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波乱含みの女子会、本音トークの行方は?アラサー女性のリアルな結婚観が詰まった「呑川ラプソディ」

水上賢治映画ライター
「蒲田前奏曲」の1作「呑川ラプソディ」の穐山茉由監督 筆者撮影

 現在公開中の長編連作映画「蒲田前奏曲」を構成する4作のうちの2番目に登場する「呑川ラプソディ」は、注目しておきたい才能あふれる女性表現者が顔を揃えた1作といっていいかもしれない。

 キャストには、いまや主役としてもバイプレイヤーとしても異彩を放つ伊藤沙莉、朝の連続テレビ小説「スカーレット」で大人の俳優として新たに注目を集めることになった福田麻由子、「岬の兄妹」で脚光を浴び、気鋭監督たちの作品への出演が続く和田光沙ら、いま出会いたい女優たちの顔がずらり。

 監督は、初の長編映画「月極オトコトモダチ」が第31回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門へ正式出品され、「MOOSICLAB 2018」で長編部門グランプリほか4冠を受賞した注目の女性クリエイター、穐山茉由が務めた。

 先日、インタビューを届けたように「蒲田前奏曲」は、女優の松林うららの自らの発案からスタートしている。松林からの打診を穐山監督はこう受けとめたという。

「東京国際映画祭のとき、松林さんが『月極オトコトモダチ』をみてくださっていることはわかっていたのですが、まさかその上映直後に、この『蒲田前奏曲』の話をいただくとは思いませんでした(笑)。

 松林さんから4人の監督によって、いろいろなシチュエーションでひとりの女性が持つ多様な顔を表現したいといった主旨の説明をされて。シンプルに人の多面性を描くというのは表現としておもしろいと思いました。

 その中で、女子会のエピソードを作ってほしいと言われたんですけど、私自身がもともと女子会に興味があって、ちょっとやってみたい気持ちがあったんですね。それで、ぜひとお引き受けしました」

一握りの俳優さんだけで作品が回っている現状はどうにかならないのか

 松林の自らプロデュースに乗り出し、自ら出演して映画を作っていこうという姿勢にも賛同したという。

「私自身、常々、役者さんが常に選ばれる立場で、キャスティングされないと出演できないということに対して、なにかジレンマを感じていたんです。

演じたい熱意がある、すごく魅力的な役者さんがたくさんいる。でも、選ばれるのはごく一部で、その中でもいわゆる売れている人は一握り。それは仕方ないことだとは思います。

 ただ、なにかその一握りの俳優さんだけで作品が回っている現状はどうにかならないのかなと。だから、出演する側が企画して、自分も出たいというのはもっとあっていいのかなと思うんです。松林さんの役者としての熱意に私は素直に感動したし、すごく勇気のあることだなと思いました」

 そこから松林の意向を踏まえ、脚本を作り上げていった。

「まず、作品を通して、マチ子という売れない女優がいることは確定している。それで、20代の後半の女性の設定なので、その年代の女性が共通で悩むこと、ぶち当たる問題としてやっぱり避けて通れないこととして結婚がまずひとつあるなと思いました。

 ちょうど私も20代後半のとき、周りの知人がけっこう結婚し始めた。同級生と会うと既婚と独身が半々ぐらい。それぞれの立場で会話が二分されてしまうところがありました。

 そこで結婚を軸に、置かれた状況が違う同年の女性が集うことで生まれるドラマを描きたいと思いました」

映画「蒲田前奏曲」より
映画「蒲田前奏曲」より

 作品は、アルバイトをしながら俳優活動をしているマチ子が、大学時代の友人4人と久々に女子会を開くことに。時間が経つにつれ、独身チームと既婚チームの間になんとなく溝が生じ、気分転換を図ろうと近くの蒲田温泉へ。ところがそこで思わぬ事態に遭遇し、各人の各人への本音が露わになっていく。

「私はもうそこを通過してしまったので、現在の感情としては結婚にさほど興味はないんです。ただ、振り返ると、26、27歳ぐらいのとき、なにかと結婚はついてまわったなと。

 結婚に対して、自分は興味がなくても、周りからの視線とか、見えない圧力というのは確かに存在していた。

 20代前半のときはなにも言われなかったのに、後半に入ってくると、『結婚は?』とか『誰かいい人はいないの?』とか、聞かれることが増える。友だちの結婚式に呼ばれる回数も気づくと増えている。となると、意識しないようにしようとしても、頭の片隅には必ず入ってくるんですよね。

 20代後半になると、仕事をどうするかとかを含め結婚が自身の人生プランの中の一つの大きな要素として入ってくるのは確か。そういう意味で、結婚をいろいろな視点から描くことで現代社会における女性の存在や、昔からずっと変わらない、どこかしばられてきた男性からも女性からも求められる女性らしさみたいなことが見えてくるのではないかと、思ったのは確かですね」

それぞれの結婚観が錯綜!

