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燃料高騰の中で価格転嫁に苦しむ運送事業者 業界団体は対策本部、国交省も相談窓口を設置

森田富士夫物流ジャーナリスト
燃料価格高騰(提供:イメージマート)

 燃料価格が高騰し、多少の変動はあるものの高止まりで推移している。これは政府が石油元売りに補助金を出して価格高騰を抑えているからで、補助金がなければ価格はもっと上がるだろう。さらにウクライナ情勢や円安基調など、今後も燃料価格は値上がりする要素が多い。

 だが、トリガー条項の凍結解除は当面しないようだ。トリガー条項とはガソリンの全国平均価格が3カ月平均でリッター160円を超えると、53.8円/ℓのガソリン税のうちの特別税25.1円/ℓの課税を停止するというもの。それに伴いトラック燃料の軽油も軽油引取税32.1円/ℓのうち17.1円/ℓの適用が停止される。このトリガー条項は東日本大震災後に発動が凍結されたが、凍結解除には手続きが必要になる。政府は補助金の額で価格調整をする方針のようだ。

 では、トラック燃料の軽油価格はこの1年間でどれくらい値上がりしたのか。資源エネルギー庁の石油製品価格調査によると、今年2月の全国平均の軽油インタンク価格は125.8円/ℓで、昨年2月の99.9円/ℓと比べ、この1年間にリッター当たり25.9円(上昇率25.9%)も高騰した。この価格には軽油引取税(32.1円/ℓ)は含まれているが、消費税は含まれていない(消費税は軽油引取税を除いた価格に課せられる)。

 なお、インタンクとは大量に軽油を消費する運送会社が自社内に燃料タンクを設置していることを言う。タンクローリーで運ばれてきて購入するのでスタンド価格より安い。ちなみに同調査によるとスタンドで購入する店頭価格は、4月11日現在で142.6円/ℓである(消費税込みでは153.7円/ℓ)。

 この1年間でインタンクでも約26%の値上がりだ。スタンド買いをしている運送事業者はインタンクより燃料価格が高く、値上がり幅も大きい。

コロナやウクライナ情勢等で「原材料や物流費が高騰」と報道されているが、国内物流費はさほど上がっていない

 最近は食料品や日用品などが軒並み値上がりしている。消費財の値上がりは日々の生活に直結しているので、収入が増えないと生活が厳しくなる。メーカーは商品値上げの理由を「原材料や物流費の高騰」と説明している。そのため、ほとんどの人は物流コストが上昇していると受け止めているだろう。しかし「物流費の高騰」は輸入など国際物流のコストであって、国内貨物輸送の90%以上(重量ベース)を担っているトラックの運賃はほとんど上がっていない。

 日本銀行の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)をみると、国際物流と国内物流のコスト上昇の差が分かる。2022年1月の道路貨物輸送の指数は110.9(訂正値)で、21年1月の110.7(確報)と比べて僅か0.2ポイントしか上昇していない。また、20年1月は110.4(確報)なので2年間でも差は0.5ポイントだ。

 それに対して外航貨物輸送は2020年1月の114.5(確報)から、22年1月では126.4なので、2年間に11.9ポイントも高くなっている。ここからも商品値上げの理由の1つにされている「物流費の高騰」は国際間の物流費であり、国内のトラック運賃ではないことが分かる。

 資源エネルギー庁の数値と個々の事業者の購入価格は必ずしも一致しないが、全国の事業者の声を聴いてみよう。「スタンド契約が131円/ℓで、インタンクが115円/ℓ。昨年3月の決算では年間の燃料代が6400万円だったが、今年3月決算では7900万円なので1年で1500万円のアップ」(北海道)。「今年3月決算では前年度より燃料費が4000万円増えた。燃料高騰分だけで売上高のほぼ1%になっている」(東北)。「これまでは売上高に対する燃料費の割合が5~6%だった。仕事の内容も変わっているので単純比較はできないが、現在は12~13%になっている」(中部)。「1年前と比べると燃料は40%ぐらい上がっている。金額にすると月80~100万円増である」(近畿)。

