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日本で闘病する娘に会えない・・・今も続く中国の弁護士弾圧

宮崎紀秀ジャーナリスト
6年前に拘束された人権派弁護士、王全璋(2020年7月9日北京 筆者撮影)

 今日7月9日は、中国当局が人権派弁護士の一斉摘発にのり出した事件から、6年となる。一部の弁護士は国家政権転覆罪などを受け、6年前の事件は一応の結末を迎えたが、中国における弁護士への抑圧は今も続いている。

出国を拒否

 ラジオフリーアジアなどによれば、人権派弁護士の唐吉田は、先月、日本で病に伏している娘を見舞いに行こうとしたところ、国家の安全に危害を加えるとの理由で、出国を阻止されたという。唐の娘は脳膜炎を発症し、日本で意識不明の重体となっている。唐は出国を認めてもらえるよう、今も当局に対し陳情を続けているという。

 中国当局による弁護士の弾圧は、6年前の「709弁護士一斉拘束」で明らかになり、国際社会からも非難された。しかしその状況はいまだ改善されていない。

 2015年7月9日、中国当局は、人権派と呼ばれる弁護士や市民活動家ら次々と身柄拘束するなど摘発を始めた。そのうち15人を起訴した。それ以外にも行動制限など何らかの圧力が及んだのは300人以上とされる。この事件は、その日付から「709弁護士一斉拘束」と称される。

弁護士の資格取り消し

 だが、それだけでは終わらず、弁護士への弾圧は、その後もさまざまな形で続いた。常套手段は、弁護士資格の取り消しである。

「私の弁護士資格を何とかして取り消そうと考えていた。名目を作っただけで、理由さえあれば何でもいいのです」

 こう話したのは資格取り消しを受けた弁護士の一人、李金星。SNS上での発信がその理由とされた。

「(SNSでの発信は)今の制度や法律や裁判所を攻撃するためではありません。私たちはただ事件を解決するために発信するのです。より公平で公正に解決するためです。でも、中国の現状ではそのような内容でも、反共産党、反社会主義と決めつけられてしまう」

 李は、様々な冤罪事件を長く手がけてきた著名な人権派の弁護士だった。2015年に弁護士の一斉拘束事件が起きた後は、拘束された弁護士の一人で、一時は安否さえ不明だった王全璋の家族の支援にも尽力していた。

全ての人が安全ではない

 李の資格が取り消されたのは、2019年8月。その処分の是非を問う聴聞会で、自身の立場を説明した当日の晩の決定だった。

 資格取り消しの決定が下された後、李は中国の現状と将来を憂いた。

「官僚たちが、いつ機嫌を損ねたり良くしたりするかは予測できない。自分のどの言葉がどの部門、どの人を怒らせたかも分からない。私が資格を取り消される最後の弁護士になって欲しいが、言えるのは、私が最後ではないであろうこと。公正な司法環境がなければ、弁護士だけではなく、企業、政治家、市民、全ての人たちが安全とは言えない」

本当に法で国を治める?

「709」で拘束された人権派弁護士、王全璋。安否さえ不明で、3年以上裁判が開かれないという異常事態が続いた。その王が取材に応じたのは、ちょうど1年前の2020年7月9日だった。王は、国家政権転覆罪で下された懲役4年6か月の服役をすでに終え、家族の元に戻ったばかりだった。

 裁判が3年以上開かれなかった理由。王は、検察側が指定する弁護士による裁判を拒み続けたからだと明かした。

「裁判所は、一方で人権派弁護士を叩きながら、もう一方では裁判のプロセスを美しく見せかけようとしていた。監禁されている人たちの弁護の権利を保障するとの名目で、自分たちが指定した弁護人を押し付けようとしていた。私はそれを拒否した」

 習近平政権は「法に依って国をおさめる」(依法治国)という方針を高らかに唱えてきた。だが、現実にはその美しい理念は名ばかりで、法を恣意的に用いている。その上、皮肉にも、庶民の権利を守るために法に忠誠を尽くしてきた弁護士たちを、締め上げている。(敬称略)

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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