婚活の必勝法 ~数学センスで万事解決(第1回)~

(写真:Paylessimages/イメージマート)

『数学センスで万事解決』は、2009年7月から2013年の3月にかけて、足掛け5年にわたって「ハッカージャパン」という雑誌に連載された拙稿です。数学がいかに社会を生き抜く知恵につながるかを楽しく読める記事としてまとめたつもりです。今回から不定期に、当時の記事を基に、改めて書き直しこととします。

【数の感覚】

名古屋大加藤英明教授の2008年の著書に、プロ野球の試合について分析があり、通説である、「チャンスの後にピンチ有り」は本当なのか、さらに「大量得点した次の試合は打てない」は本当か等について独自に調査した結果、まったく当てはまらないことを示しました。2005年の全846試合について,打者および投野手の一挙手一投足に至るまでのデータをコンピュータで分析した結果です。このように一般に思いこまれていることが必ずしも真実ではないことが数多くあります。特に「数」に関しては、感覚と実際がかけ離れていることが多くあるのです。

余談ですが、この野球の常識を検証した加藤教授の専門が金融経済学であることは、実体経済と名目経済がかい離して起こる昨今の経済不況と関係があるのでしょうか。お金に関しても、ことニュースでは、何千億ドルだの、何十兆円だの数字としては捉える事が出来

ても実感として相容れない金額になっています。

【大きな数】

数字の感覚と実態が異なることはスポーツや経済の世界の話だけではありません。ハッカーの活躍の場となるネットワーク/コンピュータ・セキュリティの世界でも数字の魔術が幅を利かしているのです。たとえば暗号、現在の暗号はすべて数学の上に成り立っていると言っても過言ではありません。「素因数分解の一意性および一方向性を利用した公開鍵暗号」と言えば厳めしいですが、ある数を二つに割る問題、たとえば、15であれば、3と5の掛け算というような事実を利用するのです。一意性とは15であれば、3と5の掛け算しかないという意味で、一方向性とは、掛け算は易しいが、15を2つの数の掛け算に直すことは難しいとことです。掛け算が易しいことは同意してもらえるでしょうが、掛け算に直すことは難しいのでしょうか。35であれ、91であれ,、すぐに2つの数の掛け算に直せそうです。また、与えられた数が割り切れるか割り切れないかという、割り切れればその数を求めるという問題ですから、コンピュータを使えば、すぐに答えが求まりそうです。しかし、これが少し大きな数になると求まらないのです.

【自由に扱える数の大きさ】

1秒間に一京回の割り算ができたとします。これは現在のスーパーコンピュータの能力相当です。一時間は3,600秒ですから,一日24時間では86,400秒,一年は約三千万秒になります。1年間割り算を続けたとしても三千垓回、つまり10の23乗回しかできないのです。非常に大きな数のような気がしますが、割り算によって、割り切れる数を求めるとすると、高々50桁程度の数しか答えを求められないのです。1年ではなく、宇宙の寿命程度の時間、計算をし続けることができたとしても、この方法では70桁程度の数しか答えを求めることができません。たった数字を70個並べた数の割り算が自由にできないのです。ちなみに、この割り算相当(素因数分解)を非常に早く行う方法があり,70桁程度の数であるならば、数万円で売っているパソコンを用いて数秒から数十秒で求めることができます。それが数の魔術であり、(数論)アルゴリズムなのです。

以降では実際の感覚とは異なる数の魔力とそれを自由に扱うための魔術について紹介します。

その数字を信じてはいけません!【ウソをつく方法】

数字を上げられると妙に納得する傾向があります.しかし数字ほどウソをつくものはありません.正確に言えば,数字は正しくとも,その数字の意味が十分説明されず,結果としてウソになってしまうことがあるのです.

【婚活のための戦略】

婚活のために数学が役に立つと言っても信じてくれるでしょうか。もちろん、数学の知識をひけらかして、相手の気を引くという落ちがあるわけではありません。「婚活」とは、結婚相手を探すための活動です。いろいろな意味で非常に難しい問題と考えられるでしょ

う。

婚活を通して幾人もの人と知り合い、その中から選択することが一般的です。お付き合いをしながら、結婚まで至るかが問題なのです。ここでお付き合いをしている人と結婚するかという決心は重要な選択です。決して二股は許せません。では、婚活を始めて何人目の人と結婚するのが選択として一番正しいでしょうか。つまり、お付き合いをして決心に至らなければ、次の人とお付き合いを始めるということを進めます。どこかで、諦めて(失礼!)この人と結婚すると決めるとき、すなわちこの人が、これまで会った人、そしてこれから会うかもしれない人と比較して最良であろうと予想して結婚を決めるものとします。さらに、さかのぼって、つまり元カレ、元カノとの結婚は許されないとします。一番最初に出会った人と結婚すれば、将来もっと良い人が現れたのではと後悔します。逆に数多くの人と付き合うだけで、結婚に踏み切らなければ、最良だったかも知れない人を見過ごすことになるので、さらに後悔するかも知れません。ではできるだけ後悔しないたに、何番目に付き合った人と結婚を決意すれば良いのでしょうか。.

これから出会う人が誰だかわからないのですから、何番目に付き合った人でも同じような気がします。はたして、運を天に任せて適当に結婚を決心すれば良いのでしょうか。

実はこの問題は数学上の有名な問題であって、その解法についても論文として提出されています。解法というわけですから、運を天に任せるよりも効率的な戦略があるのです。この問題は数学の世界では、「海辺の美女の問題」あるいは「美人秘書選択問題」と呼ばれ

ています。n人の美女が海辺に並んでいるとします。それを端から見て行き、一番美人と思う人を選択します。後戻りは許されないものとします。数学的に言えば、美女の1位からn位までの順位は、その並び方としてn!通りあります。その順列が等確率で現れると

します。当たる順位の期待値を最小にする選び方を求める問題です。この解法は論文になるぐらいですから、説明するのは容易ではありません。様々な場合分け、組み合わせを考えることによって解法を導くことが可能です。この解法により求められる戦略をとれば、高い確率で4位以内の相手を選ぶことが可能になります。誰が最良の相手かもわからないにもかかわらず、4位以内の相手に巡り合えるというのは騙されたような気もしますが、これは事実なのです。

たとえば、自分と結婚してくれるであろう人が世の中に20人いると仮定します。もちろん、誰だかわかりませんし、会ったこともありません。このとき取る婚活の必勝法は、

(1)まず、最初の5人はすべて見るだけで選択しない。

(2)次の5人については、その人が、それまでで最高だった

   ら、選択する。

(3)次の3人については、それまでで最高か2位だったら選択

   する。

(4)次の2人については、それまでで最高か3位までだったら

   選択する。

(5)16番目の人が、それまでで4位以内だったら選択する。

(6)17番目の人が、それまでで5位以内だったら選択する。

(7)18番目の人が、それまでで7位以内だったら選択する。

(8)19番目の人が、それまでで10位以内だったら選択する。

(9)最後の人は、選択せざる得ない.

です。この選択法を取れば、平均して3位以内の人と結婚できるはずです。最初の5人とは結婚しないという選択の道義的是非については問わないでください。