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物流業界におけるSDGsへの取り組み 冷凍輸送事業者の倉庫や物流センターの冷凍機の自然冷媒化が進む

森田富士夫物流ジャーナリスト
冷凍倉庫の冷凍機の自然冷媒化が進む(写真:イメージマート)

 2015年の国連総会で採択・決議されたSDGs(持続可能な開発目標)では、持続可能な社会の実現を目指して、世界共通の17のゴール(目標)が示された。これら17のゴールは総て目指さなければならない。とりわけ物流業界においては、7の「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」が現実的な大きな課題だ。

 トラック運送事業者の最大の生産手段であるトラックの排出ガス削減の追求は当然である。燃料価格の高騰下では経営的な面からも省エネ運転は重要になっている。また、様々な物流施設や関連機器などに必要なエネルギー使用量を削減し、クリーンな経営に努めなければならない。

 運送事業者にとってはトラックの代替え燃料が何になるのかも大きな関心時である。だが、運送事業者はトラックを使用して事業を行う立場であり、代替え燃料の行方はトラックメーカーの技術開発や社会的な法規制などの動向を注視するしかない。開発された環境負荷の少ないトラックを導入し、法令に則って事業を行って行くだけである。

 一方、冷凍輸送業界では冷凍冷蔵倉庫や物流センターが必要で、トラックと同様に重要な生産手段である。そのため冷凍輸送事業者にとっては冷凍冷蔵倉庫や物流センターで使用する冷凍機の冷媒を従来のフロンから、より環境負荷の少ない特定フロン(CFC、HCFC)や代替フロン(HFC)などに切り替えて環境負荷の軽減を図ることが必要になっている。

 だが、特定フロンはオゾン層に、また代替フロンは地球温暖化にそれぞれ悪影響を及ぼす。そのため2016年のモントリオール議定書で2020年に特定フロンは先進国で禁止、さらに同議定書のギガリ改正で代替フロンも2036年までの削減スケジュールが設定された。

非石化燃料車両、高速道路走行速度の社内ルール化、太陽光発電、倉庫やセンターの内部陽圧など冷凍輸送事業者のSDGsへの様々な取り組み

 このような世界的な動きを受けて、冷凍冷蔵倉庫や物流センターの冷凍機に使用する冷媒を自然冷媒にする方針を打ち出す冷凍輸送事業者が増えてきた。

 これは冷凍輸送事業者には限らないが、トラック運送業界では燃費の良い低炭素型ディーゼル車やアイドリングストップ機能付き車両、PHEV車(充電可能なハイブリッド車)、電気自動車の導入などを進めている。また、再生タイヤの使用などCO2排出量の削減に取り組んでいる。

 走行においても、一般道路の走行速度を設定したり、高速道路走行速度制限を社内ルールで時速80キロメートルと決めて順守するとともにエコドライブを徹底している事業者もいる。

 そのような中で冷凍輸送事業者では、冷凍冷蔵倉庫や物流センターに内部陽圧ユニットを備えている事業者が少なくない。内部陽圧というのは、庫内の空気圧をやや高めに維持することで、外気の流入を防ぐとともに、庫内環境を衛生的に保つようにする仕組みだ。冷凍機で庫内を必要な温度に冷やしていても、ドアの開閉などで暖かい外気が入ってくると庫内温度が上昇する。すると必要な温度に保つために冷凍機で冷やすことになる。そのようなエネルギーロスを最小限に抑えるようにしているのである。

 また、電力消費の抑制でもデマンド監視装置でピーク時の電力使用量を抑制するとともに、太陽光発電パネルを設置して電気を自家消費することで、購入電気量の削減に努めている。

 ある冷凍輸送事業者の最近のSDGsへの取り組みでは、保有する一部の大型冷凍車(25トン車)の荷台の屋根に太陽光パネルを取り付け、トラックの下部にはチャージコントローラーを設置して実証実験をしている。

 これはダイナモ(エンジン直結の直流電流発電)の負荷を軽減して燃費向上(約5%と試算)を図るのが狙いだ。この事業者はCO2排出量を削減し、バッテリーの寿命延長も期待できるとしている。また、チャージコントローラーによってデータ通信を行い、太陽光パネルの発電量を随時、確認できるシステムである。

 ほとんどの冷凍車はエンジンと直結する冷凍機を搭載している。走行するためのエンジンに使用する燃料(軽油)で車載冷凍機も動かしているのだ。走行のためのエンジンと、車載冷凍機を動かすエンジンを分離したサブエンジン方式もあるが、いずれにしても庫内温度を保つための燃料を消費している。それをトラックの荷台の屋根に設置した太陽光発電で省エネ化しようという実証実験である。

 同様に最近の冷凍冷蔵倉庫や物流センターでは、屋根に太陽光パネルを設置するのがほぼスタンダードになっている。ある事業者が昨年竣工した冷凍物流センターでは、消費電力の約20%、昼間使用する電力の最大40%を自社発電の電気で賄っているという。

 さらにTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures=気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言への賛同を役員会で決議し、TCFDコンソーシアムに入会した冷凍輸送事業者もいる。

 TCFDはG20の要請を受けて金融安定理事会(各国の金融関連省庁や中央銀行で構成する国際金融に関する監督業務をする機関)により、気候関連の情報開示や金融機関の対応を検討するために企業などにガバナンス、戦略、リスクマネジメント、指標と目標を開示することを奨励する機関。社会的な責任を担う物流事業者としてSDGsへの取り組みを強化して持続可能な物流の構築に努める取り組みだ。

