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新型コロナウイルスで天気予報に影響も、欧州機関が指摘

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
デルタ航空の閑散とした機内 (3月17日)(写真:ロイター/アフロ)

「『天気予報、天気予報』と唱えながら食べれば、アタラナイ」などと、さんざんな言われ方をしていたのは一昔前のこと。今や、翌日の降水確率の精度は85%と、天気予報の水準は高いところまで来ています。 

天気予報を支える空のデータ

その背景には「数値予報」があります。数値予報とは世界中から送られてくる膨大な観測データをもとに、コンピューターが計算を行って天気を予測する方法です。日本の気象庁は1959年から数値予報業務を始めました。

民間航空機も数値予報に用いられるデータの情報源の一つで、一日の観測数は80万件にも及ぶと言われています(2017年時点)。

この航空機の観測データのおかげで、風、湿度、気温の6時間先の予報の誤差が15~30%も減少したという報告もあります。航空機は、人々を安全に目的地に連れていく以外の重要な役割もあるのです。

激減する航空便

しかし、昨今の新型コロナウイルスによる混乱で、飛行機の欠航が相次いでいます。オーストラリアのカンタス航空は国際便をすべて欠航にすると発表したり、イギリスのフライビー航空は倒産したりするなど、衝撃的なニュースも耳にするほどです。

世界全体の欠航便数は1月末から185,000便にも及び、成田空港の航空機の発着回数は、3月1日~21日にかけて昨年の同時期の3分の2に落ち込んだとも伝えられています。

この結果、航空機からの観測データの数が、3月23日には同月3日と比べて世界全体で42%減、欧州では65%減にもなっているのです。

(↑北部大西洋を飛行する航空機の、今と一年前の比較)

予測精度が下がる可能性も

欧州中期予報センター(以下ECMWF)は、この影響で天気予報の精度が下がる可能性があると指摘しています。欧州中期予報センターといえば、世界一当たるといわれるほど高い予報精度を誇る気象機関です。

このECMWFが行った研究では、航空機のデータが全てなくなった場合、北半球の上空の風と気温の予測精度が最大で15%、地上気圧の予測精度は最大3%低下することがわかっています。

アメリカ同時多発テロの例

実はこれまでにも、航空便数の急減が、天気予報に影響を及ぼしたことがありました。

2001年のアメリカ同時多発テロ直後のことです。この時アメリカではすべての航空便の飛行が48時間禁止されました。ウェザーチャンネルによると、この時は3時間先の予報の精度が下がったといいます。

新型コロナウイルスの影響で、すでに多くの航空便が欠航していますが、今後もこうした状況が続くことが予想されています。欠如したデータを穴埋めするために「ラジオゾンデ」と呼ばれるゴム気球による観測をさらに拡充したり、衛星を元にしたデータをより増加させたりするなどの方法が模索されていますが、多かれ少なかれ影響が出てしまう恐れがあるようです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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