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ネット授業を受けられず貧困少女が自殺未遂。新型コロナの思わぬ影響

宮崎紀秀ジャーナリスト
感染が深刻な中国では登校を遅らせる措置が続く。写真は2020年3月1日北京(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスの影響で、中国の学校でも新学期の登校を遅らせる措置が続いている。中国政府がインターネットを利用した授業を推奨する中、貧困家庭の15歳の少女が服毒自殺を図った。動機は、スマホがなくてネット授業を十分に受けられなかったことらしい。

少女の家庭は生活保護

 この問題が起きたのは、河南省のトウ州市。同市の発表によれば、先月2月29日、中学3年生の少女が服毒し病院に運ばれた。命に別状はなく容体は安定している。同市はこの事態を重視し調査を進めているという。

 同市の発表は以上だが、中国メディアは少女がネット授業を受けるために必要なスマホが与えられず自殺を図ったと報じている。

 少女は15歳。3人姉弟の真ん中で地元の中学に通う3年生。17歳の姉は高校1年生、13歳の弟は小学校6年生。

 両親は、共に障害者で、貧困家庭として生活保護を受けていた。

スマホ1台を3人で使う?

 トウ州市では、先月2月10日からネット授業が始まった。

 子供3人は1台のスマホを交代で使いネット授業を受けなければならなかった。これまでも授業を受けるためにスマホを巡って諍いが起きていた。

 29日、少女はテストを受ける必要があった。姉がスマホを渡そうとした時、少女はすでに服毒していたという。精神疾患のある母親の治療薬を大量に服用し、自殺を図ったとみられている。

「スマホの問題なのか、宿題をしたくなかったからなのか分からない」

 動機について、父親は中国メディアにこう話している。多感な少女の衝動。本当のところは、簡単には分からないのかもしれない。

省政府は貧困家庭への援助を指示

 しかし、少なくとも河南省の教育庁はこの問題の後、貧困家庭の子どもらにもネット授業が行き渡るよう指示した。

 昨日3月2日、省の教育庁が出したのが、その「小中学校のネット教育をより良くするための通知」。省内の市や県の教育部門に対し、経済的な困難を抱える家庭の子供たちを援助するシステムを作るべきとして、臨時的に端末を与えるなどの手を打つよう命じた。

「授業は停めても勉強は停めない」

 中国政府は、幼稚園、小学校から大学まで、感染予防の観点から、原則として登校の時期を遅らせるべきとしている。その上で「授業は停めても、勉強は停めない」という頼もしいスローガンの下に、インターネットを通じた授業などを推奨し、受験生や学童を抱える保護者を安心させようとしている。そうした中、今回、図らずも国内で貧困がいまだに社会の不安要素になる事実が露呈したとも言える。

 翻って日本である。安倍総理の一斉休校の要請が大きなニュースになったが、学校がそうした措置を取れば、今後、中国同様、インターネットを利用した授業などによるカリキュラムの補充が当然、検討されるだろう。

 その際には、子供たちの経済状況や環境によって、教育の質や機会に格差を生まないようにする努力が必要だ。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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