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中露の外相が会談。中国はウクライナ侵攻を止める努力をしたのか?

宮崎紀秀ジャーナリスト
中国の王毅外相はロシア外相に何を語った?(7月8日バリ・インドネシア)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 インドネシアで開催されたG20(主要20か国)の外相会合に合わせ、7日、中国の王毅外相とロシアのラブロフ外相がバリ島で会談した。国際社会の大半が、一刻も早くロシアのウクライナへの軍事侵攻を止めたいと考えている中にありながら、中国の王毅外相は、ウクライナ侵攻に対する踏み込んだ発言はせず、せっかくのチャンスを生かしきれなかった。アメリカに次ぐ世界第2位の経済規模をもつ大国になった中国だが、その外交姿勢は、あまりにお粗末と言わざるを得ない。

中国はロシアとの良好関係を強調

 中国外務省の発表によれば、王毅外相はラブロフ外相に対し、現在の不安定な国際情勢にありながらも、両国は正常な交流を保ち、様々な分野で協力を進めており、「両国関係の強靭性と戦略的な意志を示している」との認識を示したという。

 ロシアに対し、同国との良好な関係はこれまでも今後も変わらないという立場を改めて確認したという訳だろう。

 会談の中で、王毅外相は、覇権や一国主義を阻止するのは「広範な発展途上国の共通の声」だと主張し、「現在の国際政治の現実は、我々に考えを深くさせる」とした上で次のように述べたという。

「強権・覇権を追求するのか、それとも多極化のプロセスを推進するのか?国連を中心として国際秩序を真に守るのか、それとも少数の国が自らの基準で定めたルールを保ち続けるのか?時間の経過に伴い、ますます多くの国がよりはっきりと認識し、正しい選択をすると信じている」

中国は“お友達”のために...

 現状の国際秩序と、そこで大きな影響力を行使し、中国やロシアに圧力をかけるアメリカと西側諸国への不満を示した発言とみられるが、今年5月、国連の安全保障理事会(安保理)が、弾道ミサイルを相次いで発射した北朝鮮に対する制裁強化決議案を採決した際に、拒否権を発動したのは、他ならぬ中国とロシアであった。また、それに先立つ2月、安保理がウクライナに侵攻したロシアを非難、軍の撤退を求める採決では、中国は棄権、ロシアは拒否権を発動した。

 もちろん中国には、「制裁などの措置は効果的ではない」という中国なりの言い分がある訳だが、少なくともこの2つの問題に対しては、国連を中心とする国際秩序を重視すると声高に主張する中国自身が、国連の機能を弱体化させたと言わざるを得ない。それは西側諸国に対抗する中国、ロシア、北朝鮮という“お友達”を守るため。即ち、それは中国自身の利益のためである。

 中国が言うところの現状のアンチテーゼ、即ち多極化や国連中心の国際秩序とは、中国が自身の利益にかなうと考える国際秩序にすぎない。

 そして世界が関心を寄せるウクライナ情勢について、外相の直接会談は、ロシアの翻意を促す絶好の機会だったが、中国外務省の発表では、次のようにしか触れていない。

中国外相はウクライナの戦争を止めようとしたのか?

「双方はウクライナ情勢について意見交換した。ラブロフ氏はロシア・ウクライナ情勢とロシアの立場・主張を紹介した。王毅氏は、中国は引き続き客観的で公正な立場を堅持し、和平交渉の促進に焦点を絞り、危機の平和的解決に役立つあらゆる努力を支持する、と表明した」

 中国は厳しい制裁を受けるロシアと貿易関係も保っており、現状においてロシアに対して十分に影響力を行使できる立場にある。もちろん中国側が外交交渉の全てを発表する訳はないが、少なくとも発表内容を中国の公式な立場と受け取る国際社会には、中国がロシアに対し、侵攻を止めるように働きかけたようには見えない。

 西側諸国がロシアに科す経済制裁が戦争を止めるベストの手段ではないかもしれないが、中国は、西側諸国なりの戦争を止めようとするそのやり方を強烈に非難し、“お友達”の肩を持つ。だからといって経済制裁に代わる代案を出す訳でもなく、“お友達”との関係悪化という火の粉を避けるために、自分たちは、「当事者ではないから」と静観を決め込んでいる。だから中国は、「責任ある大国」と自称したところで、なかなか国際社会に信頼してもらえないのだ。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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