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中国の習主席「祖国統一は揺るぎない」というが台湾市民は?

宮崎紀秀ジャーナリスト
演説する習近平国家主席(2023年3月13日北京)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 中国の国会に当たる全国人民代表大会が、本日午前閉幕した。閉幕式では今大会で3期目の国家主席に正式に選出された習近平氏が演説し、「祖国統一を揺るぎなく推し進める」と台湾統一への意欲を改めて強調した。

3期目就任は人民が信任?

 習近平氏はまず、「3度目の国家主席という崇高な職務」と自身の立場に触れ、「人民の信任が、私が前進する最大の原動力だ」と、異例の3期目の国家主席就任が、国民の支持を受けたものだと表明した。

 続く演説では、中華民族が5千年の輝かしい歴史を持つにもかかわらず、中国が近代以降に植民地支配を受けたことなどに触れ、中国共産党によってその雪辱が果たされ、中華民族の偉大なる復興は、歴史的に不可逆な段階に入ったという理屈を展開した。

 この理屈はお決まりで、習氏は、自身が好んで使う中華民族の偉大なる復興というプロセスの一部として、台湾統一の“正統性”を主張するのだ。

「祖国の完全統一は、中華民族子女の全体の共通の願いであり、民族復興の課題」

 本日の演説でも台湾問題をこう位置付けた上で、改めて次のように主張した。

「外部勢力の干渉と台湾独立の分裂活動に断固として反対し、祖国統一のプロセスを揺るぎなく推し進めなくてはならない」

 習氏の言葉に続き、これもお約束だが、会場は大きな拍手に包まれた。

武力行使を放棄せずとは言わなかったが...

 習氏の言葉とすれば、2022年10月の共産党大会で、台湾問題の解決について、「決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとるという選択肢を残す」と述べた時に比べ、マイルドな表現にとどめている。問題は武力行使の如何のみならず、中国の基本方針は平和統一だが、習氏が語る、台湾統一がまるで中華民族全員の望みで歴史的必然のような理屈の虚構性に気づく必要がある。

 私が先月、台湾の台北で市民に中国との統一について尋ねみたら、こんな答えが返ってきた。

台湾市民の本音?

「(統一を)当然望まない。彼らは思想を統制する。メディアや路上の広告でも思想をコントロールしようとする。私たちは当然、今のような台湾がいい」(大学生23歳)

「(統一は)いやです。彼らの政権は、独裁で専制です。台湾の民主主義と自由には完全に逆行します」(テレビ関係者40歳)

「(統一を)望みません。彼らは民主的でないし自由がないでしょ。私たち台湾はすでに自由で民主的な社会に慣れてしまった。香港を見ましたか?一国二制度といいながら、実際はだんだん香港の金融での地位を奪ってしまった。台湾をよく扱うわけはない」(金融業45歳)

 中国が国際社会に対し、台湾は中国の一部と繰り返すが、それはあくまでも中国側の主張でしかなく、決して台湾の市民の声を反映しているわけではない。中国側が主張するように台湾の市民が中華民族の一部であるなら、その声を無視して統一してしまったら中華民族の偉大なる復興には決してなり得ないのだ。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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