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センバツ出場の選手たち 珍しい名字を調べてみた

森岡浩姓氏研究家
甲子園球場(写真:イメージマート)

18日から甲子園球場で高校野球選抜大会が開催される。全国各地の高校が参加することから、中には見たことのない珍しい名字の選手がいることも珍しくはない。そこで、今回出場する選手達の中から珍しい名字の選手をみてみよう。

なお、本記事では漢字の新旧字体は同じとみなした上で、読みによってランク付けしてある。

日本人の名字の総数は10万以上。私は全国名字ランキングで1万位以下が珍しい名字と考えている。そして、2万位以下になるとかなり珍しい。そこで、今回の選抜大会に出場している32校576人の選手の中から、この2万位以下の名字の選手を探してみた。

極めて珍しい名字の選手

カタカナ名字である星稜高エースのマーガード投手を除いて、極めて珍しい名字を持っているのは、和歌山東高の銅屋選手、広陵高の背戸川内選手、大島高の体岡選手の3人。

開幕日の第2試合に登場する銅屋選手は「かなや」と読む。古い時代、金属はすべて「かね」「かな」といった。鉄の産地である島根県の出雲地区は鉄のことを「かね」といい、鉄を産する場所を「金持」(かもち)と呼び、名字にもなった。銅は赤いことから「あかがね」ともいわれたが、単純に「かね」ともいう。「銅屋」はこうした銅を扱っていた人が名乗った名字だろう。

広島市出身の背戸川内選手の読み方は「せとごうち」。これはいかにも広島県の安芸地方らしい名字である。この地域では川沿いに開発された新田のことを「こうち」といい、漢字では「河内」をあてることが多いが「川内」を使うこともある。「背戸」とは家の裏側のこと。つまり、「背戸川内」とは家の裏側の川沿いに開いた新田のことを指している。

奄美大島にある大島高・体岡(たいおか)選手の選手の名字は、鹿児島県喜界島独特の名字だ。体岡選手も喜界中の出身。「体」という漢字を使う名字は珍しく、「たい」という読み方に対する当て字だろう。

この他では、聖光学院高の山浅(やまあさ)選手、広島商の浴口(えきぐち)選手、星稜高の塩士(しおじ)選手の名字もかなり珍しい。予想外の読み方をするのが倉敷工のショート近江選手。これで「おうみ」と読む名字は珍しくないが、近江選手は「ちかえ」である。

珍しそうで実はそうでもない名字

中には珍しそうで実はそうでもない、という名字もある。その代表が、花巻東高の流石部長と、大島高の塗木監督の指導者2人の名字である。

流石部長の読み方は「さすが」。国語辞典で「さすが」と引くと「流石」という漢字が書かれており、難読だが名字だけで使われる特殊な読み方ではない。

また、名字ランキングも7000位台で珍しい名字でもない。とはいえ「流石」は山梨県独特の名字で富士河口湖町に集中しており、他の地域で見ることは少ない。流石部長も富士河口湖高の出身。同町には「貴家」と書いて「さすが」という名字もあり、「さすが」という言葉に後から漢字を宛てた可能性が高い。由来ははっきりしないが、富士講の御師にみられる名字であることから、護身用に懐に入れたり腰に指したりする小刀の「さすが(刺刀)」に由来するのではないかとみている。

一方の塗木監督の読み方は「ぬるき」。こちらはさらに多くて名字ランキング6000位台。ただし、その大半が鹿児島県の南九州市知覧町に集中しており、県外の人が見ることは少ない。江戸時代の薩摩藩では農民を「門」という単位で支配していた。知覧町には塗木門という門があり、名字はこれに因むものだ。「塗木」とは「ぬるで」(白膠木)というウルシ科の木に由来している。

珍しい名字は、何か由来があるからこそ生まれたもので、その背景には地域性が大きくかかわっている。

姓氏研究家

1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」「日本名門・名家大辞典」「47都道府県・名字百科」など多数。2017年から5年間NHK「日本人のおなまえ」にレギュラー出演。

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