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75年間、氷河の下で寄り添い続けた夫婦の遺体発見

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
スイス・アルプスのイメージ写真(写真:アフロ)

先週、南極大陸の棚氷に200キロもの亀裂が入り、観測史上最大級の大きさの氷山ができたとニュースになりました。その規模は三重県の面積とほぼ匹敵するといいます。

一方、ヨーロッパのアルプス山脈では、氷河の融解によって、2体のミイラ化した遺体が見つかっています。

氷の中から見つかった夫婦

DNA鑑定の結果、これらの遺体は、1942年に自宅近くの牧草地に牛の乳搾りに出掛けたまま行方が分からなくなっていた、スイス人夫婦だと断定されました。二人は道中、氷河の割れ目に落ちたものとみられています。遺体は氷に閉じ込められていたため、身に着けていた洋服、靴、リュックまでも完全な形で残されていました。

遺体が発見されたのは、スイス南部バレー州の標高約2600メートルの山塊で、今はスキー場やホテルなどが立ち並ぶエリアです。なんでもこのあたりの氷河は一年間で50センチも後退しているようで、その融解のおかげで、二人の消息が75年の時を経て判明したわけです。

この夫婦には7人もの子供がいたようで、突然いなくなった両親を半世紀以上も探し続けていたかと思うと、胸が締め付けられる思いです。

過去の発見例

アルプスでは昨年にも、1964年に消息を絶ったドイツ人スキーヤーが見つかっている他、二年前には1970年に雪嵐に巻き込まれた二人の日本人登山家の遺体が、マッターホルンの近くで発見されています。

さらに1991年には、五千年前のものとみられる男性のミイラも見つかり、「アイスマン」というあだ名がつけられ、話題になりました。

アルプスの氷河の減少

実態

・ 1850年以降、ヨーロッパの氷河面積の3分の2が消失している。

・ オーストリアのホーンキーズ氷河は一年間で135メートルも後退し、夏場は草花が生い茂るほどになっている。

・ スイスのローヌ氷河は、1856年から約1.5キロも後退し、湖も点在するまでになっている。

こうした事実からもわかるように、ヨーロッパの氷河は一気に融解が進んでいますが、その原因は夏の気温上昇と雪の減少だと言われています。今世紀末には欧州のほとんどの氷河が消えてなくなってしまうと危惧する研究者もいるのです。

氷河融解で起こりうること

氷河の融解はどんな意味を持つのでしょうか。

今回のように行方不明になっていた人が発見されたり、はたまた、太古の時代に生きていた生物などが見つかって、地球の謎の解明につながる可能性もあります。

しかし一方、氷に閉じ込められていた二酸化炭素などが大気中に放出されることで、温暖化を加速する原因にもなりかねないとも指摘されています。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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