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欧州の消費税減税はどう評価されているのか

森信茂樹東京財団政策研究所研究主幹 
(提供:イメージマート)

7月10日の参議院選挙、野党各党は物価対策としての消費税減税・廃止を公約に掲げている。このことを考える上で、実際に消費税減税を実施した、あるいは現在まで継続している欧州諸国の状況を見てみよう。

筆者が調べた限りでは、消費税率を一律引き下げた欧州の国は、ドイツとアイルランドの2か国だけである。フランスはマスク等の医療関係のみ、英国は外食・ホテル・映画館など一部の品目に限定しての時限的引下げである。ちなみに英国はすでに終了している。

一律引き下げたドイツの状況を見てみよう。2020年7月1日から2020年12月31日までの半年間に限定し、標準税率を19%から16%へ3%引き下げ、軽減税率も7%から5%へと引き下げた。外食についてのみ2022 年末までの減税措置が継続されている。

引下げの効果についてシンクタンクの評価を見ると、消費税の引下げが消費増につながった効果は限定的であり期待通りの効果は達成されなかったと結論している。その主な原因は、引下げ分の一部が企業の手元に残ったことを指摘している。(Ifo「Has the Reduction in Value-Added Tax Stimulated Consumption?」https://www.ifo.de/en/publikationen/2021/article-journal/has-reduction-value-added-tax-stimulated-consumption)

また英国ガーディアン紙(2020年7月14日付)は、「多くの企業は消費税引下げ分をポケットに入れる予定だ。ナショナルギャラリーは減税分を美術館の修復に充てる予定だ」と伝えている。(https://www.theguardian.com/business/2020/jul/14/hospitality-vat-cut-may-not-be-passed-on-to-uk-consumers)

わが国の消費税は、若者を含む全世代型社会保障を支える財政的基盤となっている。物価を引き下げる効果の限定的な消費税の減税・廃止という公約は国民に響くだろうか。

東京財団政策研究所研究主幹 

1950年生まれ。法学博士。1973年京都大学卒業後大蔵省入省。主に税制分野を経験。その間ソ連、米国、英国に勤務。大阪大学、東京大学、プリンストン大学で教鞭をとり、財務総合政策研究所長を経て退官。東京財団政策研究所で「税・社会保障調査会」を主宰。(https://www.tkfd.or.jp/search/?freeword=%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E7%82%B9)。(一社)ジャパン・タックス・インスティチュートを運営。著書『日本の税制 どこが問題か』(岩波書店)、『税で日本はよみがえる』(日経新聞出版)、『デジタル経済と税』(同)。デジタル庁、経産省等の有識者会議に参加

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