菅義偉総理の突然の退陣表明は、中国でも速報され大きく扱われたが、それは隣国日本の次のトップが誰になるかによって、両国関係に少なからぬ影響を与え得るからでもある。中でも、早くから自民党総裁戦へ出馬の意向を示している高市早苗前総務相に、警戒を強めているようだ。

日本初の女性首相が対中強硬派の悪夢?

「中国に強硬な彼女が、日本で初の女性首相になるのか?」

 菅総理が総裁選への不出馬を表明した3日の午後、こう題する評論を載せたのは中国の新聞「参考消息」ネット版。「参考消息」とは、中国国営通信「新華社」が発行する新聞で国際問題を扱う。

「中国に強硬な彼女」とは、高市早苗前総務相を指す。

 記事は、高市氏の経歴について、大学時代に軽音楽部でヘビーメタルのドラムを叩いていた過去から始まり、政界での遍歴、政治の世界での安倍晋三前総理との良好な関係も紹介した。

 政治的な立場としては「政策の主張は保守に偏向」。

 高市氏が「自衛隊法を改正し自衛隊により大きな権限を与えるよう主張」しており、「侵略の歴史に対する反省が足りず、従軍慰安婦の強制連行の存在を認めていない」人物であると警戒を強める。

靖国参拝も指摘

 高市氏が「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」のメンバーで、8月15日の終戦記念日に何度も参拝した事実も指摘した。

 更に、高市氏を評価する日本のネット上で声も紹介している。

 高市氏が日本の新総理になった場合の“危険性”を、そこはかとなく示唆したいようである。

 中国共産党の青年組織「共青団」の機関紙「中国青年報」も、アプリ版が配信した記事をこう題した。

「女性“新右翼”の人物が、就任する可能性がある」

 “新右翼”の女性とは、もちろん高市氏。

「彼女は言動から“新右翼”と見做されている」

 具体例としては、度重なる靖国神社への参拝に加え、高市氏は「日本の対外侵略戦争は、“自衛戦争”だと主張しており、他国が日本の教科書の内容に干渉することに反対」と紹介した。

自民党が初の女性総理の奇策に出れば…

 高市氏の次期総裁選での当選の可能性を高いとみているわけでもないが、やはり一定の警戒感を抱いているのは、国際問題を扱う中国共産党系の「環球時報」紙も同じ。公式アカウント上で、国内の複数の専門家の見解を伝える記事を配信した。

 資質や政策の継続性を重視すれば、岸田文雄前政調会長が優勢と見た上で、「自民党が突然奇策を打ち出す可能性もある」と分析したのは、外交学院の周永生氏(国際関係研究所教授)。

「初の女性総裁、女性首相を推そうとする、或いは右翼路線に傾こうとするならば、高市早苗にも可能性がある」

 日中関係に関して、周氏は、岸田氏が総理になれば「比較的温和で、日中関係が緩和する可能性がある」と述べてはいるものの、実はあまり期待はしていない。

 岸田氏が、日中関係を積極的に改善する政策は進められず、菅政権の政策を引き継ぐだろうからだ。

新総理の“反中”姿勢は折り込み済み?

「“嫌中”、“反中”が日本国内のある種の政治的な正しさ」

 同じ記事の中で、こう指摘したのは中国社会科学院の呉懐中氏(日本研究所副所長)。

 新首相が誕生した後は、政権基盤が弱いので、保守的な右派や国民に迎合して政権を守ろうとするだろうと分析する。

 さらに、総裁の候補者たちは、生まれが60年代前後。日本の政界では若手層に属し、現実主義だとして、そのスタンスをこう見る。

「対中政策への強硬度は同じではないが、総体的に言えば、“反中制中”を支持する一派に属している」

日本の総理は誰でもいい?

「環球時報」が4日付の紙面に載せたのは「日本の誰が菅義偉に替わろうとも、中国は対応できる」と題する社説。

「菅政権のこの1年の日中関係は酷かった」と評価した上で、誰が総理になろうとも、日中関係が良好に大転換するようなことが起きるのは「現実的ではない」。

 その理由を、日本国内で中国に対する悪いムードが日増しに濃くなっていることに加え、中国を抑制しようとするアメリカの戦略の影響を日本は大きく受けるため、国内的にも国際的にも、新しい対中路線を進める条件がないと示している。

実は余裕の中国?

 同時に、こうした環境にありながらも、中国側は対日関係を冷静に対処すべきだと指摘する。

 なぜなら、中国の経済規模はすでに日本を大きく上回っており、長期的に見れば、日本の地位と役割はアメリカの共犯者ではあれ、日本が再び中国の根本的な脅威とは成り難いからだ。

 その上、日中の経済・貿易関係の規模や互恵性を考えれば、例え日本で対中強硬の声が多くなったとしても、衝突する可能性は大きくない。

 中国にとっては、もし高市氏が次期総理となれば、多少、日中関係が悪化する可能性もあるが、すでに国力で決着をつけた今、大勢には影響がない、といったところだろうか。

「環球時報」の社説はこう結んでいる。

「日本の次の総理が対中強硬路線に進んだとしても、中国は挑戦に対応できる。中国は、ますます日本より強くなり、両国関係の悪化で損害をより多く受けるのは日本である」