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飲食宅配自転車の事故防止へ 道路整備・運営会社責任・交通ルール徹底・譲り合い

森田富士夫物流ジャーナリスト
急増するフードデリバリー(写真:アフロ)

 コロナ禍の巣ごもり需要もあってフードデリバリー(飲食宅配サービス)が増えている。拡大する飲食宅配サービスを支えているのがギグワーカーあるいはオンコールワーカーといわれる人たちで、雇用契約ではなく業務委託契約の自営業者である。業界全体の正確な実態は分からないが、全国に10万人もの配達員を擁している大手飲食宅配会社もあるようだ。配達員は原動機付自転車や自動二輪車で配達している人もいるが、ほとんどは自転車で宅配をしている。自転車でもスポーツタイプを多く見かける。

 それらの自転車の中には、交通ルールを無視して危険な走行をする人がいる。危険を感じる歩行者も多いはずだ。また、トラックドライバーにとっては事故を防ぐため精神的な負担が大きい。歩行者は自転車の被害者になるが、トラックドライバーは「加害者」にされてしまう。相手に事故原因があったとしても、責任が0対100になるケースはほとんどないからだ。もちろん責任の有無に関わらず、自転車の運転者にケガを負わせてしまったら、お互いが不幸になってしまう。

自転車の交通事故は減少傾向だが業務中の自転車事故は増加、トラックドライバーの95%が「危ない」を実感

 事業用貨物自動車が第1当事者の死傷者数(死者・重傷者・軽傷者計)は近年、減少傾向にある。全日本トラック協会の「事業用貨物自動車の交通事故の発生状況」によれば、事業用貨物自動車の死傷者数は2017年1万8890人、18年1万7768人、19年1万5283人と減少している。そのうち第2当事者が自転車の事故も17年1605人、18年1467人、19年1419人と減っている。だが、事故全体に占める自転車が第2当事者の事故比率は17年の8.5%から19年は9.3%に上昇している。

 この点について「自転車事故の比率が増えているのは飲食宅配の増加とも呼応している」と指摘する声もある。今年3月10日の衆院国土交通委員会における松田功委員(立憲民主)の自転車乗車中の死者数についての質問に対し、警察庁は2020年中の自転車関連事故は全体件数で前年比-5.9%の約6万8000件だが、業務運転中の事故は+3.6%の1281件になっているとしている(国土交通委員会議事録より)。

 全日本運輸産業労働組合連合会(運輸労連)では昨年11月に、「自転車および中食デリバリーの危険走行に関するドライバーアンケート」を各単組に所属するドライバーを対象に実施し、9148人から回答を得て集計した。同調査によると、二輪車等の走行マナーについて、運転中に二輪車等が「危ないな」と感じることが「よくある」53%、「たまにある」42%で、実に95%のドライバーが危険を感じている。また、走行中の乗務車両(台車を含む)から見た自転車の走行ルール・マナー違反で危険を感じる行為をみると、「すり抜け」「スマートフォン等のながら走行」「イヤホン等で音楽を聴きながらの走行」「周囲を気にしていない」「影・死角からの飛び出し」が上位になっている。なお、「ながら走行」は、ドライバーがそう受け止めているというものである。

 各項目とも危険を感じるという回答数が多いのは、5トン未満のトラックに乗務しているドライバーだ。また業種別では宅配のドライバーが、どの項目でも危険を感じるという回答数が多くなっている。これは幹線道路や高速道路を走行することが多い大型車よりも、店舗配送や宅配など普通車や小型車で生活密着道路を走行しているドライバーの方が、交通ルールやマナー無視の自転車に遭遇する機会が多いことを表している。

自転車・歩行者分離道路の総距離は2930キロメートルでその約7割が車道混在、トラックドライバーは危険を感じさせないよう注意して走行

 日本には現在、自転車と歩行者を分離した道路として自転車専用道路、自転車道、自転車専用通行帯、車道混在の4つがある。先の衆院国土交通委員会で松田委員は自転車通行空間の整備状況についても質問している。それに対して国交省は、2020年3月末における自転車通行空間の整備延長は2930キロメートルで、うち車道混在が約7割としている。車道混在形態は自動車の速度が低く交通量が少ない場合や、他の整備形態が当面困難だが自転車の安全性を速やかに向上させなければならない場合に採用しているとし、自転車道や自転車専用通行帯の整備を検討する必要があると答弁した(議事録より)。

