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「マリア」の死者数3,000人に 全米史上2番目のハリケーン被害

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
プエルトリコを直撃しているハリケーン・マリアの衛星画像(提供:NASA/ロイター/アフロ)

今から約1年前、カリブ海のアメリカ自治領プエルトリコにハリケーン・マリアが直撃しました。これまで公式の死者数は64人とされてきましたが、当局は28日(火)その数を2,975人に大幅修正しました。

この死者数は、ハリケーンが直撃した去年9月から、今年2月までのものです。およそ50倍も死者数が増えた理由について、知事は電力が長い間復旧しなかったこと、また食糧や医療品などの供給が十分でなかったことなどを挙げています。しかしこれまで被害を過少に評価してきた背景には、政治的な意図があったのではないかとも囁かれています。

「マリア」とは…

ハリケーン・マリアは、2017年9月20日にプエルトリコに上陸しました。上陸時の中心気圧は917hPa、最大風速は69メートルで、上から2番目に強い「カテゴリー4」の勢力でした。

2日間の降水量は960ミリに達し、島の100%が停電に陥りました。復興がなかなか進まず、電気が完全に復旧するまで328日もかかったといわれています。これは全米史上最長記録です。被災後に自家発電機の燃料切れによって人工呼吸器が作動せず、命を落とした人もいるといいます。

全米史上2番目の人的被害

これまでアメリカに上陸したハリケーンで、最も多くの死者数を出したのは、1900年9月のハリケーン・ガルベストンです。南部テキサス州などで8,000人から12,000人が亡くなったと報告されています。

2番目に死者が多かったのは、1928年9月にフロリダ州やプエルトリコ等を直撃したサンフェリペ・ハリケーン(別名:オキチョビー・ハリケーン)です。この時は2,500人から3,000人が死亡、うち312人がプエルトリコで亡くなったと記録されています。

つまり今回約3,000人が亡くなったと公表されたハリケーン・マリアは、1928年のハリケーンと並ぶか、もしくはそれ以上の被害となり、史上2番目の規模であったということがいえます。

なお、2001年のアメリカ同時多発テロの死者数は2,996人で、マリアの人的被害にほぼ匹敵します。

米気象局などの資料をもとに筆者作成
米気象局などの資料をもとに筆者作成

晩夏ハリケーンは被害が大きい

晩夏というのは、気温のピークは過ぎるものの、海水温はまだまだ高いままで、強いハリケーンが発達します。そのため全米史上最も多くの死者を出したハリケーンの上位3つはすべて、8月後半から9月にかけての夏の終わりに起きています。13年前にルイジアナ州など南部に上陸し、高潮などで甚大な被害を出したハリケーン・カトリーナも、ちょうど今頃の時期に発生しました。

これは日本にとっても同じことで、多数の死者を出した台風のほとんどが9月に集中しています。特に今年は記録的なペースで台風が発生しており、いつもよりも一層、台風への注意や備えが必要といえます。

気象庁の資料をもとに筆者作成
気象庁の資料をもとに筆者作成

*参考資料*

"THE DEADLIEST, COSTLIEST, AND MOST INTENSE UNITED STATES TROPICAL CYCLONES FROM 1851 TO 2010 (NOAA)" 【PDF

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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