 「2020年9月決算は平均81.252円/ℓだったが21年9月期では89.359円/ℓ、21年10月から22年3月の6カ月平均は107.719円/ℓになっている。その後4月9日では112.7円/ℓになった」(四国)。「今年3月決算では前年度と比べて燃料支出が4535万円増えた。その結果15年ぶりの赤字決算になった。21年度の燃料価格は平均105.5円/ℓで、それを上回ったのは08年度の105.6円/ℓと13年度の109.4円/ℓの2回だけ。だが、過去2回はいずれも黒字だった。昨年度が赤字になったのは燃料以外にコロナの影響、それに水害がある。また、この間に賃金が上がった」(九州)。

運賃値上げ交渉も燃料サーチャージの導入もできない事業者が多数の中で、「勇気」をもって交渉した事業者も

 輸送品目別にみると生コンクリート輸送のミキサー車は燃費が悪い。ある事業者は「10t車で燃費は2Km/ℓ(普通の10t車は3.5~4Km/ℓぐらい)。生コン輸送はJIS規格で生産から打設まで90分以内となっているので輸送距離は短いが、空でもミキサーが常時回っている。そのため走行距離は1日100Kmぐらいだが燃料は50ℓぐらい消費する。1日1台当たり1600円のコストアップになっている」(関東)という。

 このように軽油が高騰して、契約時の価格より高くなった差額分を請求する燃料サーチャージ導入の必要性が高まっている。だが、現実には取引先とのサーチャージ交渉が難しいという事業者が少なくない。「サーチャージは雰囲気的に難しい。今年に入ってから物量が減少しているので荷主は消極的だ。荷主も業種で業績にバラつきがある」(北陸信越)。「荷主の業種によって条件が違うので難しい。半導体など国際的なサプライチェーンの関係で工場の稼働を止めたりしている取引先もある」(中国)。

 一方、サーチャージを導入している事業者もいる。「100Kmで1000円の燃料コスト増になっている。1台当たり月に2.5万円から3万円のコスト増なので走行距離が100Kmを超える取引先には昨年秋からサーチャージを導入し、契約時点の価格との差額をもらっている。今後、さらに値上がりしたら100Km以下の荷主にもサーチャージを導入していく。スポットの仕事は、その都度、今回は運賃プラスいくらと提示する。サーチャージを断る荷主はいない」(沖縄)。

 上場企業など大手荷主は多数の運送事業者と契約している。そのような大企業の1社から、「サーチャージを言ってきたのはお宅だけだと言われたので、当社がトップバッターですと交渉して実現した」(近畿)という中小事業者もいる。

 サーチャージを実現している事業者はこぞって「正面からサーチャージのお願いに伺いたいと言うと断る企業はほとんどない」という。その理由は「価格転嫁の要請に下手に対応すると下請法や独禁法に抵触する可能性があることを知っているから」(関東)のようだ。

国交省も全国の運輸支局に相談窓口を設置、一部の地方自治体ではトラック、バス、タクシー事業者に補助金も

 働き方改革関連法で2024年4月から自動車運転業務の時間外労働の上限規制が年960時間になる。いわゆる「2024年問題」をほとんどの荷主企業は知っている。「法令を順守した運送事業者を確保できなければ運べなくなるという危機意識がある」(大手メーカー物流部長)。そこで燃料サーチャージにも可能な限り対応しなければという認識が徐々に広がりつつあるようだ。

 とはいえ運送事業者の9割以上が中小企業なので、多くの事業者は燃料サーチャージや運賃値上げなどの交渉力が弱い。また、躊躇して交渉に踏み出せないでいる事業者も多い。そこで業界団体の全日本トラック協会では燃料価格高騰対策本部を設置。日本バス協会や全国ハイヤー・タクシー連合会と連携して、関係省庁や各政党などに要請活動をするなど、「コストに見合った適正な運賃・料金の収受及び燃料サーチャージ導入促進等価格転嫁対策に係る諸施策の実施」に取り組んでいる。

 国土交通省でも本省はじめ各地方運輸局、全国の運輸支局内にトラック運送適正取引相談窓口を設けるなど、事業者支援の体制を整えている。

 このような運送事業者の窮状に、バスやタクシー事業者も含めて補助金を出す自治体も見られる。たとえば宮城県気仙沼市と多賀城市では2021年10月から22年3月までの6カ月間で、燃料価格が高かった3カ月分について3円/ℓの補助金を出した。その他にも運送事業者を支援している自治体がある。

 最近は様々な商品が値上がりしているが、それ以前に商品が店頭まで運べなくなってしまったら、値段云々の話ではなくなってしまう。物流サービスの安定的な確保のためには、運送事業者の健全な経営の維持が前提になる。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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