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新型コロナの感染源は武漢の市場ではない!発言が突然変わる中国の科学者を信用できないワケ

宮崎紀秀ジャーナリスト
この時は「市場が感染源」と言っていた高福氏だが(1月22日北京)(写真:ロイター/アフロ)

「武漢の海鮮市場が恐らく感染源」と公言していた中国の科学者が「市場は感染源ではないかもしれない」と印象づける発言を始めた。中国政府にとってかなり都合の良い主張の転換。それは本当に科学に基づく真実なのか?

武漢の市場は感染源ではなく被害者かも

「最初は、武漢の華南海鮮市場と推測した。でも、今考えれば、海鮮市場そのものは被害者かもしれない。その前にウイルスはすでに存在していた」

 新型コロナウイルスの感染源について、中国で防疫対策に当たっている科学者が「武漢の海鮮市場ではないかもしれない」と言い出した。中国政府が必死で展開する「感染源は中国ではない」キャンペーンに一役買おうとしているようだ。

 発言したのは、中国の国家疾病コントロールセンター主任の高福氏。高福氏は、武漢で新型コロナウイルスの感染が分かった直後に、国の専門家チームとして現地入りし、状況を分析した精鋭の一人である。

 冒頭の発言は、5月25日に香港のフェニックステレビが報じたインタビューの中でなされた。高氏はまずこう述べた。

「感染源の問題について、中国政府と科学者が努力を続けている。ウイルスは確かにコウモリから来たと推測するが、恐らくコウモリから人に直接感染したわけではない。中間宿主をずっと探しているが、まだ見つかっていない」

 その判断はどのくらい信じられるのか?と尋ねる記者にこう応じた。

「新型コロナウイルスは、私たちの多くの認識を覆している。私たちの多くの知識の蓄積が役に立たない」

 そこで、記者が武漢の華南海鮮市場から採取したサンプルの結論は出ましたか?と問いかけたところ、冒頭の「武漢の市場が、実は感染源ではないかもしれない」と印象付けるような発言をしたのだ。

 華南海鮮市場とは初期の患者のほとんどが関わっていた場所だ。

感染源は市場とかつては公言していた人物

 実は、世界に武漢の市場が感染源であると印象づけたのも、他ならぬ高氏自身である。武漢封鎖の前日に当たる1月22日、外国メディアも参加した記者会見で自らこう説明した。

「現在、私たちがすでに分かっているところでは、このウイルスの感染源は、今、皆が注目している市場、この市場では違法に野生動物が取引されており、恐らく野生動物及び野生動物に汚染された環境である」

 同じ人物の相反する発言にさすがにフェニックステレビも「あれ?」と思ったのだろう。「武漢海鮮市場が被害者である」という証拠を高氏は示さず、科学者による専門的な研究には時間がかかると強調しただけだった、とナレーションで補足した。

 高氏は1月にその市場で自らサンプル採取を行ったと認めた上で、こうも説明した。

「我々は動物からウイルスを発見したのでは決してないが、環境の中から確かにウイルスを発見した。廃水の中からウイルスを検出した」

善意の科学者?それとも...

 中国は今、世界に感染拡大の責任を責められ、一部では賠償を要求されるという動きさえ出る中で、必死に「感染源は中国ではない」と印象づけるキャンペーンを展開している。権威ある専門家の高氏が示した「感染源は武漢の海鮮市場でも、そこで売られていた動物でもないかもしれない」とする「新たな」認識は、中国政府にとっては心強い援護射撃になる。

 高氏が、初期の認識の甘さを、後の研究の結果に従い躊躇なく改めたというならば、科学者として謙虚な姿勢と言えるかもしれない。だがもしそうであるならば、「武漢の海鮮市場が感染源かもしれない」と早期に判断し、この4か月あまり放置したまま世界中の新型コロナウイルスへの認識を翻弄した行為は、科学者として無責任でもある。

安倍総理の発言にもむっとした中国

 安倍総理が25日、緊急事態宣言を解除した際の記者会見で「ウイルスが中国から世界に広がったのは事実だ」と述べたことにさえ、中国外務省の趙立堅報道官はかみ付いた。

「我々はウイルスの起源の問題を政治化、汚名化することに断固反対する。このようなやり方はWHO、大量の研究機関及び医学専門家の専門的意見に反していて、中日両国も含む国際社会の共同で感染症に対抗する努力と期待にも反している」

 そう主張する中国こそが科学や科学者を政治的に利用しているように見える。だから中国の科学者が言い出だすことは、時に信用できなくなるのだ。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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