レンタカーは1時間300円? 〜中国発!シェア経済の実態(前編)
1つの物やサービスを複数の人が共用する…シェア経済が中国で急激に発展している。今年2月に発表された報告書によれば、市場規模は2017年に5兆7220億人民元、日本円で約96兆4千億円に達し、今年はさらに30パーセント以上の成長が見込まれるという(艾艾媒諮詢『2017〜2018中国シェア経済業界全景調査報告』)。
中でもシェア自転車は、国内200以上の都市で合わせて2500万台以上が投入されるほど普及した。シェアビジネスの横綱格である。新大発明の1つとまで賞賛され、国内ではすっかり市民権を得た中国発シェア自転車は、ついに日本にも参入し始めた。
シェア経済大国となった中国を3回シリーズで追う。
パンダが走る!?シェア電気自動車
中国南西部の重慶といえば、唐辛子で真っ赤に染まった火鍋で知られるが、今や国内第5位の経済規模を持つ都市であり、近年のめざましい発展ぶりでも注目されている。その重慶に生まれたのがシェア自動車のパンダオートである。白いボディに青と緑のパステルカラーを使った小型車で、ドアにはパンダの顔が大きく描かれている。後部バンパーの下を覗きこんでも排気用のマフラーがない。電気自動車だからである。
スマホにパンダオートのアプリをダウンロードし、身分証や運転免許証などの個人情報を打ち込めば、早ければ数分でユーザーとして許可される。最初に必要な保証金は1000元(約1万7000円。1元=約17円)。支払いアプリを使ってスマホ上で払う。支払いアプリの使用の履歴などで得られる信用度が高ければ、その保証金も免除される(補足になるが、支払いアプリとは、銀行口座に紐付けされるなどして、アプリ上の操作だけで支払いや送金ができる。アリペイやウエイシンという種類があり、中国ではタクシーや屋台でも使えるほど広く普及している)。
スマホで借りるシェア自動車
パンダオートのアプリを開くと、重慶の地図上に市内に300あるという専用パーキングが丸印で表示される。その1つをタップすると、そのパーキングにある利用可能な車両がナンバープレートとともに示されるので、その中の好きな1つを選び、「申請」をタップすればレンタルの申し込みは終わり。あとは専用パーキングに行って該当の車を探し出し、アプリ上に表示される「解錠」をタップすれば、ピッという短い電子音とともに車のウインカーが1回点灯する。ドアロックが外れた合図だ。運転にキーは必要ない。
車はどこの専用パーキングに返してもよく、借りたパーキングに戻る必要はない。目的地に近いパーキングに返却すればよいわけだ。アプリ上で「返却」をタップすれば、使った時間分の料金が提示される。1時間19元(約320円)。これもスマホ上の支払いアプリを使ってその場で精算できる。
中国人スタッフにパンダオートのシェア自動車を実際に運転してもらい、同乗した。電気自動車だけあってモーターを入れても静かだ。しかし車内を見渡せば、助手席のドアの取っ手が外れて、辛うじてぶら下がっている。クラクションを押しても鳴らない。タバコの灰や乾いた泥の跡なども残っており、車内はあまり綺麗ではなかった。それも不特定多数が利用するシェア故の問題かもしれない。車体の維持管理は追いついていないと言わざるを得ないが、それにもかかわらずユーザーの反応は上々だった。
「タクシーが拾えない時に使います。便利だし値段もまあまあです」
「便利ですね。駐車場がもっと増えるといい」
一方、車両の数が少なく必要な時に使えない、という声もあった。3000万以上の人口を抱え、北海道とほぼ同じ面積を持つ重慶では、車3000台、専用パーキング300という規模では、まだ利便性に達しない、という意味なのかもしれない。
シェア自動車を通じて得るビッグデータ
パンダオートの本社は、インターネット関連の企業が集まる緑豊かな一画にある。オフィスの中は、お堅いイメージの一般的な中国企業とは異なりパンダのぬいぐるみやイラストが溢れていた。中でも目を引いたのは、壁の一面に設置された大きなモニターである。
モニターの中心に映されているのは、重慶の地図。その上には多数のスポットが赤や青に色分けされている。更にその地図を取り囲むように円グラフや折れ線グラフなどがある。レンタルされるパンダの車を通じて集めた情報、いわゆるビッグデータが可視化されているのだった。
あるグラフは車の利用された場所が、住宅区や商業区といった属性ごとに分類されていた。ホテル地区での利用が少なかったのは意外だったが、この分布は一定ではなく、例えば休暇の時期には、空港や駅といった交通の要衝での利用が増加するという。
「私たちは、ユーザーが大体どこに住んでいるか、職場はどこか、出勤と帰宅のルートを知ることができます」
そう話すのは、こうしたデータを把握し、車の運用などに活用する担当の責任者、運営総監の王鵬さん(33歳)である。
王さんがこうしたデータの活用方法として、真っ先に期待するのが、「位置情報サービス」である。位置情報サービスとは、ユーザーがどこにいるかを特定し、その場所情報を活用して展開するサービスの総称を指す用語である。
「例えば、ユーザーの移動経路の途中にスーパーがあったら、そのスーパーで何が割引セールされているかを知らせることができます」
日々の行動からあるユーザーが高級住宅地に住んでいるのがわかれば、安物の広告は必要ない。王さんは、広告の分野に「巨大な発展の余地がある」と期待を込める。さらに興味深いのは、将来的には保険の分野にも活用できる」という話だ。
「ビッグデータを通じて、危険度が高いのはどこかを知ることができます。交通事故が常に起きる場所や比較的少ない場所、交通規則違反の可能性はどこが高くてどこが低いか、などです。業界全てがまだ模索している段階ですが、位置情報サービスの応用は今後、どんどん広がっていくでしょう」
目指すは外出情報プラットホーム
パンダオートが運営を始めたのは2015年11月。重慶からスタートし2年余りの間に成都や杭州など合わせて6つの都市に展開した。車1回の利用料は19元〜25元(約320円〜420円)。1台の車が利用される回数は平均で1日5〜6回に過ぎず、レンタル料で利益を出せるのは「一部の都市」でしかないという。商売としてはあまり「お得」に思えないが、実は、レンタル業として収支を合わせることが最終的な目的ではないらしい。王さんがそのココロを明かす。
「私たちは、人の外出に関する情報プラットホームを作りたいのです。今のシェア自動車事業は完全にその目的に合っているのです。車を貸しているのは1つのチャンネルであり、手段に過ぎません。最も価値があるのは、プラットホーム上のユーザーなのです」