 また、警察庁によると車道混在の通行道路に設置されている矢羽根路面標示等は、自転車の通行位置を示し、自動車には自転車が車道内で混在することを注意喚起するもの。普通自転車専用通行帯は、普通自転車が通行しなければならない専用通行帯を指定するもので普通自転車を含む軽車両以外の車両は通行してはならないとしている(同)。

 さらに赤羽国交大臣は、自転車活用社会の推進と道路利用者全体の安全性確保に向けて、自転車活用推進本部を設置して検討しており、各省庁と連携しながら歩行者、自転車、自動車の交通安全確保のため適切に分離された通行空間の整備、交通安全ルールの徹底などの取り組みを進めるとしている(同)。

 いずれにしても現在は自転車・歩行者分離道路の約7割が車道混在型で、自転車の交通ルール無視の走行が横行している。運輸労連の調査によると、自転車の危険を感じる行為の上位3位は、「スマートフォン等のながら走行」「イヤホン等で音楽を聴きながらの走行」「すり抜け」となっている。それに対して原動機付自転車と自動二輪車は1位から3位までが同じで、「すり抜け」「速度超過」「周囲を気にしていない」の順になっている(ドライバーの受け止め方)。

 そのような中で、逆に自転車に危険を感じさせてしまうこともある。自転車専用レーン付近や車道混在区間等で運転をする際、自転車に対して危険を感じさせてしまったと思うことが「よくある」13%、「たまにある」48%で、約6割のドライバーが自転車に危険を感じさせてしまったと自覚しているようだ。自転車に危険と思わせてしまう行為では、右左折、追い越し、接近、並走、ドアの開閉などが上位になっている。

小型モビリティの普及を見越し行政の規制の必要や安全対策、飲食宅配会社の安全教育や交通ルールの徹底、ドライバーの譲り合いの精神などが必要

 ドライバーの安全運転はもちろんだが、同時に「自転車等に対する街頭での指導・取り締まり」「法規制の強化」「飲食宅配運営会社への指導」などを求める声も多い。

 先述の国土交通員会で国交省は貨物運送事業法における飲食宅配の位置づけについて、排気量が125ccを超えるオートバイでの有償運送行為は規制の対象だが、それ以下の小さな車体では活動範囲や輸送能力が限定されるため規制は行っていない。飲食宅配も規制の対象外だが、事業者の自主的な取り組みを注視している。また、厚労省は飲食宅配の配達員は必ずしも労働者ではないが、配達員の事故防止などが課題になっていることを踏まえ、国交省、警察庁など関係省庁と連携して、昨年10月に飲食店関係の業界団体に配達員の事故防止のための取り組みを要請している。さらに警察庁も、関係団体に配達員に対する交通ルールの徹底などの協力を依頼し、同時に都道府県警察においても自転車安全講習の開催や、その他の安全対策を実施しているとしている(以上、議事録より)。

 一方、飲食宅配の大手各社も、今年2月に一般社団法人日本フードデリバリーサービス協会を設立した。設立時の会員数は正会員A5社、正会員B8社の13社。同協会では交通トラブルや配送における諸課題の顕在化を踏まえ安心・安全にサービスを利用できる環境整備に取り組み、利用者の利便性の向上とサービスの発展に努めていく方針だ。それに対して働く側でも、Uber Eatsの配達員たちが一昨年10月にウーバーイーツユニオンを結成。「事故やケガの補償」「運営の透明性」「適切な報酬」を3本柱に活動している。

 飲食宅配の自転車等に限らず、今後はさらにモペットや電動キックスケーター、その他の小型モビリティの多様化と増加が予想される。警察庁の「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」では歩道通行車、小型低速車、既存の原動機付自転車など小型モビリティの交通ルールなどを検討している。とはいえ小型モビリティの多様化や普及は、歩行者はもちろん、商店街などを運転する店舗配送車や宅配便のドライバーにとっては精神的負荷の増大につながることが予想される。

 飲食宅配の自転車やその他の小型モビリティの事故を減らすには、飲食宅配会社の責任(安全教育や事故に対する補償など)、自転車や小型モビリティの走行者に対する交通ルールの徹底(交通違反に対する罰則など)、自転車専用道路の設置など交通インフラの整備などの対策が必要だ。一方、トラックドライバーも交通ルールを再認識するとともに譲り合いの精神を持つなど、安全対策には社会全体で取り組んでいかなければならない。

 ドライバーのAさんは「自動車側も自分たちが優先という考え方を捨てなくてはいけない」(運輸労連調査の自由回答より)。またBさんは「事故を少なくするためには、お互いが相手の車両の動きをよく見て尊重し合うことが大事」(同)という。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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