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香港デモが続くワケ。ついに公務員まで政府に抗議?〜「北京が悪い!」

宮崎紀秀ジャーナリスト
公務員による初の抗議集会。ライトを灯して抗議を表明した(2019年8月2日香港)

ついに公務員も抗議集会に!

 香港で起きている事態、ハイライトの1つは、2日の金曜日に開かれた公務員による抗議集会だろう。この問題において、公務員の集会は初めてという。集会は、香港島の官庁街にある公園で、ほぼ予定通り午後7時に始まった。

 途中、運悪く雨が降り始めた。暑い上に、湿度を上げる不快な雨だったが、集会が続く間、人は増え続けた。集会場では、時折「香港人、頑張れ!」とシュプレヒコールが上がり、熱気は冷めなかった。

 およそ2時間の集会は、終了時間もほぼ予定通り。大きな混乱もなく散会となった。公務員らしい「大人の集会」だった。

 公務員は、いわば香港政府の足元である。香港政府は、「公務員は、政治的に中立の立場を保つべきだ」と牽制していたが、その反対を押し切って多くが集会に駆けつけた。主催者側によれば、参加者は4万人。

 この集会は、「公務員も市民と共にある」というメッセージを発したわけだ。「体制側」の人たちさえも、若者たちが中心となっている抗議活動に同調した形だ。

公務員集会は主催者発表で4万人規模に(2019年8月2日香港)
公務員集会は主催者発表で4万人規模に(2019年8月2日香港)

参加した公務員は・・・

「北京が悪いです。一国二制度を直接、破壊している」

 集会に参加した男性公務員はこう答えた。一連の経緯で何が一番の問題と思うか?という質問に対してだ。「北京」は中国政府を指す。

 一国二制度とは、1997年に香港がイギリスから返還された際に、中国が本土とは違う資本主義を50年間維持し、国防と外交を除く「高度な自治」を約束した制度。中国本土には、出版、言論、集会などの自由はないが、今の香港にはある。 

 今回の抗議行動の引き金となった、「逃亡犯条例」の改正案は、成立すれば、容疑者の中国本土への引き渡しが可能になる。中国政府の意向が透けて見える一連の経緯は、香港人からすれば、一国二制度のなし崩しに見える。

 その男性は、公務員の身分がありながら、集会に参加した点については、「全然、問題ないです。個人の時間ですから」と、こちらの気持ちが良くなるくらい、はっきりと言い放った。

貸し切ったバスの上で抗議の声を上げる人も(2019年8月2日香港)
貸し切ったバスの上で抗議の声を上げる人も(2019年8月2日香港)

 別の女性公務員は、同じ香港人として、学生たちを支援したい、と話した。公務員として参加した点について「今後、問題にされるかもしれないけど・・・」と、一瞬戸惑いを見せたが、こう続けた。

「それほど心配はしていません。自分の権利と自由の方が大切です」

 女性は、(改正案を進めた)林鄭月娥長官は良いことをしたね、おかげで私たち香港人が団結できたと、冗談を言って笑った。

 公務員という立場から、発言が報じられるのを躊躇するかと思ったが、杞憂だった。むしろ2人からは「香港の声を伝えてくれてありがとう」と礼を言われた。男性は、雨の中でカメラを回していた私に、自分の傘を差し出してくれる献身ぶりだった。 

 彼らが集会やデモに積極的に参加するのは、香港政府に、中国政府に、あるいは国際社会に、自分たちの声を届けるためである。今の香港は、まだそれができる。それができなくなれば香港が香港でなくなる。みんな、それが嫌なのだ。

 中国政府は「香港は中国の一部」と言い、国際社会が香港情勢に口を挟もうものならば「内政干渉」と憤る。

 ところが、実際に香港の集会で皆が声を合わせて叫ぶのは、「香港人、頑張れ!」である。決して「中国人、頑張れ!」ではない。

ゴミを自発的に回収する姿も

集会後には自発的にゴミを回収する人たちの姿も(2019年8月2日香港)
集会後には自発的にゴミを回収する人たちの姿も(2019年8月2日香港)

 人が散っていく公園で、ボランティアがゴミを回収していた。丁寧にその場で分別までしていた。サッカーのワールドカップなどで日本のサポーターがゴミ拾いをして帰るのは、中国本土でもニュースになる。ネットの書き込みは、中国人も見習うべきだと惜しみなく称賛する。なぜなら中国本土では、あまり期待できない光景だからだ。

 しかし、香港では自然にごみを回収する人たちが生まれる。この一点をとっても、中国本土の香港の人の振る舞いは違う。

「何か拡大しようと要求しているわけではない、今の香港を維持して欲しいだけ」

 これは、今回、取材に同行して広東語を通訳してくれた女性の言葉である。

 香港の人たちからすれば、今、中国が、香港を消滅させようとしているように思えるのだ。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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