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アメリカ史上初、ダブルハリケーン「ローラ」と「マルコ」連続上陸か 

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
左が「マルコ」、右が「ローラ」(出典: NOAA)

モンゴルほどの小さな面積ながら、強いハリケーンを発生させることで有名なメキシコ湾。そんなメキシコ湾でも、あり得ないとされてきたことが現実になろうとしています。その記録とは、ハリケーンの連続上陸です。

「ローラ」と「マルコ」

国立ハリケーンセンター発表の予想進路図 (左ローラ、右マルコ)
国立ハリケーンセンター発表の予想進路図 (左ローラ、右マルコ)

現在カリブ海とメキシコ湾に二つの嵐が発生しています。1つは今年12号の「ローラ(Laura)」で、2つ目が13号の「マルコ(Marco)」です。

【ローラ】

ローラは週末、カリブ海のハイチやドミニカ共和国などを直撃し、11人の死者を出すなど被害をもたらしました。

現在はハリケーンよりもひと段階弱いトロピカルストームの勢力ですが、現地時間25日(火)にもメキシコ湾でハリケーンへと発達する見込みです。その後27日(木)未明までに、アメリカ南部ルイジアナ州に上陸する予想となっています。

【マルコ】

一方マルコは、ハリケーンの勢力で24日(月)にルイジアナ州に上陸する可能性が高まっています。

つまり、マルコが上陸した48時間以内に、同じルイジアナ州をローラが直撃する予想となっているのです。もしこれが現実となると、とんでもないことで、これまでハリケーンが48時間以内に同じ州に上陸した例は一つもありません

ハリケーンの連続上陸が予想されているルイジアナ州では、長期にわたり危機的天候が続くおそれがあると警告されています。

ルイジアナ州と言えば、2005年にハリケーン「カトリーナ」が上陸し、1,800人が亡くなるという大惨事が起きています。ルイジアナ州は海抜が低く、高潮に脆弱な地形である上に、比較的貧しい層の人々が住んでいることから、被害が大きくなりやすいのです。

上の予想進路図を合成 (国立ハリケーンセンターの画像を筆者加工)
上の予想進路図を合成 (国立ハリケーンセンターの画像を筆者加工)

他の記録

メキシコ湾を含む大西洋では、今年記録的な数の嵐が発生しています。実際マルコとローラは、それぞれ観測史上もっとも早くに発生した12号と13号で、例年に比べて2カ月以上も早く発生しました。

その影響をもろに受けているのが、アメリカです。すでに5つのトロピカルストームとハリケーンがアメリカに上陸しています。もし予想通りローラとマルコの2つとも上陸するとなれば7つとなり、8月末までの記録(※)としてはアメリカ史上最多となるのです。

藤原の効果は?

ところで、ハリケーンが近距離で複数存在するとなると、「藤原の効果」が起こるのではないかという疑問が湧いてきます。

「藤原の効果」とは、故・藤原咲平博士が提唱したもので、2つ以上の台風が1,000キロ以内に存在するときに、互いの動きを干渉し合って予想できない複雑な動きをする現象です。英語では「Fujiwhara Effect」と呼ばれています。

今回の場合は、マルコの風の流れにローラが影響され、ローラのスピードが速まるかもしれないということが考えられそうです。

被害が少なくなることを第一に願いつつ、今後のハリケーンの動きについても注視していきたいと思います。

※修正しました。

  • 追記(8/30)

結局のところ、メキシコ湾上におけるダブルハリケーンの発生は現実とはならなかった。ハリケーン・マルコがルイジアナ州上陸前に弱まって、トロピカルストームとなったためである。またマルコが弱まったあとに、ローラがハリケーンへと発達した。ただ、トロピカルストーム上陸の3日以内にハリケーンがともに同じ州に上陸したというのは、非常に稀有な例である。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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