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中村教授のノーベル賞受賞で、誰が日亜化学工業を悪者にしたいのか?

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
徳島城公園から徳島市内

青色発光ダイオード(LED)の開発でノーベル物理学賞の受賞が決まった米カリフォルニア大の中村修二教授(60)が、開発当時の勤務先で、発明の対価を巡って裁判で争った日亜化学工業(徳島県)と「関係改善を図りたい。社長と会いたい」と呼びかけたことについて、同社は4日、小川英治社長と中村氏の面談を拒否する方針を明らかにした。

出典:青色LED:日亜、ノーベル賞・中村氏と面談拒否【毎日新聞】

青色発光ダイオードの開発でノーベル賞を受賞した中村修二教授がマスコミを通して、以前に、その発明、開発の対価に関して係争した、かつての勤務先である日亜化学工業に対して、和解を申し入れました。日亜化学工業も即座に対応し、読売新聞によれば、

中村教授は、すでに15年前に弊社を退職された方で、弊社は中村教授に何かをお願いするような考えは持っておりません。また、同教授は今回の受賞・受章について、弊社歴代社長と弊社に対する深い感謝を公の場で述べておられ、弊社といたしましては、それで十分と存じております。中村教授が、貴重な時間を弊社への挨拶などに費やすことなく、今回の賞・章に恥じないよう専心、研究に打ち込まれ、物理学に大きく貢献する成果を生みだされるようお祈りしております。

出典:中村教授の「感謝で十分」、社長との面会は断る【読売新聞】

と回答しました。マスコミ各社では上記の新聞と同じような論調で、「日亜化学が中村教授を拒否」という印象を与えています。どうも、かつて係争した中村教授と日亜化学の対立を思い返し、「中村教授vs.日亜化学」という構図を作りたいようです。確かに「善と悪」、「強者と弱者」、「賢者と愚者」という二極の対立構図はわかり易く、興味を抱く、あるいはさらに面白おかしく思う人は多くなるでしょう。しかし経緯から言えば、中村教授が、理由や事実関係は別にして、勤務先の待遇に不満を持ち、一方的に日亜化学を訴えた事は事実です。今回、ノーベル賞を受賞したからと言って、一方的にマスコミを通じて、日亜化学社長との面談を求めたとしても、安易に応じる事はできないでしょう。今回、日亜化学が回答した「弊社歴代社長と弊社に対する深い感謝を公の場で述べた」という下りは、中村教授が係争時の前後に認めなかった、少なくとも日亜化学としては認めてほしかったことでしょう。ノーベル賞を受賞したからといって、日亜化学側としては一方的に訴えられた、退職した元社員と会う必要はないという判断は正当なものでしょう。

徳島にも行きたいんですけど、現状では行けないんですね。日亜化学は四国最大の企業なんです。徳島で10メートル歩いたら、日亜化学の関係者に会うというところですから、関係をよくしないと現地には行けない。そういう意味で関係を早く改善したいんです。徳島大は私の母校で、学生や先生が来てくれと言ってくれるが、日亜化学との関係をよくしないことには行きづらい。

出典:中村修二教授文化勲章:記者会見の一問一答【毎日新聞】

ということですが、日亜化学は四国最大の企業でもありませんし、徳島で10メートル歩こうが100メートル歩こうが、日亜化学の直接的関係者に会う事はないでしょう。何よりも現在では日亜化学および関係者が中村教授と仲違いをしているという意識はないはずです。改めて、徳島に来て頂いて、あの頃とは変わった中村教授のお話を、日亜化学関係者、徳島大学関係者、さらに徳島県民にして頂ければと思います。

追記(2014年12月10日)

中村教授のノーベル賞受賞の報とともに、日亜化学との関係も再度取り上げられ、再注目されてから約一ヶ月が経ちました。今になっても、中村教授と日亜化学との確執?が取り上げられています。

出典:(続)中村教授のノーベル賞受賞で、誰が日亜化学工業を悪者にしたいのか?、Yahooニュース!個人

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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