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マイナンバー口座付番、国はきちんと説明しリーダーシップを発揮すべき

森信茂樹東京財団政策研究所研究主幹 
(写真:つのだよしお/アフロ)

国民全員への10万円の給付金(特別定額給付金)の振込が遅れたことから、突然銀行口座へのマイナンバーのひもづけ(以下、口座付番)が話題になった。高市総務大臣は、「一生ものの口座情報を、1口座のみ、マイナンバーを付番して登録を義務付ける」内容の法案を、次期通常国会にむけて検討すると明言した。これはほんの第一歩だ。

筆者は、民主党時代から番号制度についていろいろ発信をしてきたので、その立場から口座付番を考えてみたい。

口座付番については、番号制度導入時(民主党政権)に義務付けの方向で議論されたのだがまとまらず、番号法施行(15年1月)後3年見直しとして先送りされた。その後18年1月から、預金者に番号告知の義務付けを行うことなく、任意の形で付番が始まった。義務付けではないのでほとんど進んでいない。

欧米では、銀行口座と番号とは当然のこととしてひもづけられ、社会保障給付や納税に使われており、今回新型コロナ対策として迅速な給付が行われた。

わが国で口座付番が進まない理由は何か。最大の理由は、国民の敬遠と政治の無策である。

国民は、口座付番により、国から口座情報を見られるのではないか、監視社会になるといった不安がある。しかし口座に付番したからといって、国が個人の口座内容を勝手に見ることができるわけではない。逆に、付番の有無にかかわらず、税務調査の必要上税務当局が個人の口座内容を見ることは可能である。

マイナンバーはなんのために導入されたのか、原点に返って考える必要がある。マイナンバーは、正式名称を社会保障・税番号といい、「適正・公平な課税」と「社会保障給付・負担の公平化・効率化」を目的として導入された(社会保障・税番号大綱)。

口座に付番をして、所得税、相続税の把握の精度を向上させれば、いい加減な申告をしている者や脱税を排除することができる。現在所得(フロー)基準で決められている様々な社会保障給付や負担を、預貯金残高(ストック)の情報も加味して決めることができれば、国民の公平感はまし、社会保障給付・負担の公平化・効率化に資する。

つまり番号制度の導入理由・趣旨に従えば、預貯金口座付番は当然の流れであるといえよう。

しかし口座付番は、国民には歓迎されないこととして、政治は逃げてきた。冒頭の高市発言は、「給付のための口座付番」であって、番号法の本来の趣旨である「適正・公平な課税」と「社会保障給付・負担の公平化・効率化」のためではない。

政治は、国民に逃げることなく正々堂々と付番の重要性についてきちんと説明する必要がある。その際には、国民の不信感を払しょくするために、透明性のある運営、個人情報保護の一層の整備など信頼度を高める措置や施策が必要なことは言うまでもない。

東京財団政策研究所研究主幹 

1950年生まれ。法学博士。1973年京都大学卒業後大蔵省入省。主に税制分野を経験。その間ソ連、米国、英国に勤務。大阪大学、東京大学、プリンストン大学で教鞭をとり、財務総合政策研究所長を経て退官。東京財団政策研究所で「税・社会保障調査会」を主宰。(https://www.tkfd.or.jp/search/?freeword=%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E7%82%B9)。(一社)ジャパン・タックス・インスティチュートを運営。著書『日本の税制 どこが問題か』(岩波書店)、『税で日本はよみがえる』(日経新聞出版)、『デジタル経済と税』(同)。デジタル庁、経産省等の有識者会議に参加

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