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岸田総理が衆院選を前に “タカ派”へ転向?ざわつく中国

宮崎紀秀ジャーナリスト
発言を中国が警戒?写真は選挙活動中の岸田総理(2021年10月27日東京)(写真:つのだよしお/アフロ)

 衆議院選挙の投票日が迫る中で、岸田文雄総理の発言に中国政府やメディアがざわついている。外交的に穏健な“ハト派”とみられていた岸田総理が、中国に対し強硬な立場に転向したかのように見えるからだ。

中国に一歩も引かない

「中国に対しても私は一歩も引きません」

 月刊「Hanada」誌の12月号が掲載したインタビューによれば、岸田総理はこう発言している。これが日本で報じられると、複数の中国メディアが、発言のこの部分を見出しにして伝えた。

 この発言は、岸田総理が外務大臣時代に、当時関係が冷え込んでいた中国の王毅外相と激しい議論を交わし、双方とも譲らなかったというエピソードの後に続くもの。「言うべきことはしっかりと言って、相手に自国の立場を伝える。国益のために外交・安保では、毅然とした姿勢が不可欠」という文脈の中でなされた発言だった。

 また同誌は、「総裁任期中に憲法改正の実現を目指します」という岸田総理の発言も引き出している。中国メディアはこの点も合わせて報じ、高い関心を伺わせた。

岸田総理がウイグル、台湾にも言及

「東シナ海で日本の主権を侵害する活動が継続し、南シナ海でも緊張を高める活動や法の支配に逆行する動きが見られる。ASEANを含む各国と深刻な懸念を共有し強く反対する」

 岸田総理がこう発言したというのは、10月27日に開かれた東アジアサミット。ASEAN(東南アジア諸国連合)の加盟国とアメリカや中国、岸田総理もオンラインで参加した。名指しはしていないものの中国を指していることは明らかだ。

「香港、新疆ウイグル自治区の人権状況や、台湾海峡の平和と安定の重要性にも言及いたしました」

 岸田総理本人がテレビカメラの前でそう話したのは、ASEAN関連の一連の会議についての説明だった。

ハト派からタカ派に変身?

 これに対し、中国外務省の報道官は、「日本の指導者は様々な場所で、公然と事実を顧みずに“中傷外交”をし、中国の内政に干渉している」と強く反発。「日中関係の健全で安定的な発展に建設的ではない」などと主張して、対中強硬発言を重ねる岸田総理を牽制した。

 こうした岸田総理の最近の発言について、中国共産党の機関紙「人民日報」系の「環球時報」が掲載した専門家のコラムは「民衆の目に映る岸田文雄は、期待されていた穏やかで上品な“ハト派”から、刀を研いで準備する“タカ派”分子に変わった」と警戒感を示した。

“転向”の原因は?

 このコラムは、安倍氏、菅氏らに比べて強気でもなかったはずの岸田総理が、急に中国に強硬な態度を示すようになった原因を、次のように理解している。

 その原因として、米バイデン政権の中国包囲網に後押しされているため、日本国内で保守化が進み、保守勢力に支えられているため、そして今回の選挙で勝つために仮想敵国を作り国民の目を向けさせるため、の3点を上げた。

 来年は日中国交正常化から50周年となる。中国はそれに加え、2月には北京冬季オリンピック、秋には習近平国家主席の異例の3期目続投を問う共産党大会を控える。中国としては、対日関係を含め対外関係において穏便に済ませたいのが本音であろう。先のコラムも、岸田総理の対日強硬発言に警戒を示しつつも、岸田内閣に対し「選挙が終わった後には、反省してよく考え、来年の国交正常化50周年を展望すべきだ」と期待感を滲ませている。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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