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甲子園を懸けた決勝でタイブレークは必要? この夏の地方大会での違和感

森本栄浩毎日放送アナウンサー
兵庫大会の決勝は延長にもつれ込み、タイブレークで甲子園出場が決まった(筆者撮影)

 夏の甲子園出場49校が決まった。それぞれが激しい地方大会を勝ち抜き、紙一重の差で敗れたチームは、後輩たちに捲土重来を託したことだろう。温暖化の影響か、夏の暑さは30年ほど前とは比べものにならない。選手たちの健康管理を第一に、今春からは「継続試合」が導入され、夏の地方大会では、35大会で適用を決めた。そしてタイブレークについては、春夏甲子園で何試合も行われたため、ファンにも浸透していると察する。しかしこのルールは試合内容を一変させる。甲子園出場を決める地方大会決勝での適用には、違和感を覚えた。

現在のタイブレークルールは?

 神宮大会を除く高校野球の公式戦でのタイブレークは、延長12回を終わって両校無得点か同点の場合、13回から無死1、2塁の継続打順で決着がつくまで行う。継続打順は、12回の最終打者の次の打者から攻撃するということで、走者を置くこと以外は試合の流れを大きく変えることはない(はずだ)。以前、神宮大会で「10回から1死満塁の任意打順」というタイブレークがあったが、打順の申告などで再開までに時間がかかり、守備側の投手がいきなりのピンチに動揺して、ぐちゃぐちゃな試合になったこともあった。現在のルールは、考えうる最善の方法であろう。

甲子園出場をタイブレークで決めるのは?

 しかし、やはりルールで勝敗を決めることには違いないので、後味はよくない。トーナメントで引き分けをなくすという観点からの導入は致し方ないとしても、最大の目標である甲子園出場校決定試合をタイブレークで決めるのはいかがなものか。以前も指摘したことがあって、「決勝ではタイブレークを導入せず、決着がつくまで戦わせてほしい」と述べた。この夏、2つの地方大会決勝でタイブレーク決着があり、試合の様相が一変したことを目の当たりにして、やはりこのタイブレークは、試合を早く終わらせるためだけのルールであることを再認識した次第だ。

鳥取大会は逆転サヨナラ

 鳥取大会決勝は鳥取商倉吉総合産が0-0で12回を終了。タイブレーク最初の13回はお互いに無得点で14回に入り、倉吉総合産が1点を先取したが、鳥取商がその裏に逆転して甲子園出場を決めた。試合経過は似たり寄ったりで、10回にサヨナラのピンチを切り抜けた倉吉総合産が、11、12回は押し気味だった。最終的には14回の打順に恵まれた鳥取商が逆転サヨナラを演じたが、このように、先攻側の得点を見てから攻められる後攻の方が若干、有利だと言われている。

神戸国際大付と社はスリリングな展開に

 一方、兵庫の決勝は2-2で延長に突入したが、こちらは試合内容がかなり違った。神戸国際大付は新戦力の津嘉山健志郎(1年)を6回から投入し、打線を抑え込む。いきなり四球を与えたが、12回まで21人連続アウトと完璧な内容だった。対する社も9回2死から救援したエース・芝本琳平(3年)が、鮮やかな牽制球でサヨナラのピンチを切り抜けるが、津嘉山が登板してからは完全に神戸国際ペースだった。そして神戸国際の12回裏、あわやサヨナラというシーンをまたも社が堅守でしのぎ切るスリリングな展開で、試合の行方はタイブレークに持ち込まれた。

タイブレーク後、神戸国際投手に狂い

 しかしタイブレークに入ると、様相は一変する。神戸国際の津嘉山は走者を背負うシーンがほとんどなかったためか、投球に狂いが出て、13回にはとんでもない暴投のあと初安打を許し1失点。14回には3安打を集中されて3点を失った。この日の津嘉山は9回を投げて、打たれた安打4本全てがタイブレーク後だった。もちろん社の勝因はしっかり守ってタイブレークに持ち込んだことで、不利とされる先攻での勝利には価値がある。しかし試合がそのまま進行していれば、社に得点機が訪れたかは微妙で、ルールによって流れが変わったことは間違いない。

甲子園決勝でも同様のタイブレーク採用

 試合をなるべく早く終わらせるためにこのルールが適用され、甲子園ではそれなりに劇的なシーンもあった。4年前の導入当初、甲子園も決勝に限っては、15回まで延長を戦う(その後はタイブレーク)ことにしていたが、2年前のセンバツから決勝でも13回からタイブレークを採用することにした。疲れがピークに達している決勝こそ導入すべきという現場の声が大きかったからだそうである。しかし、実際に上記のような試合が、最高峰の甲子園決勝で行われたら、選手やファンはどう感じるだろうか。

次の試合がなくても早く終わらせるべきか

 明日の試合はない。それでも早く終わらせるべきなのか。選手たちに悔いはないだろうか。タイブレークは機械的に走者を置いて攻めるので、実は投手にとって、心身ともに過酷なルールなのである。津嘉山の変調がそれを如実に表している。いきなりピンチを背負わせて、最も守られるべき投手を追い詰めるルールなのである。53年前に延長18回引き分け再試合の末、準優勝に終わった三沢(青森)の元エース・太田幸司氏(70)は、「決勝だったので、決着がつくまでやって欲しかった。次の日に投げる方がよっぽどしんどかった」と語っている。これは再試合ルールを念頭に置いての発言であるが、実際に決勝で死闘を体験した人の言葉には重みがある。せめて、明日以降に試合のない「決勝」だけは、思う存分戦わせてやりたいと願うのは筆者だけだろうか。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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