Yahoo!ニュース

香港デモが続くワケ。庶民のホンネは?〜「まともな人ならデモに行っている!」

宮崎紀秀ジャーナリスト
8月3日のデモ。若者たちは警察の催涙弾などを防ぐためヘルメットやマスクを装着(写真:ロイター/アフロ)

いまやデモは常態化?

 香港では、今週末も空港での集会に始まり、複数の集会やデモが計画されている。デモのそもそもの要求は、「逃亡犯条例」の改正案の撤回。容疑者の中国本土への移送を可能にする改正案にノーの声を上げているのだ。

 なぜなのか?端的に言えば、中国の司法制度に対する不信感だ。

 若者たちは連日デモに繰り出し、警官隊との衝突さえもいまや常態化した感がある。この状況を香港の人たちは、どんな気持ちで見ているのか?そのホンネを知りたい。

 香港は海を挟んで香港島と九竜(カオルーン)半島に分かれる。

 議会にあたる立法会や、中国の出先機関「中央政府駐香港連絡弁公室」があるのが香港島。官庁街だ。

 小さな店がひしめき、道に迷い込むと露店や市場などが突如現れるのが九竜半島側。例えるならば、下町か。多くの観光客が買い物や散策を楽しむエリアでもある。

 デモは、当初は政府機関のある香港島側に限定されていたが、今では、九竜側にも広がっている。

観光地モンコックでも

 先週末、3日土曜日のデモは、その九竜側だった。小さな球技場で午後2時半ごろから集会があり、そこに集まった人が通りを歩き出すという形で始まった。

 デモの通り道となる繁華街モンコックでは、早々に店じまいして、シャッターを下ろした商店や、飲食店も少なくなかった。

 デモは深夜まで続き、一部のデモ隊は警察署に投石するなどして、最後は強制排除される、という最近のパターンで終わった。

 主催者発表で参加者は12万人。

 デモが続けば当然、市民生活に影響が出る。観光業も打撃を受ける。一部のデモ隊による警察署への投石や、車両の破壊は、どんな大義名分があったとしても、犯罪だ。そんな状況を香港の人たちはどう見ているのだろうか。

 その翌日、デモ隊が練り歩いたモンコックの商店に話を聞いて回った。そこを選んだのは、商売への影響という「被害」を受けたであろうから。

 ところが、始めてすぐにわかったのは、多くの人が、取材を受けたがらない。おしゃべり程度ならまだしも、カメラで撮影しようとすると拒まれる。

 顔が出るのが怖いのだ。デモの参加者の多くが、帽子やマスクで顔を見えなくしているのも同じ理由だ。

繁華街モンコック。デモの影響を受けたというが(8月4日香港)
繁華街モンコック。デモの影響を受けたというが(8月4日香港)

まともならデモに行く?

「今の香港はおかしいですよ。私たちは、生活のために我慢して(仕事をして)いるけど、まともな人ならデモに行っています」

 多くの人が、取材を受けたがらない中で、そう応じてくれたのは、ペットショップの男性店主。

 Q 投石などのデモ隊の行為が、過激だとは思わないですか?

「私は、全然、激しいとは思いません。官の圧力に対する民の反抗です」

 この男性はおそらく40代。デモに参加している若者たちは偉い。自分が得するためではなく、未来のために今、戦っているのだから、とえらく若者たちを持ち上げた。

他人のモノを壊しちゃダメ

「彼らが民主の路を行くのは、構わない。でも社会を混乱させたり、他人のものを壊したりするのは、ダメです」

 そう話すのは、洋品店の女性。前日は早めに店を閉め、デモ隊に遭遇する前に帰宅したという。

 今、デモ隊の要求の一つは「独立調査委員会」の設立だ。警察が、デモ隊を暴力的な強硬手段で取り締まっていることや、身分不明の者たちがデモ隊に暴力を加えたことなどに対する真相究明だ。

 デモ参加者を始め、香港市民の中に、警察に対する不信感が膨らんでいる。

 この女性は、そんな警察も仕事でやっているのだからしょうがないと同情する。

「警察は治安を管理しています。市民の治安を守る責任がある」

学生は犯罪を犯しているわけではない

「(商売への)影響はありました。ほとんど人は来なくなりました」

 半ば諦めたかのように嘆くのは、ショウケースに囲まれて店番をしていた女性。ケースの中には、来月迎える中秋節の必需品、月餅が並んでいる。詳しく聞くと、デモ当日の売り上げは、普段の3割程度まで落ち込んだようだ。

 デモについての意見を求めようとすると、頑なに「私は中立です」と言う。今の香港で、どちらかの立場を表明するのは勇気がいる。

 一方、警察のデモ隊への対処の仕方について尋ねた。すると、デモ参加者たちに同情的な答えが帰ってきた。

「正しいとは思いません。学生たちは、デモをしているだけで犯罪を犯しているわけではないですから」

 

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

宮崎紀秀の最近の記事