これから新設する冷凍冷蔵倉庫や物流センターの冷凍機では自然冷媒100%を打ち出す冷凍輸送事業者が増加

 これらの取り組みの一環として、今後、新設する冷凍冷蔵倉庫や物流センターでは、冷凍機の冷媒を自然冷媒にする方針を打ち出す冷凍輸送事業者が増えてきた。

 環境省、経済産業省、国土交通省が出している「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(フロン排出抑制法)」によると、フロン類とはフルオロカーボン(フッ素と炭素の化合物)の総称で、CFC(クロロフルオロカーボン)、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)、HFC(ハイドロフルオロカーボン)などを指している。フロン類は科学的な安定性が高く人体への毒性が小さいので、各種の冷媒として使用されてきた。だが、オゾン層の破壊や地球温暖化への影響などから、影響の少ないフロン類(代替フロン)や他の物質への代替えが進められてきた。

 特定フロン(CFC、HCFC)は、オゾン層を破壊して温暖化への影響も大きいとされる。それに対して代替えフロン(HFC)は、オゾン層は破壊しないが温暖化には影響する。さらにグリーン冷媒(ノンフロン)では、オゾン層を破壊せず温暖化への影響も小さいとされている。

 このような中で、冷凍輸送事業者各社の冷凍機の自然冷媒化への動きとしては「アンモニアCO2」や「CO2直膨」の採用が当面の流れになっているようだ。

 フロン類(特定フロン、代替フロン)に替わる自然冷媒にはアンモニアがある。だが「アンモニア単体もあるが有害なので単体では使わない」(事業者)という。そこでアンモニアCO2だが、これは冷凍倉庫の壁の外側でアンモニアを圧縮し、熱交換で壁の内側のCO2を冷却して庫内を冷やす、という方法のようだ。

 それに対してCO2直膨は、CO2を圧縮して液化し、その気化熱で冷却する方法である。なお念のために記しておくとアンモニアCO2やCO2直膨では、自然界にあるCO2を利用しているので、新たにCO2を作って排出するものではない。そのため大気中のCO2を増やすことのない、いわゆるカーボンニュートラルである。

冷凍冷蔵倉庫や物流センターの仕様や立地条件などからSDGsと経済合理性のバランスを考えて自然冷媒を選択

 先述のように現在の時点では、従来の特定フロンに替わるものとして代替フロン、アンモニアCO2、CO2直膨がある。このうち、代替フロンは2036年までに削減スケジュールが示されている。「さらに『外圧』などによって削減スケジュールが変更され、前倒しされる可能性もある」(業界関係者)。

 では、自然冷媒として何を選択するのか。求められる温度や庫内容積などによって必要な冷凍設備が違ってくるが、「純粋に冷やすだけなら代替フロンが一番安い」(業界関係者)という。だが、代替フロンは削減スケジュールがあり、さらに前倒しの可能性もあるために、設備投資の判断としては不確定要素が多い。

 そこで、ある冷凍輸送事業者は、どの冷媒を採用するかは、1求められる温度、2倉庫の立地条件、3費用対効果、4その冷媒の法的な期限などから判断するとしている。

 たとえばアンモニアCO2は、アンモニアが庫外でCO2が庫内なので設備が大きくなる。また、アンモニアは屋外なので保管している商品などの安全性には問題ないが、外部の毒性などの危険性は完全には排除できない。

 一方、CO2直膨は安全性は高いが、外部環境(外気温など)の影響を受けやすい。圧縮して液化するために電気を使用するが、外気温が高いと圧縮効率が低下して使用する電気量が多くなる。そのため、ある事業者は「CO2直膨は外気温の低い関東以北の倉庫で使用する」という。

 また、「アンモニアCO2やCO2直膨などは、必要とされる温度帯が摂氏2~6度では費用対効果が望めない」(業界関係者)。そのためチルド帯の冷蔵庫や物流センターでの使用は当面、考えていないという事業者もいる。

 さらに今後、冷凍機メーカーなどによって新たな冷媒が開発されれば、事業者としては選択肢が増えることになる。だが当面はアンモニアCO2かCO2直膨ということになる。

 自然冷媒100%を掲げるある冷凍輸送事業者は、「基本的にはCO2直膨で行く方針」という。これは投資対効果といった経済合理性に基づく判断のようだ。この事業者の場合、温度帯で見ると「当社の物流センターは基本的にはチルドとフローズンの両方だが、割合としてはフローズンが多い」。

 そして物流センターのタイプ別では、「TC(Transfer Center=通過型物流センター)で、DC(Distribution Center=保管型物流センター)ではない。DCは保管型なのでドアの開閉がTCに比べて少なく、それだけ保温効率が良いが、TCはドアの開閉頻度が高いので外気温の影響を受け庫内温度が上昇しやすいために冷凍機に負荷がかかるので故障のリスクも大きくなる」(同事業者)。

 このようなことから、この事業者は「DCなら大きな冷凍機でも良いが、当社はTCなのでCO2直膨の小さな冷凍機をたくさん設置する」。また、同じような理由から、費用対効果を考えて内部陽圧は導入しないという。

 このように、冷凍冷蔵倉庫や物流センターの使用条件や立地条件などにより、SDGsと経済合理性のバランスを考えながら冷凍機の自然冷媒化が進められている。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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