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実は世界の超名門校出身 いま覚えておくべき「世界3大ファッションスクール」出の日本人デザイナー

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
noir kei ninomiya 2023年春夏パリコレクション(写真:IMAXtree/アフロ)

欧米の名門ファッションスクールで学んだ日本人デザイナーがモード界で存在感を強めています。脱落者が多く出る厳しいカリキュラムを乗り越えて、深い学びを得たデザイナーたちはそれぞれのブランドを立ち上げて、実力を発揮。今や伸び盛りの時期を迎えています。この先、ますます評価が高まりそうな、今のうちに知っておきたい「ファッションスクール留学派ブランド」を紹介します。

一般に世界の「3大ファッション校」と呼ばれるのは、ベルギーのアントワープ王立芸術アカデミー、英国ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ美術大学、米国ニューヨークのパーソンズ美術大学です。そのほかにもパリやミラノに有名なスクールがありますが、今回はこの3つに絞ります。各校ごとに出身者(中退を含む)をみていきましょう。

YUIMA NAKAZATO 2023春夏パリ・オートクチュールコレクション
YUIMA NAKAZATO 2023春夏パリ・オートクチュールコレクション写真:IMAXtree/アフロ

■アントワープ王立芸術アカデミー(ベルギー)

Antwerp Fashion Department

まずはアントワープからです。アントワープのファッション科は多くの著名デザイナーが卒業生に名を連ねています。たとえば、マルタン・マルジェラ氏、ドリス・ヴァン・ノッテン氏、デムナ・ヴァザリア氏(「ヴェトモン」「バレンシアガ」)など。卒業に至る道のりの厳しさでも有名です。

カッティングやパターンに見惚れるブランド「AKIRANAKA(アキラナカ)」のナカアキラ氏もアントワープの卒業生です。在学中にイェール国際フェスティバルに選出された俊英。身にまとうと、高揚感を覚えるクチュール感が魅力です。

パリのオートクチュールコレクションに日本人として唯一、2016年から参加し続けているのは、「YUIMA NAKAZATO(ユイマナカザト)」の中里唯馬デザイナー。日本人が本格的に参加するのは、森英恵氏以来、史上2人目です。04年にアントワープへ進み、日本人では過去最年少で卒業しています。

日本人が相次いでアントワープへ向かう流れを呼び込んだ「先輩」的な存在が「MIKIOSAKABE(ミキオサカベ)」ブランドの坂部三樹郎氏でしょう。06年にアントワープのファッション科を首席で卒業しました。もう一つの名門校、セントマーチンを経てアントワープへ。このように2校以上のスクールで学びを深める日本人デザイナーも増える傾向にあります。

「TARO HORIUCHI(タロウ ホリウチ)」の堀内太郎氏は坂部氏に続く、ファッション科の首席卒業生。しばらくメンズブランドに注力していましたが、ウィメンズブランドを23年春夏シーズンから再始動しました。

ビッグメゾンで期待を集める成長株も現れています。「noir kei ninomiya(ノワール ケイ ニノミヤ)」の二宮啓デザイナーはアントワープを中退して、08年に「コム デ ギャルソン」のパタンナーに。12年に「ノワール ケイ ニノミヤ」をスタートしました。ブランド名の通り、「ノワール(黒)」主体のコレクションは独創性が光ります。

国内の4年制大学を卒業してから、あらためて留学を選ぶ人が珍しくありません。早稲田大学を卒業してからヨーロッパへ向かったのは、「kudos(クードス)」ブランドの工藤司デザイナー。アントワープを中退後、有力ブランドでのアシスタントを経て、17-18年秋冬シーズンにデビューしました。

