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明日にでも届くかも!?、脅迫メール

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
脅迫(写真:アフロ)

トレンドマイクロは2日、不倫サイト(既婚者向け出会い系)「アシュレイ・マディソン」(Ashley Madison)からの情報漏えいに便乗し、金銭を要求するメールを確認したことを発表した。

出典:不倫サイト「アシュレイ・マディソン」、漏えいメアドを使った脅迫メールが登場【RBBTODAY】

とうとう、例の個人情報漏えいを起こした不倫SNSの関係で脅迫メールが発見されたそうです。つまり、漏えいした会員情報を元に、その登録メールアドレスに向けて、住所氏名等の公開を控える代わりに金銭を要求するものです。その不倫SNSサイトを偽った送信元もあれば、弁護士を装った送信元もあり、あるいはまったくの悪意の第三者が、その登録メールアドレスからフェースブックや他のSNS情報を利用して、更なる個人情報を収集し、友人や配偶者に「ばらす」と言うような、直接的な脅迫も見つかっています。日本からの参加者が180万人いるということですから、遅かれ早かれ、日本人に対する脅迫も出てくる事でしょう。

「私は、そのような不倫SNSサイトには登録した事がないから大丈夫!」と思っていませんか? このような脅迫メールは参加の有無に関係なく誰にでも届く可能性があるのです。このような詐欺めいた脅迫というのは、人間の心の隅、あるいはちょっとした「疾しさ」を突いてくるのです。この不倫SNSサイトの情報漏えいに便乗して、不特定多数のメールアドレスに向けて、脅迫メールが送られる可能性があります。特に日本人の場合、「私は無関係」と言って、無視出来る人は必ずしも多くなく、疑惑や騒動に巻き込まれる事を嫌って、小額の現金ならば支払ってしまう人も少なく有りません。また、自分が登録した記憶がなくても、誰かが「いたずら」で登録したかもしれず、その疑惑を晴らす自信がなく、あるいは面倒に思って現金を払ってしまう人も少なからずいることでしょう。

過去の記事:「教員への脅迫状、犯人は?」でも書きましたが、不特定多数に向けての脅迫というのは意外と成功するものなのです。つまり被害が予想以上に増えるものなのです。被害が増える脅迫の手口、つまり何をもって脅すかという内容は、社会的背景やその時期、時代の話題に影響されます。特に不倫や不貞は古典的な手口でインターネットの出現以前から存在しています。20年以上前に徳島在住の人が、企業役員あるいは管理職の名簿を手に入れて、その名簿から不特定多数に、「不倫の現場を見ました」という脅迫状を郵送し、その中の少なくない人から金を脅し取ることに成功した事件が有りました。当時の週刊誌で大きく取り上げられていました。

今、この不倫SNSサイトの情報漏えいをきっかけとして、国内でも脅迫メールが増えていく事でしょう。過去の例からも日本人はこの手の手口に弱いと言っても過言では有りません。脅し取られる金額が少額だからといって決して支払っては行けません。ハードディスク内を暗号化してしまい、元に戻したいならば小額を振り込む事を強要するランサムウェアというマルウェアのように、振り込んでも何の解決にもなりません。そればかり、詐欺や脅迫に屈し易い人という、いわゆる「カモリスト」に登録されて、頻繁に脅迫や詐欺に逢う目になってしまいます。

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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