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1800万都市から人の流出を制限。中国ができて日本ができないコロナ対策とは?

宮崎紀秀ジャーナリスト
感染が拡大した市内中心部(2021年5月29日広州)(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスの感染をほとんど抑え込んでいたといえる中国だが、今月下旬から南部の広東省で、感染拡大が再発した。この10日間で、海外からの流入を除く同省内での新規感染者は“わずか”26人だが、中国当局は、感染が集中した広州市からの人の流出を抑え込む強い措置に出た。

市外に出るにはPCR検査が必要?

 広東省の衛生健康委員会の発表によれば、昨日30日の海外からの流入を除く同省内での新たな感染者は20人。そのうち18人が広州市に集中した。

 ちなみ同日、中国の広東省以外の省で、海外からの流入以外の新規感染は確認されなかった。

 広州市は人口1800万人以上を有する同省の省都。感染拡大を受け、広州市は昨日、市民が同市を離れることを厳しく制限する措置を発表した。この措置は、本日31日午後10時から適用される。

 具体的には、市内の空港、鉄道駅、バス停などから同市を離れる旅客に対し、健康コードでの緑色コードの提示に加え、72時間以内に受けたPCR検査での陰性証明を求める。PCR検査の結果が間に合わなくて、出発時に示すことができない人は、無料でチケットの払い戻しや日程変更ができる。

 車で広州から省外に出る人に対しても、72時間以内のPCR検査の陰性証明の所持を求める。

 上に触れた健康コードとは、中国ではすっかり汎用されるようになった仕組みで、感染者への接触歴や隔離の必要性、感染リスクの高い地域への訪問歴などの有無が反映されるスマホのアプリが示すコード。いわばその人の安全度が分かる。緑色コードは、安全である証であり、商業施設やレストランが利用客に対し、緑色コードの提示を求めることも多い。

 さらに、昨日の通知によれば、貨物車両の正常な運行を確保するために、トラックドライバーのためのPCR検査場所を設置し無料で検査を行う。移動制限による市民の不安を見越した対策だろう。

市内では外出を制限する封鎖式管理

 市外への移動を禁じると同時に、市内では人々の行動を厳しく制限する措置に出た。昨日、広州市は、別の通知で以下のような措置を発表した。

 感染者に関わりが深いと見られる地域では、全ての人は自宅待機を基本とし、日常生活以外の活動を一切停止。一家で1日に1人、生活必需品の買い物に行く以外に、その他の人は外出してはいけない。

 娯楽場所や屋内の文化体育施設の営業停止。飲食店での店内飲食は禁止。学校では校内に寮があるなどの条件を満たす中学3年生と高校3年生以外は、登校での授業を見合わせ、自宅でのオンライン授業に切り替える。

 そしてこれらの地域では、本日31日から住民の封鎖式管理を始めた。全ての公共スペースを閉鎖し、人の立ち入りを禁止する。住民は、自宅から外に出ず、生活必需品は、地元のコミュニティが届ける、というもの。

 地元政府は、正統な理由なく協力せず、防疫対策を妨害したり、重大な結果をもたらしたりした場合には、法的責任を負うと市民に警告している。

新規感染26人でも強い措置のワケ

 広東省での感染再発は今月21日から始まった。30日までに海外からの流入を除く新規感染者は合わせて26人。この数は、日本では少ないが、今の中国では多い。それ故に感染が他の地に飛び火しないように人の移動を先ず制限する。

 感染拡大した都市からの人の流出を抑え、市内では封鎖式管理によって住民の移動を制限する。この方法は、最初に感染拡大を招きながら、今や日常生活をほぼ取り戻した武漢をはじめ、これまで中国がコロナの抑え込みに用い、効果的と考える対策である。

 実は、中国は、ワクチン接種が行き渡る以前に、この厳しい人の移動制限によってコロナをほぼ抑え込んだ。国情の異なる中国と日本はそこが違う。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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