現在もアントワープ出身者がブランドをスタートする流れは勢いづいています。「TELMA(テルマ)」の中島輝道デザイナーは22年春夏シーズンにデビューしたばかり。10年にアントワープを卒業。卒業コレクションをきっかけに、「ドリス ヴァン ノッテン」へ入社。帰国してからも「イッセイ ミヤケ」で腕を磨きました。ヨーロッパと日本のビッグメゾンでつちかったクリエーションは早くもプロの間で評価を高めています。

EZUMi 2023春夏東京コレクション
EZUMi 2023春夏東京コレクション写真:IMAXtree/アフロ

■セントラル・セント・マーチンズ美術大学(ロンドン)

Central Saint Martins

次にセントラル・セント・マーチンズ(以下セントマ)の出身者を見ていきましょう。日本人がセントマへ進む弾みになったのは、「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」の山縣良和デザイナーでしょう。05年にデザイン学科ウィメンズウェアコースを首席で卒業しました。15年には日本人として初めてLVMHプライズにノミネートされています。

山縣氏は自らデザイナーとして活躍するかたわら、教育者としても実績を積み上げてきました。セントマでの学び体験を、08年に立ち上げた学びの場「ここのがっこう」で生かしています。同校からは青木明子氏や小泉智貴氏、小高真理氏、富永航氏、村上亮太氏、横澤琴葉氏、吉田圭佑氏などの俊英が巣立ちました。

成長がめざましい日本人デザイナーとして名前の挙がる、「AKIKOAOKI(アキコアオキ)」の青木氏は「新鋭」のくくりから一歩抜け出した存在となりつつあります。09年に女子美術大学を卒業後、セントマへ留学。帰国後、セントマの先輩にあたる山懸氏の「ここのがっこう」で学びを重ねました。14年にブランドを立ち上げ、18年にはLVMHプライズにノミネートされています。毎日ファッション大賞の新人賞も受賞。官能美とクチュール感を兼ね備えたクリエーションはさらなる飛躍を予感させます。

セントマ出身者は仕事盛りの年頃を迎えていて、手がける対象にも広がりが出ています。日本航空(JAL)の新しい制服を手がけたのは、「EZUMi(エズミ)」の江角泰俊デザイナーです。建築やアートに通じる、モダンな美意識が持ち味。セントマを卒業した後、「アレキサンダー・マックイーン」や「アクアスキュータム」で経験を重ねました。モード性とトレンド感が同居する、大人エレガンスの薫る作風です。

日本最大のファッションウィークである「東京コレクション」ではセントマ出身者が目立ちます。22年にデビュー20周年を迎えた「mintdesigns(ミントデザインズ)」は東コレの主軸ブランドとしておなじみです。デザイナーの一人、勝井北斗氏はアメリカのパーソンズ大学で学んだ後、セントマに転じました。ファッションをプロダクトデザインと位置付ける独特のアプローチや、ポップでさわやかな色・柄、丁寧なテキスタイルづくりなどに定評があります。相方デザイナーの八木奈央氏もセントマで一緒に学んだ間柄です。精鋭が集まる名門校はビジネスや創作のパートナーと出会ううえでも貴重な場となるようです。

セントマのファッションニットウェア科を16年に首席で卒業したのは、「AYÂME(アヤーム)」の竹島綾デザイナーです。「シャネル」傘下の工房「ルマリエ」で刺繍の技を学んだ経験も現在のクリエーションに生かされています。23年春夏・東京コレクションではブランドとして初めてのランウェイショーを開催しました。

「SHINYAKOZUKA(シンヤコヅカ)」の小塚信哉氏は13年にセントマを卒業。15年にブランドを立ち上げました。18年にTokyo新人デザイナーファッション大賞に選ばれ、東京コレに初参加。22年にはブランド初の直営店をオープンし、着実にブランドを成長させてきました。

セントマ出身者のブランドが伸びる傾向は続いていて、「WATARU TOMINAGA(ワタル トミナガ)」の富永航デザイナーも23年春夏・東京コレクションで国内では初の単独ショーを開きました。セントマに学び、19年にブランドをスタート。仏イエール国際モードフェスティバルでグランプリを受賞しています。

