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抽選運も大きく影響?  球数制限導入のセンバツ高校野球

森本栄浩毎日放送アナウンサー
今センバツから球数制限が導入され、初戦登場の遅いチームが不利になる(筆者撮影)

 選手の健康を守る目的で甲子園における「タイブレーク」が導入されたのは、2年前のセンバツ。それに続き、今センバツからは投手の「球数制限」が初めて適用される。選手の健康を守り、故障を予防する目的で断行される「高校野球改革」の第2弾だ。

一週間で4試合なら制限抵触も?

 一人の投手が「一週間に投げられる球数の合計は500球まで」というもので、トーナメントで行われる甲子園大会では、勝ち進むと、その対象になる投手の出現する可能性がある。具体的には、一週間で3試合までなら、一人の投手が全試合完投しても500球を超えないと思われるが、これが4試合になると、制限数に達するリスクがある。試合途中でも、制限に達した時点で、その打者の打席が完了すれば、交代しなくてはならない。また、ノーゲームなどの試合で投げた球数も算入されるので注意が必要。ただし、今大会から申告敬遠を認めるため、これは球数に入れない。

初戦登場の遅いチームは不利

 今センバツから、準々決勝の翌日に続き、準決勝の翌日にも休養日が設定されることになった。つまり、準々決勝以降は、一日おきの試合開催となる。これによって、再抽選のないセンバツでは、初戦登場の遅いチームは、勝ち進むとすれば、一週間で4試合を戦わなくてはならない。ここからは、雨天順延などがないものとして説明する。写真の抽選ヤグラを参照していただきたい。

昨年の抽選ヤグラ。今回も出場校数が同じなので、試合日程は変わらない(筆者撮影)
昨年の抽選ヤグラ。今回も出場校数が同じなので、試合日程は変わらない(筆者撮影)

確実に1校は「一週間4試合」

 「D」という右端のゾーン(25~32)に入る8校は、5日目か6日目が初戦となる。ここに入ると、2回戦は8日目、準々決勝は連戦となって9日目に組み込まれる。翌日の休養日を挟んでも、準決勝までの4試合は一週間以内に行われることになる。「D」ゾーンから、確実に1校は4強に残るので、一週間で4試合のチームは、必ず発生する。

「一週間4試合」の可能性なしは4分の1

 決勝から逆算しても7日目か8日目に2回戦があれば、一週間で4試合を強いられることになる。右側の「Y」ブロック(17~32)16校は確実にその対象で、うち1校は必ず決勝に進むので、さらに1校、一週間4試合の可能性がある。「X」(1~16)ブロックからも半数の8校、つまり「B」(9~16)ゾーンに入ったチームは、2回戦が7日目になるので、決勝まで進めば一週間で4試合となる。わかりやすく言えば、決勝まで5試合を戦うと仮定して、一週間で4試合の可能性がないのは、「A」(1~8)ゾーンに入る8校だけで、出場校の4分の1にすぎない。今回、休養日を増やしていなければ、全チームに「一週間4試合」の可能性があった。一人の投手が4試合を完投すれば、500球以内で収まる可能性は低く、指導者は勝利を前提にしつつも、先発起用や交代機などに神経を使わなくてはならない。

「燃え尽きたい」選手に非情なルール

 この球数制限に対しては、「数字に根拠がない」などさまざまな意見がある。ここで個人的な感想を少し述べたい。このルールは、高校での投げ過ぎがたたって、プロで十分なパフォーマンスができなくなった投手を念頭に置いたものである。しかし、高校球児のすべてがプロ野球選手をめざしているわけではない。むしろ、「高校で燃え尽きたい」「野球は高校まで」と決めて頑張る生徒の方が圧倒的に多いはずで、彼らに対して、「これ以上は投げられないから交代」など、これほど非情なルールはない。

指導者の姿勢に警鐘鳴らす

 500球の根拠がどうかはわからないが、高野連が早々と導入に踏み切ったのは、「一週間500球以内」という具体的な数字を挙げないと、監督などの指導者が重い腰を上げないからだろうと察している。「現場の皆さん、世間は厳しい目で見ています。真剣に考えてくださいよ」と、指導者に対して警鐘を鳴らしたのだと考えると合点がいく。ちなみに、昨年の春夏の甲子園で、このルールに抵触する投手はいなかった。特に夏は、「球数制限」導入の動きを察知していた指導者が、一様に柔軟な発想をしたのだろう。地方大会も含め、これからの高校野球の指針となる今センバツは、すべての指導者の姿勢も、全国から注目されている。

球数制限で野球そのものも変わるか?

 実際に制限が導入され、それを前提にゲームプランを立てることになる今大会は、攻撃側の意識も変化すると思われる。スコアボードには相手投手の一週間以内の合計球数が表示されるようで、攻撃側も「待球作戦」に出るか、ストライクを取ってくると想定して「好球必打」で攻めるか、作戦が立てやすい。タイブレーク導入時と同じように、このルールによって野球そのものが変化する可能性を秘めている。試合間隔が空けば、1、2回戦はエースを完投させられるが、初戦登場が遅くなると、エースの負担を軽くする手立てを考えなくてはならない。ステージが上がるほど、エースを投げさせたいものだ。抽選は3月13日。対戦相手も重要だが、今大会は試合日程にも注目していただきたい。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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