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そのアプリやWebサイト、信じていいの?

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
ネット

一昨年、埼玉県富士見市でネット上の仲介サイトを通じてベビーシッターに預けた2歳男児が亡くなる事件が起きました。犯人は逮捕されていますので、その経緯とともに、しかし、そもそもなぜ母親はベビーシッターの仲介サイトを利用して子どもを預けたのでしょうか。そもそもベビーシッターの仲介サイトはなぜあるのでしょうか。

埼玉県富士見市の自宅マンション内で、預かった山田流琥(りく)ちゃん(2)が亡くなっていたのに放置させていたとして、ベビーシッターの物袋(もって)勇治容疑者(26)が逮捕された事件がありました。同容疑者が利用していたのがベビーシッターのマッチングサイト。実情はどうなのか。サイト管理人が取材に応じました。

出典:ベビーシッター「マッチングサイト」の実情は? なぜ必要とされるのか【THE PAGE】

一般的に、母親であったとしても急な事情で子どもを預けざる得ないことは十分起こりえます。しかも母子家庭であれば、近所付き合いも最近では希薄となり、ベビーシッターに頼らざる得ないでしょう。常に利用するのであれば事前に信用のおける、評判の良い、しかも店舗や事務所に行って、直接ベビーシッターと十分話をした上で、預けることを決断出来ます。しかし急にベビーシッターを利用するとなると調べる時間も、直接話をする時間もないのです。その時に仲介サイトを利用すれば、スマホでウェッブを見るだけで、ベビーシッターを雇うことができるのです。店舗や事務所の代わりにウェッブを見て、そしてベビーシッターの写真や紹介文を見て、決めることになります。ここで問題になるのがウェッブだけを見て判断出来るのかということです。信頼のおける会社や人なのか判断出来るのでしょうか。

サービスを提供する人と求める人の仲介をするサイトをマッチングサイトと呼びます。身近なところではオークションサイトです。物品を高値で売りたい人と、望む値段で購入したい人との仲介をしています。売りたい人も買いたい人も信用出来るとは限りませんが、サイトが仲介とともに、保証を行うことによって信頼も仲介しているのです。売買を行うどちらかの人が不正を行うと、オークションサイトが他方に対して損害を補償する仕組みです。これによって、オークションサイトの信用を得ているのです。

物品であれば第三者であるオークションサイト、つまり仲介サイトが金品をもって補償することも可能でしょう。しかし、取り持つ品、すなわちサービスが人であれば話は異なります。万が一のことがあれば補償が効かないのです。ベビーシッターはその典型です。掛け替えの無い子どもの世話を仲介することになるわけですから、簡単に信用するわけにはいきません。

マッチングサイトを利用しようとする時は、そのサービスを強く要求している場合が多いようです。そのサービスを必要としている人が利用するからです。ここに一つの落とし穴があります。早急に必要とするゆえに、詐欺やトラブルの温床ともなっています。オークションサイトでは「次点詐欺」という、競い合って、商品を落札出来なかった人に、同じ商品を「格安で売ります」と言って騙し、代金だけを振り込みさせる手口があります。電子商店街でも、人気の商品を格安で販売すると偽って代金を振り込ませる手口もありました。これらは、マッチングサイトの補償や利用者の評価等によって解決して来たのです。しかしマッチングサイトの多様化によって、様々なサービスを仲介することが多くなりました。その一つがベビーシッターの仲介なのです。

マッチングサイトを利用する時は細心の注意を払う必要があります。多かれ少なかれ利用しようとする人の希求性をくすぐったサービスなのです。そのマッチングサイトが仲介するサービスの危険度と料金や手軽さといった利便性を慎重さを持って秤にかける必要があります。危険度を減らす為には、そのサイトだけでなく、仲介の対象の評価が高くなければなりません。この評価が出来なければ危険度は極めて高くなりす。今回の事件におけるベビーシッター自身も仲介したサイトも、評価をする方法が稚拙だったのです。

マッチングサイトも、セキュリティと同じように、一般的には、便利であればあるほど、安全性が低下します。このトレードオフの関係は必然なのです。どこで折り合いをつけるかが、安心なサービスにつながるのです。しかし、人の生命や健康に関わるサービスは、安易に利便性を取るべきではありません。インターネットがもたらした便利な時代は、必ずしも安全な時代ではないのです。

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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