MIKAGE SHIN 2022年春夏東京コレクション
MIKAGE SHIN 2022年春夏東京コレクション提供:IMAXtree/アフロ

■パーソンズ美術大学(ニューヨーク)

Parsons School of Design

次はアメリカに目を向けてみます。アメリカで評価の高いファッションスクールがパーソンズです。過去にマーク・ジェイコブス氏やアナ・スイ氏、トム・フォード氏、アレキサンダー・ワン氏など、大勢の著名デザイナーを送り出してきました。デザイナーオーディション番組『プロジェクト・ランウェイ』の舞台になったことでも知られています。

「MIKAGE SHIN(ミカゲシン)」ブランドの進美影デザイナーは早稲田大学政治経済学部を卒業して電通へ。17年からパーソンズでファッションを学び、ブランドもニューヨークで立ち上げました。年齢や性別、国籍にとらわれない、アート感の高いデザインで支持を広げてています。

ファーストシーズンの22年春夏から有力セレクトショップで取り扱いが始まったのは、サカイカナコ氏の「KANAKO SAKAI(カナコ サカイ)」。17年にパーソンズを卒業したデザイナーは在学中から「プロエンザ スクーラー」「3.1 フィリップ リム」に参画していたそう。早いうちからチャンスを得やすいのも、有力スクールならではのメリットです。

ニューヨークと東京を拠点に活動するジュエリーデザイナーの奥田浩太氏が手掛ける「KOTA OKUDA(コウタ オクダ)」はパーソンズの卒業コレクションで米1ドル紙幣がモチーフのドレスを披露して、話題を集めました。セントマでジュエリーデザインを修めた後、NYに移り、パーソンズではファッションデザイン科を卒業しました。異なる学科・専攻で知見の幅を広げることにも、複数スクールでの学びは有益なようです。1月に開催されたパリ・メンズコレクションでは「Maison MIHARA YASUHIRO(メゾン ミハラヤスヒロ)」が「KOTA OKUDA」のシグネチャー作品であるドル紙幣を取り入れたコラボレーションアイテムをショーで披露しました。

2023年1月、パリ・メンズファッションウィークで発表された「Maison MIHARA YASUHIRO」2023-24年秋冬コレクション
2023年1月、パリ・メンズファッションウィークで発表された「Maison MIHARA YASUHIRO」2023-24年秋冬コレクション写真:REX/アフロ

2023年1月、パリ・メンズファッションウィークで発表された「Maison MIHARA YASUHIRO」2023-24年秋冬コレクション
2023年1月、パリ・メンズファッションウィークで発表された「Maison MIHARA YASUHIRO」2023-24年秋冬コレクション写真:REX/アフロ

■欧米スクールをステップに飛躍 3大以外も選択肢に

そのほかにもニューヨークにあるFIT(ニューヨーク州立ファッション工科大学)やミラノのイスティテュート・マランゴーニなどが有名です。オートクチュールの職人技を学べるのは、パリのサンディカ・パリクチュール校です。3大スクールをはじめ、それぞれの学校で基礎から学んだデザイナーたちは、基本のテクニックはもちろん、引き出しの多さや、創造力を保つノウハウ、ビジネスとの向き合い方などの点で頼もしさが感じられます。手取り足取り教えてもらうのではなく、自主性に任された立場で、デザイナーという仕事を掘り下げる経験は、そこで学んだ人たちのバックボーンになっているようです。

今回は留学組のごくわずかを取り上げましたが、日本のファッションスクールで学び、華々しく活躍しているデザイナーはたくさんいます。学校をはじめ、デザイナーの経歴・プロフィルを知ることは、それぞれの持ち味や特質を知る手がかりにもなります。お気に入りのブランドやデザイナーを見つけるきっかけになるかもしれません。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した記事テーマについて、一部執筆費用を負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

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ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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