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北京五輪の外交ボイコットを中国は“最大の笑い話”と笑い飛ばせるのか?

宮崎紀秀ジャーナリスト
開会式の会場になるスタジアム、通称“鳥の巣”(2022年1月30日北京)(写真:ロイター/アフロ)

 中国におけるウイグル族の人権問題などへの抗議を示すため、北京冬季オリンピックの開幕式に政府要人を派遣しないという動きが主に西側諸国から起こった。いわゆる外交ボイコットだ。一方で、2月4日に控える開会式には国家元首や政府首脳など30人以上が参加する見通しとなった。中国の国営新華社通信は、外交ボイコットの動きを「2022年最大の国際的な笑い話」とこき下ろした。

露プーチン大統領も参加で中国は強気?

 中国外務省によれば、北京冬季オリンピックの開会式に出席する外国の国家元首、政府首脳、王室や国際機関のトップなどの要人は30人以上に上った。ロシアのプーチン大統領、国連のグテーレス事務総長、WHO世界保健機関のテドロス事務局長らも出席する。

 中国外務省は、外交ボイコットの声が上がった際には「そもそも招待してもいない」などと強気の態度で、“気にもかけない素振り”を見せていたが、なんとか一定数の来賓が揃いそうで、正直ホッと胸を撫で下ろしたところだろう。

 そうした中、国営新華社通信は、新型コロナウイルスが蔓延し、世界が困難にある中で、今回の冬季オリンピックは「地球村の全村民を照らし温める光のようなもの」と称えた上で、「いわゆる『ボイコット』や『政府の官員を派遣しない』などと政治的に弄んだことは、2022年の最大の国際的な笑い話になった」とこき下ろした。

 1月29日に配信されたこの記事はその根拠として、2008年に北京で開催した夏季オリンピックを振り返った。当時も「開会前には、少数の西側の反中勢力が『ボイコット』のドタバタを演じたが、比類なき盛会となってオリンピック史上に刻まれた北京オリンピックには、全く影響を与えなかった」と指摘した。

08年の北京五輪は米ブッシュ大統領も

 確かに14年前に中国で初めて開催された北京オリンピックの際にも、西側諸国の政府や政治家のみならず、市民の間からも、ボイコットを呼びかける声が上がった。当時は主にチベット自治区での中国政府の対応を批判する声に押されるものだった。「チベットに自由を」と書いた横断幕などを掲げた者たちが、聖火リレーを妨害するなどという現象が世界の至る所で起きた。

 それ以外にも、PM2.5という言葉はまだ一般的にが使われていなかったが、大気汚染や水質汚染、食品の安全性への懸念もあった。

 だが、新華社の記事が指摘するように、結果として北京オリンピックは、中国としては大成功で終えた。開会式には国家元首や政府首脳ら80人以上が列席し、壮大なパフォーマンスを目にして口々に賛辞を送った。

中国でのビジネスを優先させた各国首脳

 今回、冬季オリンピックを迎える中国としては、前回のオリンピックの成功体験を再現したいに違いない。だが、14年前の中国には今と違う状況がある。

 2008年のオリンピックに際しては、開催が近づくにつれ、中国を批判していた西側諸国のトップらも開会式への出席を表明していった。分かりやすい例は、フランスのサルコジ大統領だった。サルコジ大統領は、最終的には他国のトップ同様、出席するものの直前まで態度を曖昧にしたままだった。

 フランスは、チベット問題を理由に中国国内で仏系スーパーマーケット「カルフール」が不買運動の標的にされる経験もしていた。サルコジ大統領は、他国の指導者たちがそうであったように、毎年2桁の経済成長を続けていた中国でのビジネス拡大や市場参入に遅れを取るまいと、中国との良好な関係を保つことが国益にかなうと判断したものと見られた。

 アメリカは当時も中国の最大の目標であり、ライバルでもあったが、ブッシュ大統領は夫妻で開会式を参観した。居並ぶ来賓の中で一番喜んでいるようにさえ見えた。

 前回の北京オリンピックは、世界最大のスポーツイベントを開催できる実力を示すことで、中国が国際社会と足並みを揃えることのできる“普通の国”としてのお披露目のような側面があった。そして、中国は見事にその期待に応えた。

“本性”?をあらわした中国

 だが、今の中国は14年前の中国とは違う。中国は前回の北京オリンピックの2年後にGDPの規模で日本を抜き、アメリカに次ぐ世界第2位の経済大国に成長した。軍事力を増強させ続け、こうした力を背景に領有権問題を抱える尖閣諸島や南シナ海での実力行使を辞さなくなった。

 国内の体制維持や少数民族政策を、より強権的な手法に頼るようになった。香港の一国二制度を骨抜きにし、その民意を意に介さず、香港を一気に中国化したことは記憶に新しい。最近では、台湾の防衛識別圏に軍用機を頻繁に侵入させ露骨な威嚇を続ける。

 国際社会における中国の経済的な存在感は、2008年当時より、むしろ大きくなっている。だが、こうした中国の“変化”あるいは“本性”を目にした、欧米をはじめとする多くの国は、この国を警戒するようになった。

 今回の開会式に14年前ほど外国の要人が集まらないのは、当然、コロナ禍の影響があるわけだが、一方で、かつては多くの国が折れて中国に“歩み寄った”にもかかわらず、今回はアメリカやイギリスなどの一部の国は外交ボイコットを貫徹しようとしている。

 国際社会における責任ある大国を自称する習近平政権にとっては、この事実は重い。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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