乾貴士がエイバルで活躍する理由。知られざるプロ意識の高さで勝ち取った評価

エイバルの左サイドで疾風の如く駆ける乾(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

“成功”という言葉に、違和感を感じる人もいるかもしれない。だが、エイバルの乾貴士が日本人選手にとって未経験の世界に足を踏み入れているのは確かだ。

リーガエスパニョーラで、成功を収められる日本人選手はいない。いつからかそれは通説となり、不思議な魔力をもって、この地を訪れるハポネセス(日本人)を苦しめてきた。

その壁を、ぶち破りつつある選手がいる。それが乾だ。乾は移籍1年目の昨季、リーガで27試合に出場。今季もここまで26試合に出場し、ホセ・ルイス・メンディリバル監督の信頼を完全に勝ち取ってスペインでトップ10に入るチームで主力の座を射止めている。

■連携力の高さ

乾がエイバルで定位置を確保できた理由のひとつに、連携力の高さが挙げられるだろう。コンパニェリスモ(団結精神)を自然とパフォーマンスに反映させられる。彼が関与することで、プレーに流れができる。しかも、滅多にボールを失うことがない。

「チームメートたちが、僕にも言っていましたからね。『タカとは本当にやりやすいんだ』と」

昨季、乾の通訳としてエイバルに帯同していた岡崎篤氏は言う。2014年にUEFAプロライセンスを取り、現在もバスクでユースチームの監督を務めている岡崎氏は、乾の適応をピッチ内外で支えていた。

「小さい頃から、タカシはスペインでプレーするのが夢だったみたいですね。ずっと行きたかったスペイン。そこで負けられないと思ったんでしょう」

メンディリバル監督の乾評も、同じ線を辿っている。「彼の良い部分は、チームメートとうまくコンビネーションをしてくれるところ。それと、いつも良いポジションを取っていることだ」。指揮官が、味方が、彼の良さについて共通の認識をしているのである。

■試合に腐らない選手として評価を高める

リーガにおける競争力は半端ではない。

乾は昨季MFコケ・ガイタン(現マラガ)、サウール・ベルホン(現オビエド)らとのポジション争いに身を投じた。アトレティコ・マドリー下部組織出身のコケ、バルセロナBやラス・パルマスでのプレー経験があったサウールとサイドハーフの枠をめぐり、しのぎを削った。

今季開幕前には、ジョゼ・モウリーニョ政権のレアル・マドリーに所属していたMFペドロ・レオン、19歳でマンチェスター・ユナイテッド入りを果たした経緯を持つベベが加入した。コケとサウールが移籍した一方で、新たなに強力なライバルが現れた。

当然、厳しい競争の中で試合に出られない時期も出てくる。だが乾は決して腐らなかった。

昨季のリーガ第21節、敵地サン・マメスでのアスレティック・ビルバオ戦。チームが2-5で敗れた試合に、乾は出場しなかった。その前の2試合でスタメンに名を連ね、2試合連続ゴールを決めていたにもかかわらず、である。

素晴らしい雰囲気に包まれるサン・マメスでの一戦には、スペイン人選手でさえ出場に憧れを抱く。試合翌日、出ていないメンバーが集まって、雑談をしていた。

「『なんでタカは出られなかったんだろうな?』とあるチームメートが疑問を投げかけたんです」

「タカシは『いや、また来年出ればいいんじゃないかな』と答えていましたね。平然としていたんですよ。それに対してチームメートが『オマエって偉大だよな...』と応じる、みたいなことがありました(笑)」

繰り返しになるが、競争力の高いチーム、またはリーグを選んだ以上、試合に出られない時期はやってくる。そしてそれが4試合、5試合と続けば続くほどきつくなってくる。

しかし、乾は違った。出場機会が訪れない時期に、彼はチーム内での評価を高めていったのだ。

「『監督は本当にタカの練習姿勢に感謝しているよ』と、あるスタッフに言われたことがあります。彼がいるから、練習が締まるんだ、と言っていました。また、そういうところをチームメートも見ているわけですからね」(岡崎氏)

誰も見ていないような場所で、人は手を抜きがちだ。しかし、そこでも全力を尽くせた人間にのみ、救いの手が差し伸べられる。乾がスペインで活躍できているのは、決して偶然ではない。

東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。カンプ・ノウでメッシの5人抜きを目の当たりにして衝撃を受ける。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。過去・現在の投稿媒体は『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』等。『Foot! MARTES』出演。

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