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U18侍JAPAN最終日に一丸でメダル死守! 鮮明になった課題とは?

森本栄浩毎日放送アナウンサー
U18日本代表は最終日に本領を発揮し、銅メダルを獲得した(18年9月筆者撮影)

 米国フロリダ州で開催されているU18野球ワールドカップは日本代表が、2017年以来、2大会ぶりに銅メダルを獲得した。最終日は、継続試合となっていた地元・米国との最終戦で逆転サヨナラ負けを喫したが、同日開催となった韓国との3位決定戦では快勝した。優勝は米国で、チャイニーズタイペイ(台湾)が2位だった。日によって試合内容に大差はあったが、最終日にようやく、日本らしさが発揮された。銅メダルは大健闘と言っていい。

米国戦は最後に金星逃す

 優位に試合を進めた米国戦は、豪雨により前日からの継続試合となった。3-2と逆転に成功し、なおも無死満塁の場面での打ち切りは不運としか言いようがない。再開後に交代した右腕に三者連続三振で追加点を奪えなかったのが、最後に響いた。最終回には、4回から好救援していた左腕・吉村優聖歩(高知・明徳義塾)が初安打されると、バント処理を捕手と二塁手がダブルエラーして無死2、3塁とされた。吉村はボークで同点を許し、代わった野田海人(福岡・九州国際大付)がサヨナラ打を浴びる。完全アウェイの中、手にしかけた「金星」がするりとこぼれ落ちた。

最高の試合で韓国に雪辱

 すでに決勝進出を逃していたとはいえ、継続試合との同日開催となった3位決定戦は、3日前の対戦で力の差を見せつけられた韓国に対し、かなり分が悪いと思われた。しかし、短時間で気持ちを切り替えた日本は、立ち上がりから攻勢を仕掛ける。4番・内海優太(広島・広陵)の適時打で先制したあとの2回には、前回対戦で162キロ(101マイル)を計測して世界を震撼させた韓国の剛腕を攻め、3番・松尾汐恩(大阪桐蔭)の適時打などで一挙5得点のビッグイニングを完成させた。守っては初回のピンチを内野の堅守でしのいだ先発・生盛亜優太(沖縄・興南)が力投。5回からは今大会絶好調の川原嗣貴(大阪桐蔭)がピシャリと韓国打線を抑え、6-2で雪辱した。序盤で主導権を握り、堅守で投手を盛り立てる最高の試合で、最終日に日本のめざすべき姿を体現してみせた。

フィジカルの差を埋めきれず

 しかし同時に、課題も鮮明になった。上位4チームの中で、残念ながらフィジカル(体力)は最も劣る。投手で言えば、150キロをコンスタントに出せる剛腕はいないし、攻撃陣にも外野手を越せる長打力がほとんどない。これを制球力と変化球の精度で補い、バントや機動力で好機を演出する。そして、僅差になっても守備力で競り勝つのが日本代表のめざすゲームプランだった。しかし、国際試合の経験が乏しいこともあって、球審のストライクゾーンに対応できなかったり、粘土質の硬いグラウンドに戸惑ったりした。その結果、守備の乱れが要所で出て、日本らしさを出せずに敗れた試合もあった。

山田は甲子園疲れが抜け切らず

 この世代の前後、つまりU15とU23世代は世界大会での優勝がある。U18はこれまでの最高成績が2位で、近年はアジアの中でも苦戦が続いている。その原因は「甲子園」の存在である。今回のメンバーで今夏の甲子園に出ていないのは内海(センバツ出場)と遊撃手の光弘帆高(大阪・履正社=甲子園未経験)の二人だけ。状態が戻らず、本来のパフォーマンスを発揮できない選手もいた。特に投手陣の柱と期待した主将の山田陽翔(滋賀・近江)が激闘の疲れを引きずったままで、直球が甲子園より平均10キロ近く遅かったのは誤算。米国戦での2日間にわたる救援は見事だったが、吉田輝星(秋田・金足農~日本ハム)や奥川恭伸(石川・星稜~ヤクルト)ら軸になるべき投手が、甲子園のような力を出せなかったことと重なった。

せめて1か月はほしい調整期間

 また攻撃陣の木製バットへの対応はこれまでも指摘されている通りで、球威のある投手には完全に力負けしていた。また今回も、本職ではないポジションを守らされて破綻したシーンがあった。攻守とも寄せ集めで、「即席感」は否めない。さらに秋の新チームに配慮してか、下級生が一人もいなかった。特に左腕は技巧派ばかりで、球威のないきわどい球をボールにする低レベルの球審には泣かされた。前田悠伍(大阪桐蔭2年)を入れていたら、違った結果になったように思う。いずれにしても、チームとして成熟する前に大会が終わった印象で、せめて1か月は調整期間がほしいところだ。

甲子園を逃した選手の選出は?

 チーム構成に目を向けると、代表候補の合宿は夏の地方大会までにやった方がいい。コロナで来年も不透明ではあるが、以前はセンバツ直後に行っていた。夏の甲子園を逃した選手にも代表としての自覚、モチベーションを維持してもらうためにも再開してほしい。今世代にも、甲子園に縁のなかった選手で、ドラフト上位候補はかなりいる。特に野手は早くから招集して、甲子園大会中にでもチームプレーのスキルを上げられれば、攻守ともミスはかなり減らせるだろう。今回、代表を率いた馬淵史郎監督(66=高知・明徳義塾)は現役監督であり、コーチ陣も全員がチームを預かっている。ここにプロ経験者を入れることはできないのだろうか。

首脳陣にプロを入れるなど、代表に特化したチームを

 U12、U15世代は元プロ選手が率い、コーチにもプロ経験者がいる。近年、高校野球の指導に当たれるプロ経験者のハードルが低くなり、甲子園にも元プロ選手の監督が出場するようになった。しかし、U18世代に限っては、代表チームの首脳陣に元プロはいない。高野連主導でチーム構成を決める現在の体制では、プロに対してアレルギーがあるため、監督は高校野球の指導経験者に限るのは理解できる。しかし、自チームの甲子園出場よりも代表の指導を優先させることはできないだろう。大学や社会人で監督経験のある指導者や、アマ野球に理解が深い元プロなどに長い目で選手たちを見てもらい、より代表に特化したチームをつくってもらいたい。

常に甲子園と世界を横にらみで意識する世代

 この大会は今年で30回を数える(原則、隔年開催)。ただ、長く甲子園大会と同時期の開催であったため、日本代表が出場するのは9回目。純然たる高校代表としては、7回目である。つまり、これからも常に夏の甲子園との横にらみで世界を意識せねばならず、勝つことを求めるには酷な状況にある。以前は、夏の甲子園後に出場選手から選抜チームを結成して、海外へ親善試合に出かけていた。いわば「ご褒美」である。選手の顔ぶれなどを見ると、いまだにその名残があるようにも思える。ここまで踏み込むと「そもそも論」になってしまうが、これはU18世代にとって永遠の課題。それよりも、世界を相手に真剣勝負をした選手たちは、勝敗を超越して、大きな財産を得たはずだ。

日本野球の神髄を忘れずに

 チーム結成まで一度もしゃべったことがなかった選手や指導者もいただろう。仲間意識とともに、ライバル心やリスペクトする気持ちが芽生えたかもしれない。それぞれが、プロや大学、社会人で野球を続ける。最終戦で見せた日本野球の神髄を忘れず、手にした銅メダルの誇りを胸に、次のステージでも大きく羽ばたくことを願っている。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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