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「香港支持」発言で、中国が米バスケリーグになりふり構わぬ圧力

宮崎紀秀ジャーナリスト
NBAロケッツの試合。幹部の「香港」発言で中国が…(2019年10月3日)(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 反中国の色彩を強める香港のデモ。アメリカのプロバスケットリーグNBAの人気チームの幹部が、香港への支持を表明したことで、中国が社会全体でNBAに圧力をかける事態になっている。

中国は発言にキレて、ロケッツの放送中止

 事の発端はNBAのヒューストン・ロケッツのゼネラルマネージャー、ダリル・モーリー氏の発信。「自由のために戦い、香港を支持しよう」とツイートしたのがきっかけ。

 これに対し、中国のバスケットボール協会は、同氏の「香港に関する不適切な発言」に対して、強烈に反対すると強く非難した上で、同チームとの交流共同事業を暫定的に停止する、と発表した。また、国営中国中央テレビのスポーツチャンネルも、同氏の発言に強烈な非難を表明した上で、即日から同チームの試合を暫定的に放送しない決定をした。

 中国メディアなどによると、大手ネットショップの「京東」は「国家主権は何よりも重要」とした上で、「京東グループ」はロケッツに関する商品を全て(ネットから)取り下げる、などとしている。またアリババグループのネットショップ「陶宝」でも、ロケッツ関連のユニホームなどの商品が検索できなくなった。

NBA最高責任者も発言を擁護

 しかし、事はこれですまなかった。日本に滞在中のNBA最高責任者であるコミッショナー、アダム・シルバー氏が、「経済的な影響を受けたのは間違いない」としながらも、「表現の自由の行使」を支持する、とモーリー氏を擁護したことから、中国側の怒りの火に油を注いだ。

 先の国営テレビのスポーツチャンネルは、このシルバー氏の発言を看過しなかった。今日、改めて声明を発表し、「国家主権と社会の安定に挑戦する言論は、言論の自由の範疇に属さない」と怒り爆発させた。その上で、攻撃対象をロケッツからNBA全体に拡大し、中国で予定されていたNBAのプレシーズンマッチの放送を停止するとともに、NBAとの一切の協力交流を見直すとしている。

さらに芸能人までも「愛国化」?

 また複数の芸能人が、明日9日上海で予定されていたNBA関連のファンイベントへの出演を取りやめた。例えば、男性アイドルグループ、UNINEは「祖国分裂を図るいかなる言論や行為に反対する」と声明で出演取りやめの理由を述べているが、他も異口同音だ。

 実は、こうしたやり方は中国の常套手段だ。中国政府の立場に合わない意見や態度に直面すると、商業的な痛手を与えたり、市場から締め出すなどの脅しをかけたりして、外国の企業や団体をねじ伏せようとする。

 中国では、正解は共産党が決める。国営テレビやバスケット協会ならまだしも、民間企業や芸能人もその見解に従うのは不思議に思うかもしれない。その理由は、簡単だ。もしその正解に従わなければ、今回のNBAと同じような目に遭うからだ。中国では、共産党の正解に従う言論には自由が与えられて、その限りは発言が許される。

 中国外務省の報道官は、きょうの記者会見で、この顛末について質問した記者に対し、勝ち誇ったようにこう答えた。

「この問題に対する中国の民衆の反応と態度に注目するようアドバイスします」

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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