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近江に「山田監督」誕生? 自ら志願してマウンドへ!

森本栄浩毎日放送アナウンサー
志願登板で比叡山を振り切った山田(右)は、多賀監督からねぎらわれる(筆者撮影)

 「今のウチの監督は山田ですから」。近江(滋賀)のベテラン・多賀章仁監督(62)の口から衝撃発言が飛び出した。センバツ準優勝のエース・山田陽翔(3年=主将)が、自らの意思でマウンドに上がる。そんなシーンがマイネットスタジアム皇子山で繰り広げられた。

右翼守備位置から志願してマウンドへ

 比叡山との滋賀大会準決勝で、序盤、主導権を握りながらもたつく展開に、右翼守備位置の山田が業を煮やした。少なくともそう見えた。

近江先発の星野は四球から崩れるパターンが解消されず、3回途中で5点を失った。いい球があるのに残念だ。(筆者撮影)
近江先発の星野は四球から崩れるパターンが解消されず、3回途中で5点を失った。いい球があるのに残念だ。(筆者撮影)

 3回に4点を奪って一気に流れをつかんだと思ったのもつかの間、近江先発の星野世那(3年)がピリッとしない。連打と四球で無死満塁とされると、次打者には一塁線を破られる。一掃の三塁打で1点差に詰め寄られると、急きょ登板の左腕・外義来都(3年)も死球を与えて無死1、3塁。続く打者の1球目がボールになった瞬間、守備位置の山田がベンチに合図を送った。控え選手を呼び寄せてグラブを受け取ると、自らの意思でマウンドに上がった。高校野球では初めて目にするような光景だった。

近江は6回にようやくリード奪う

 山田は、比叡山の同点狙いのスクイズを空振りさせながら味方の拙守で刺せず、いきなり同点打を浴びたが、8番打者の送りバントをダッシュよく処理すると、鮮やかに併殺を完成。さらに9番打者を144キロ直球で見逃し三振に仕留め、5-5の同点で相手に傾きかけた流れを食い止める。一気に逆転を許さない山田はさすがだ。序盤から拙攻続きの近江はようやく6回、2番・清谷大輔(2年)が適時二塁打を放ってリードを奪った。

今大会の山田は13回4安打無失点

 この日の山田はブルペンにも行かず、最速は147キロ。相手後攻のプレッシャーにも耐え、虎の子の1点を守り切って、6-5で比叡山を振り切った。この日は7回を投げて3安打7三振で、今大会は3回戦と合わせても13回で4安打しか許していない。もちろん無失点で、もはや山田の投球は「異次元」としか言いようがない。さらに驚くべきは、試合後の多賀監督の「山田監督」発言だった。

山田が「星野でお願いします」と

 準決勝進出が決まったあと、多賀監督は山田を呼んで「準決勝、決勝はお前でいこうと思う」と告げた。すると山田は「星野でお願いします」と、チームメイトを推薦した。山田は「(星野は)センバツ決勝で打たれて悔しい思いをしている。やってくれると思った」とその理由を話したが、星野は期待に応えられなかった。山田が守備位置からとった行動は、業を煮やしたのではなく、「責任」を感じたためだったのだ。「あいつ(星野)のためにも準備していた」という山田は、試合前のルーティンを怠っていなかった

山田と多賀監督の強固な信頼関係

 「ウチの監督は山田」というシーンはセンバツ決勝でもあった。大阪桐蔭に序盤から攻められ、限界を悟った山田は、ベンチの多賀監督に合図を送って交代を申し出た。今回はその逆だったが、それは裏を返せば師弟の信頼関係に他ならない。センバツでの山田の登板過多に批判が集中してから、さらに多賀監督は山田の意思を尊重するようになった。ただし、山田は誰よりも練習するし、ストイックである。この日も多賀監督は山田の意向に沿った起用はしたが、山田が試合前に先発投手としての準備をする姿を確認している。

あと1勝へ、山田に慢心なし

 昨夏、今春に続く甲子園まであと1勝。山田の意見が「チームの決定事項」と話す多賀監督も、「決勝はお前に任せる」と言うに違いない。相手の立命館守山は、昨夏決勝で倒しているが、「チャレンジャー精神を持って戦いたい」と言う山田に、慢心は微塵も感じられない。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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