 おもしろいのが女子会メンバーそれぞれの結婚観。旧態依然とした考え方の持ち主と、結婚に執着しない者の考えが交錯する。

 その中で、フォーカスされるのが福田麻由子が演じる麻里だ。彼女の存在は、結婚が女性の幸せのゴールというどこか旧来の価値観と、もう男性には左右されない自分は自分らしく生きる現代女性の双方を映し出す。そして、どちらも肯定する。

「麻里はたぶん男性目線でいったら、今も昔も変わらない一番理想とするところのいいお嫁さんタイプ。男性からすると自分を立ててくれるし、器量もいい。

 いまどきの女性からすると、男性に都合のいいように扱われているようで、ちょっとひと言いいたくなるかもしれない。

 そういう意味で、現代の東京において彼女のような存在はマイノリティかもしれない。もう、ほとんどの女性は結婚が幸せのすべてじゃないとどこかで思っているし、そういう価値観にしばられなくなっている。

 ただ、それでも結婚に憧れる時期って誰にでもあると思うんですよね。実際、私にもありました。今振り返ると、『他にも道はあるよ』と言いたくなるんですけど、そのときはわからない。

 だから、ここに登場する5人の結婚に対する思いを、どれも否定はしたくなかった。正解なんてあるはずがない。ひとつのスタイルにしばられないで、多様な結婚観があっていいんじゃないか。そうしたことを示そうと思いました」

映画「蒲田前奏曲」より
映画「蒲田前奏曲」より

伊藤沙莉、福田麻由子ら個性豊かな女優たちに囲まれて

 こうした多様な女性の価値観を描けたのは、伊藤沙莉、福田麻由子、川添野愛、和田光沙、松林うらら、葉月あさひという個性豊かな女優たちが顔を揃え、それぞれが説得力ある演技を見せたことも一因といっていいだろう。

「みなさん、それぞれに個性をもっていて楽しかったです。現場も劇中とほとんど一緒というか。ほぼシーンのままの女子会になっていました。

 劇中同様に、伊藤沙莉さんが座長みたいな存在になってくださって、自ら率先して場を盛り上げてくれて、ずっとみんなでおしゃべりしてるんですよ。自然にワーワーいっているから、私はみなさんがやりやすい場を作るだけで、あとはもうお任せでした。

 みなさん、お芝居を見たことのある方たちだったので、『この人がこれを演じたら絶対に面白くなる』という考えのもとお願いしたところがありました。たとえば、伊藤さんが演じた帆奈だったら、相手にものをズケズケ言いながらも嫌味にならず、どこかチャーミングで憎めないキャラクターにしたい。そう考えたとき、もう伊藤さんしか頭に思い浮かばなかった。ほかのみなさんもそう。ほんとうに希望のキャスティングで、私としてはこんな幸運はそうそうないだろうなという作品になりました。

 それから、劇中では5人がそれぞれの主張を繰り広げる会話劇が展開していく。私にとっては、これだけ多くの人物を同時に演出する経験はほぼ初めてで。ちょっと悩むところはあったんですけど、最終的に現場で出てきたものを活かす方向でまとまって、大枠だけ決めて、その場でみなさんにやってもらいながら、調整していったんですね。

 これもみなさんに高い演技力があったからできたこと。彼女たちの演技力で救われた場面がいくつもありました」

30歳を過ぎてから映画の道へ!

 独自の視点から新たな女性の物語を作り上げた穐山監督。いま女性クリエイターとして脚光を浴びつつある彼女だが、映画作りを始めたのは30歳を過ぎてからになる。

「普通の会社員としてずっと働いていて、映画を作りたいと思って、映画美学校で映画を学ぶことになるんですけど、そのときはもう30歳を過ぎていたんです。でも、はじめから映画を作りたいと思っていたわけではないんですよ。

 もともと、モノづくりは大好きだったんです。ただ、『これをやりたい』という意識はあまりなかった。だから、音楽をやってみたり、写真を撮ってみたり、なんとなくいろいろな創作に手を出していたんですね。

 そういう自身の創作を続ける一方で、仕事ではファッション会社のPRをしていて。それは、決められたブランドの世界観の中でなにか人へ届くものを表現することを求められる仕事でした。

 その仕事をすればするほど、どこかでなにか自分の表現をしてみたいという気持ちが膨らんでいって。それで映画を観ることが大好きだったので、『じゃあ映画を撮ってみようか』と気持ちが動いた。思い立ったらすぐ行動に移すタイプなので、そのまま映画美学校に入っちゃった。そうしたら、ものすごく性に合っていた(笑)」

映画でやれることはまだどこかにあるのではないか。それをみつけたい

 いろいろと経て、ようやく映画にたどりついたのだという。

「映画って作るのは大変だし、1人ではできない。『なんでこんな大変なことをやっているんだろう』と、たまに思うことあるんですけど、すべての過程が楽しい。脚本とか企画とかを練っている段階も、現場も、役者さんと一緒にお芝居を作っていくのも、かなりエキサイティングなことと私は感じています。

 その後の仕上げの過程も多くの人が関わって、それぞれのプロの仕事が入っていく。いろいろな人の力を紡いでいって、ひとつの形になっていく。それを経験したとき、やれることが無限と思って。

 映画としての表現はもうやり尽くされた。もうやれることはないという考え方もあると思うんですけど、私はまだやれることはどこかにあるのではないかと。まだなにかやれることが遺されている気がする。それを、見つけたくなって、『続けていきたい』と思ったんですよね」

 今後、どういう作品を届けてくれるのか楽しみだが、監督自身はこう先を見据える。

「やりたいことはたくさんあります。今回のような女性を主体にした人間のドラマを描くということは、自分の興味でもあるので、今後もやっていきたい。

 ただ、その一方でいろいろなジャンルの映画にも挑戦したいです。それこそ例えばホラーとか、やってみたい。新しいことにチャレンジすることは忘れたくないですね」

映画「蒲田前奏曲」より
映画「蒲田前奏曲」より

「蒲田前奏曲」

ヒューマントラストシネマ渋谷・キネカ大森ほかにて全国順次公開中

場面写真はすべて(c)2020 Kamata Prelude Film Partners

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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