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13年前のセクハラ被害を告発し、教師を有罪にした中国のネットアイドルが訴えたこと

宮崎紀秀ジャーナリスト
13年前に学校で受けたセクハラを動画で告発した周貝蕾さん(本人のウェイボーより)

 今年1月、四川省綿陽市にある学校の元教頭が、児童わいせつの罪などで懲役14年の有罪判決を受けた。元教頭を追い詰めたのは、13年前にこの元教頭から受けたセクハラ被害を告発した26歳の女性の勇気ある行動だった。

セクハラが学生の“面倒を見る”?

 児童わいせつと強制わいせつで懲役14年の有罪判決を受けたのは綿陽東辰聚星国際学校の元教頭、呉建峰。同校は、初等部から高等部を備えている。

 事件を詳報した中国メディアによれば、きっかけは去年2020年4月16日、呉が教え子たちのグループチャットに発信したメッセージだった。自分が校長になるので、支持して欲しいという内容だったという。

「自分が皆の面倒を見たのと同様に、今度は皆が自分の面倒を見て、支えて欲しい」

 しかし、そのグループチャットに教え子の側から告発があった。

「“呉先生”は、かつて男子学生を殴り、女子学生にはセクハラをしていた。いつもそのように“面倒を見て”くれた」

 それをきっかけに多くの卒業生たちが、呉が長期に亘って女子へのセクハラや、男子への体罰を続けていた事実を訴え出したという。

ネットアイドルが動画で自らの被害を証言

 卒業生たちの告発に追い風を与えたのが、自身のSNSで化粧品の紹介などをして、人気を集めているネットアイドル、周貝蕾さん(当時26歳)だった。周さんのウェイボー(中国版SNS)は、当時で90万人以上、今では119万人のファンを抱える。

 周さんは、卒業生の男性が、呉の女性へのセクハラを暴露した内容をSNSで見る。しかし、その結果は呉ではなく、「嘘をついている」などと、告発した男性に対する非難が集中した。

 周さんは、自分の発信が告発男性への援護射撃になると思い、まず自分のウェイボーに男性の暴露を転載。さらに自身も呉からセクハラを受けていた事実を証言し、その動画をアップした。

常習化していたセクハラを暴露

「当時、私が12、3歳の時、呉建峰は常に私にちょっかいを出してきました。例えば、呉先生の事務所に1人で呼ばれて、私が何か間違いをした時には、冗談のふりをしてお尻をたたかれました」

 周さん自身の動画の中での証言である。それだけではない。体操の時などには背中を撫で、ブラジャーの肩紐や背中のフックに触れてきたという。

「こんなことは、本当に嫌でした」

 ある時、補習として呉は周さんを自宅に連れて行った。リビングで勉強していると、呉は彼女が履いていたジーンズが少し大きいなどと言って、ジーンズを持ち上げるふりをして下半身を触ってきたという。その時は、彼女は驚いて転倒してしまった。

 さらに、靴下を脱ぐように指示し、「臭いかどうか嗅いであげる」などと言ったという。

 その時は、当時、高校生だった呉の娘がトイレに行く音が聞こえ、周さんは難を逃れたという。「もし何か起きていたら人生が台無しになったと思う」と訴えた。

周さんは「子供たちに2度とこのようなことが起きて欲しくない」と訴えた(本人のウェイボーより)
周さんは「子供たちに2度とこのようなことが起きて欲しくない」と訴えた(本人のウェイボーより)

ネットアイドルが立ち上がった理由

 周さんは2児の母親でもある。動画の中で、告発を決意した理由をこう述べていた。

「あまりいい話でもないし、私にも家庭があり、立ち上がる必要はないのではと考えたこともあります。多くの人が沈黙を選んだことも知っています。でも、多くの学生たちのことも考え、そして彼がまた校長になって、10代の学生たちを受け持つと聞き、私は、実名で告発したいと思いました」

 中国で、学校や教師など権威に楯突くことは容易ではない。実際に彼女もこの告発の後、多くの誹謗中傷を受けたという。しかし、彼女は次のようにも述べていた。

「私は自分の子供に同じようなことが起きて欲しくありません。だから、今声を上げることでどんな結果になっても恐れません」

被害者は200人?

 彼女は、さらに呉からセクハラ行為を受けたことがある人は、自分に連絡して欲しいと呼びかけた。すると約200人から連絡があったという。その後、彼女は警察から連絡を受け、事情聴取に協力した。そこで、証言してくれる人を募った。最終的に39人が立ち上がった。

 呉はこの後、地元の警察に身柄拘束された。

「教育部門には、今回の事件を契機にして、このような問題が深刻であると気付いて欲しいし、悪人が法律の裁きを逃れられないと伝えたい」

 彼女は、これまでも自身のウェイボーの中でも事件の経緯を説明するなどしながら、こう訴えていた。

セクハラを受けても立ち上がって欲しい

 そして、今、同じような被害を受けているかもしれない子供たちにこんなメッセージを送っている。

「狼の皮を被った教師が、子供達に手を出すようなことが2度と起きて欲しくない。今の子供たちはもっと賢くなっているから、こうしたことが起きたらどうしたらいいか分かるでしょう。どこの都市にいようとも、覚えていて欲しいのは、まず保護者に連絡して気付いてもらうこと。関係部門に報告して、警察に通報すること。私たちみたいに10数年経ってから立ち上がるようなことになって欲しくない」

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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