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三国志の「英雄」の生まれ故郷で巨大な竜巻発生 中国北部

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
中国・内モンゴル自治区包頭市の砂漠(写真:アフロ)

『三国志』にも登場し、中国史上特に武力に長けた英雄とされる「呂布(リョフ)」。この人物が生まれたとされるのが、現在の中国・内モンゴル自治区の包頭市です。この英雄を生んだ地で、9日(日)午後、息をのむほど恐ろしい様相をした巨大な竜巻が発生しました。

下がその竜巻を捉えた映像です。

黒雲から円柱の形をした竜巻が地面に伸び、土煙を巻き上げているのが分かります。この竜巻の形状は、アメリカで「煙突型」などと呼ばれることがあります。さらに下半分は、巻き上げた土の影響で茶色くなり、白茶のツートンカラーになっています。

この竜巻が、伝統的な家屋である「ゲル」に突っ込んで、100軒以上に被害を与えたもようです。また観光客ら33人が負傷しました。うち3人は重症ですが、容態は安定しているとのことです。

目撃者の証言

竜巻の目撃者は、当時の様子を梨視頻に下記のように語っています。

「最初は竜巻が小さく見えたが、10秒後には砂埃に襲われた」「急激に周囲が暗くなって、夜のようになった」「気圧の影響か、とても耳が痛かった」

竜巻の中心は周辺と比べて気圧が数十hPaも低いので、近づくと気圧が急変して、耳鳴りなど耳の異常を引き起こすことがあります。

先月も巨大竜巻

内モンゴル自治区は、今年6月24日にも竜巻の直撃を受けています。

下の動画がその竜巻を捉えたものです。見ての通り、かなり巨大な竜巻です。シリンホトという町を直撃しましたが、幸いなことに大きな被害や死者などは出なかったようです。

中国の竜巻事情

世界一の竜巻大国と言われるアメリカでは、年間1,000個以上の竜巻が発生します。一方日本では、年間25個くらいです。では中国はどうでしょう。

2015年のファン氏らの研究によると、年平均は100個程とのことです。ほとんどが弱い竜巻のため、強いものは稀だそうです。これは日本と同じですが、竜巻が発生しやすい海岸線に人口が集中しているため、大きな被害が出やすく、60年間で1,700人以上の人々が竜巻で命を落としているといいます。

なお中国でもっとも竜巻が発生しやすいのが、江蘇省、次いで湖北省、湖南省、山東省、上海です。海岸線か、河川の周辺部分で多くなっています。平地という地理的な要因もあるのでしょう。これらの地域は、今年梅雨前線により記録的な洪水が発生した場所と重なります。

**参考資料**

「Recent Significant Tornadoes in China」Xue氏, Zhao氏ら (PDF)

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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