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ハリケーン・バリー、アメリカ南部上陸へ この嵐が危険視される理由

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
アメリカ南東岸に接近しているバリーの雲画像 (画像元: NOAA)

バリー(Barry)がメキシコ湾上に発生しています。

周辺のルイジアナ州やテキサス州などでは数日前から天候が荒れており、海上竜巻も発生しました。

ルイジアナ州ニューオーリンズでは10日(水)、7月の月間降水量に相当する150ミリの雨がわずか1時間で降って、道路が冠水するなどの被害が出ました。またメキシコ湾の原油の生産が半減し、原油の先物価格も高騰しています。

バリーの現況と予想

国立ハリケーンセンター発表のバリーの予想進路図に筆者加筆
国立ハリケーンセンター発表のバリーの予想進路図に筆者加筆

12日(金)時点のバリーの中心気圧は993hPa、最大風速は28m/sで、「台風」に相当する「トロピカルストーム」の強さです。メキシコ湾の海水温が30℃以上と温かいこともあり、今後急速に発達して、上陸直前にハリケーンになる可能性も出ています。

バリーは13日(土)ルイジアナ州に上陸して、ミシシッピ川に沿うように北上する見込みです。動きが遅いために雨は来週前半にかけて続き、降水量は多いところ630ミリにも達するおそれが出ています。

バリーが特別危険なわけ

アメリカ国立ハリケーンセンターの予想によると、上陸時のバリーの勢力は最大でも「カテゴリー1」のハリケーンとなっています。カテゴリー1とは、最大風速33~42m/sで、ハリケーンの中では最も弱いランクです。

しかしバリーはとりわけ危険な嵐だとして警戒され、トランプ大統領も11日(木)ルイジアナ州に非常事態宣言を発令しました。

なぜでしょうか。

それは、ミシシッピ川がすでに記録的な水位に達しているためです。アメリカは昨年7月から今年6月にかけて、124年の歴史の中で最も雨の多い12か月間を経験しました。特に春に降った記録的な大雨で、ミシシッピ川の一部では5か月も氾濫危険水位にあります。

ニューオーリンズを流れるミシシッピ川の水位は、普段のこの時期だと2メートル程度ですが、今は5メートル近くもあるようです。さらに今回の大雨で、堤防の高さにほぼ匹敵する5.8メートルまで上昇するおそれも出ています。

カトリーナで甚大な被害が出た理由

ニューオーリンズは2005年、ハリケーン・カトリーナにより壊滅的な被害を受けました。市内の50もの堤防が決壊し、町の80%が冠水したのです。

堤防決壊の理由は、単に水が堤防の高さを越えたのではなく、堤防の下部の部分が十分な深さまで建築されていなかったために、水の圧力で壊れたと言われています。

当局は、今回は堤防決壊のおそれはないとしていますが、今はまだ7月で本格的なハリケーンシーズンはこれからです。記録的大雨で河川の水位が増している今年のアメリカは、例年にも増して洪水への備えと対策が必要となってきます。

追記(7/14): 現地時間13日午後1時頃、バリーはルイジアナ州に上陸しました。上陸時の最大風速は34メートルで、「強い台風」に相当する「カテゴリー1のハリケーン」でした。7月にルイジアナ州にハリケーンが上陸するのは、1851年の統計開始以来4個目とのことです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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