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五輪延期でも五輪の代表内定は持続すべきか?

溝口紀子スポーツ社会学者、教育評論家
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

延期により5年に1度の五輪になったことで選手、強化の現場は混乱しています。課題も山積です。

とりわけ、延期になった状況で、すでに五輪の代表内定権は継続すべきか?という議論もおこっています。

代表選手としてみれば、死に物狂いで熾烈な代表権争いで勝ち取った戦利品である代表の座を、未曾有の事態による延期という理由で簡単には手放したくはないでしょう。選手の中にはこの夏に向け、競技人生をかけて、あるいは満身創痍の中、代表権を勝ち取った選手もいます。

その一方で落選した選手にとっては敗者復活戦のチャンスになります。また東京2020に年齢的に間に合わなかった若手選手にとっては思いがけない五輪のチャンスが早く巡ってくると思います。本稿では指導者の視点から考えてみたいと思います。

内定は既得権か、選考の見直しか

内定を確定した選手の既得権は来年まで、有効なのか、選考の見直しが必要か?という論議が各国の競技団体ごとで起こると思います。

今回の東京2020は、母国開催ということもあり、各競技団体では通常の五輪よりも早く内定を出す傾向がありました。

とりわけ柔道の場合は、先月に1階級を残す13階級の代表選手が決まりました。4月の初めにが、残る66キロ級の最終選考会が行われます。

66キロ級の丸山選手と阿部選手はこれまで熾烈な代表争いをしてきましたが、現在、以下の点で不安が残ります。

1)1年程度延期となった時点で代表決定を行っても良いのか

2)曖昧なままの選考会では選手の士気が落ちないか

3)延期を受け、再選考するのか

水泳の代表選考会は、東京都から不要不出の外出自粛の要請を受け、中止となりました。公衆衛生の点、選手選考の点においても賢明な判断といえるでしょう。とはいえ競技団体の特徴や事情により選考のあり方は千差万別だと思います。まだ選考会が行われていない競技の場合は、選考会前までに、代表権が1年先まで延長できるのか明らかにしてほしいと思います。

強化のグランドデザイン見直し

延期決定を受け、5年に1度の五輪になったことで強化のグランドデザインを大幅に変更する必要が出てきました。

開催延期は言い換えれば、強化期間が1年延伸されたと考えることもできます。再選考の議論もある中でどのように競技力を高めていくかが課題になってきます。とりわけ代表がすでに内定した選手の競技力が落ちないよう配慮することが必要です。

その場合、早急に開催延期に伴う内定取り消しの規約を整備することが重要です。いわば内定者への宿題です。

具体的には、一定の期間内に、内定者へ標準記録、標準ランキング(国内・国外)の明示をすることです。また国内合宿の参加状況や練習内容なども評価すること、すなわち内定選手の競技力アセスメントをすることが、重要です。

とはいえ現在、新型コロナウィルスの感染拡大する中で、国内外の大会が中止されているので大会や合宿を開催することも容易ではありません。

加えて、予算も非常に厳しいです。

五輪イヤーの今年、通常ならば五輪の結果を受けて来年度以降の強化予算を配分されるはずでした。

延期となった上、主要大会が中止になったことでその予算査定もできない現状です。

来年度以降、競技団体の負担も大きくなり、遠征や合宿の費用に選手が自腹を切ることも多くなりそうです。

新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け、国のスポーツ政策の予算措置も必要です。

さらに、次のパリ大会に向けてもこれまでの強化方針の見直しをする必要が出てきました。

東京大会が5年に一度の大会になることでパリ大会は3年に一度の大会になるのです。

そのことで、2020年には、若干間に合わないと思っていた若手選手を2021年に登用できるため、2021年、2024年の2大会連続でメダル獲得する選手を育成できる可能性が通常の大会よりも高いからです。

五輪の延期を受け選考や強化方針の見直しにより、これまで東京2020を目指してワンチームとなってチームビルディングをしてきた選手と指導者の関係がギクシャクしてしまうことが懸念されます。

新型コロナウィルスの影響によってせっかく築き上げた選手と指導者の関係にまで亀裂が生じないよう、競技団体は、説明責任を果たすとともに選手とのコミュニケーションが今まで以上に求められます。

スポーツ社会学者、教育評論家

1971年生まれ。スポーツ社会学者(学術博士)日本女子体育大学教授。公社袋井市スポーツ協会会長。学校法人二階堂学園理事、評議員。前静岡県教育委員長。柔道五段。上級スポーツ施設管理士。日本スポーツ協会指導員(柔道コーチ3)。バルセロナ五輪(1992)女子柔道52級銀メダリスト。史上最年少の16歳でグランドスラムのパリ大会で優勝。フランス柔道ナショナルコーチの経験をもとに、スポーツ社会学者として社会科学の視点で柔道やスポーツはもちろん、教育、ジェンダー問題にも斬り込んでいきます。著書『性と柔』河出ブックス、河出書房新社、『日本の柔道 フランスのJUDO』高文研。

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