なビーストと化して宿敵の喉元を食い破る。元実業家で、優れたビジネスマンでありながら激情型の一面を併せ持つペレス会長に本気のスイッチが入れば、彼を止められる者はいまい。
また、マドリーには2年前の夏にもセバジョスを狙っていた過去がある。当時19歳でトップチームに上がったばかりのセバジョス確保に動いていた。だが選手の代理人が契約解除金をトップチーム登録前の300万ユーロ(約4億円)のままであると主張した一方で、ベティスがトップ登録時に1200万ユーロ(約15億円)まで引き上げたと主張したことにより、ベティスと選手側が衝突し、交渉は難航した。
一時はベティスが要求する1200万ユーロの支払いを決断したとみられたマドリーだが、ベティスとの関係性も考慮して結局は獲得を見送った。今度こそ、の思いは強い。
バルサはどうだろうか。この夏の補強の目玉としていたパリ・サンジェルマンMFマルコ・ヴェッラッティ獲得が暗礁に乗り上げつつある。アーセナルDFエクトル・ベジェリンの復帰話も現実感が薄れている。
先日FWリオネル・メッシの契約延長でファンを安堵させたところだが、セバジョス争奪戦でマドリーに軍配が上がれば、『スポルト』『ムンド・デポルティボ』などカタルーニャメディアは峻烈な論調でバルサに襲い掛かるだろう。
ベティスもセバジョス慰留を諦めたわけではない。2020年までの契約延長、契約解除金を3000万ユーロ(約38億円)に引き上げる新契約を提示。マドリーか、バルサか。あるいはベティスに残留するか。4日にベティスと会合を開いたセバジョスは、今後2週間以内に決断を下す考えだ。