「永遠の妖精」と呼ばれ、今なお愛される大女優、オードリー・ヘプバーンのドキュメンタリー映画『オードリー・ヘプバーン』が2022年5月6日から公開されます。この作品は彼女のプライベートに迫った映像や写真が多く、秘められた実像に迫っています。ファッションアイコンだったオードリーのおしゃれ哲学を知る手がかりにもなりそうです。

映画『オードリー・ヘプバーン』 (c) 2020 Salon Audrey Limited. ALL RIGHTS RESERVED.
映画『オードリー・ヘプバーン』 (c) 2020 Salon Audrey Limited. ALL RIGHTS RESERVED.

まだ少女だった頃にまでさかのぼって、彼女の全人生をたどる構成です。代表作『ローマの休日』で演じた、快活な王女のイメージが強く、コケットな清楚さでも知られていますが、この映画では幼い頃や結婚後に負った心の「傷」にも光が当てられています。

リトルブラックドレス×ロンググローブで淑女風の装い

「ティファニーで朝食を」(1961) <撮影中>
「ティファニーで朝食を」(1961) <撮影中>写真:Shutterstock/アフロ

オードリーの映画人としての装いが一気に垢抜けたのは、ユベール・ド・ジバンシィとの出会いから。フランスの老舗ブランド「ジバンシィ(GIVENCHY)」の創業デザイナーです。2人はとても気が合ったようで、1954年にオードリーの主演映画『麗しのサブリナ』でジバンシィが衣装を手がけて以降、オードリーはジバンシィのミューズとなり、ジバンシィの服を愛用するようになりました。

ジバンシィがオードリーのためにデザインした映画衣装のうち、最も有名なのは、やはり1961年の『ティファニーで朝食を』の黒いドレスでしょう。今では「リトルブラックドレス(LBD)」と呼ばれるようになった、コンパクトなワンピースの原型です。

彼女が演じたホリー・ゴライトリーがブラックドレスに身を包んで、マンハッタン五番街のジュエラー「ティファニー」へ訪れる場面は映画史に残る傑作シーンといわれています。この時に着けていた、ひじまで覆う貴婦人ライクなロンググローブは2022年秋冬でのトレンドとしてリバイバルが見込まれています。

映画『オードリー・ヘプバーン』 (c) PictureLux / The Hollywood Archive / Alamy Stock Photo
映画『オードリー・ヘプバーン』 (c) PictureLux / The Hollywood Archive / Alamy Stock Photo

このドキュメンタリー映画の中でオードリーはジバンシィへの絶大な信頼を示しています。でも、単に命じられるがままに衣装を着ていたわけではなく、彼女自身のアイデアも生かされていた様子がうかがえます。今も多くの人が共有している、オードリーの清らかでありつつ、凜とした人物像はジバンシィの衣装との「共演」が呼び込んだと言えるでしょう。

「上品さ×はつらつ」が鍵に ウエストインやサブリナパンツ

「ローマの休日」(1953)
「ローマの休日」(1953)写真:REX/アフロ

オードリーの人生は女優としては栄光や賞賛に包まれていたと映りますが、内面はいろいろな「傷」を抱えていたようです。もともと女優志望ではありませんでした。幼い頃から憧れていたのはバレリーナになること。実際、才能はあったようですが、成功を逃し、第二の選択として女優の道に進みました。つまり、目指したキャリアは挫折したわけです。

でも、バレエで鍛えた脚線や手・腕の表現力はオードリーの女優キャリアを助けました。同時に、華奢でありながら、気品を備えた立ち姿は、衣装を格段に美しく見せるのに一役買いました。たとえば、『ローマの休日』ではプリンセス服ではない、ブラウスと膝下丈スカートだけのあっさりした装いでも、どこか王女のたたずまいがあり、場面に品格が漂っています。

半袖ブラウスの裾を、スカートにきっちり収めた着方は、トレンドに浮上してきたグッドガール風のスタイリング。ウエストを絞ったくびれシルエットもこれから盛り上がりそうです。

いわゆる「お嬢様ルック」ですが、はつらつとしたムードも同居。当時はこのような上品さと活動的イメージをミックスしたような着こなしは珍しかったはずで、清楚なオードリーのイメージも手伝って、彼女の装いは世界中のお手本になりました。今でこそミックスコーディネートは人気のおしゃれスタイルですが、オードリーはその先駆けとも言えそうです。

1957年のオードリー・ヘプバーン
1957年のオードリー・ヘプバーン写真:Shutterstock/アフロ

映画『昼下りの情事』でのオードリーは、白シャツの上に赤のニットジャケットを羽織り、襟と袖口を出してこなれ感を演出。鮮やかな赤は彼女のまっすぐな性格を映し出すかのよう。ストライプのパンツは活動的キャラクターとコケティッシュ感を兼ね備えていて、今見てもお手本になります。

オードリーは54年の主演作『麗しのサブリナ』で八分丈の細身パンツをはやらせ、ファッションリーダーになっています。現在でもサブリナパンツは定番的なボトムスとして人気があります。

家庭を最優先 女優キャリアも休業

映画『オードリー・ヘプバーン』 (c) Sean Hepburn Ferrer
映画『オードリー・ヘプバーン』 (c) Sean Hepburn Ferrer

実際の人生では、身勝手な父親に「裏切られた」という意識が長くつきまとい、人間関係、特に男性との間柄にややぎくしゃくした状況が続きました。

バレリーナになれなかったこと以上に、彼女の人生に重くのしかかったのは、父親の不在だったようです。オードリーがまだ幼かった頃に家を出た父親とは後に再会していますが、あまり望んだ形にはならなかったようで、かえって傷を深くした感じすらあります。

父親との関係は彼女の結婚にも影を落としたようです。最初の結婚相手となったアメリカ人俳優のメル・ファーラーは10歳以上も年上でした。約14年にわたって連れ添い、長男をもうけましたが、68年に離婚。69年にはイタリア人精神科医と2度目の結婚をしましたが、息子をもうけた後の82年に再び離婚しています。最後のパートナーとは事実婚を選び、最晩年まで一緒に過ごしました。

映画『オードリー・ヘプバーン』 (c) 2020 Salon Audrey Limited. ALL RIGHTS RESERVED.
映画『オードリー・ヘプバーン』 (c) 2020 Salon Audrey Limited. ALL RIGHTS RESERVED.

オードリーは女優として最もオファーが多かった時期に仕事を断り、映画界に背を向けました。子育てに打ち込んだ時期の映像や写真は多くありませんが、女優っぽさは薄く、懸命に母親であろうとした彼女の家庭を重んじる気持ちがにじんでいます。

しかし、本人はキャリアを惜しむ素振りも見せず、ひたむきに育児と向き合いました。その姿はまるで自分が父親にもらえなかった時間を取り戻すかのようでもあります。

ユニセフ親善大使として活動 チャリティーにも貢献

映画『オードリー・ヘプバーン』 (c) John Isaac
映画『オードリー・ヘプバーン』 (c) John Isaac

子育てを終えた晩年のオードリーは「世界の子どもたち」をいつくしむ仕事を引き受けました。ユニセフ親善大使の仕事です。彼女は飢えに直面した幼い頃に、ユニセフの支援で救われた体験を持っています。

各地を飛び回り、紛争地域にも足を踏み入れて、子どもたちにやさしく接しました。その頃の装いはニットトップスにパンツといった、実用的で飾らないいでたちが多くみられ、既に伝説的な女優だった名声にもたれかからない、彼女のインディペンデントな気高さを感じさせます。

オードリー流の着こなし哲学 見習いたい「永遠のお手本」

映画『オードリー・ヘプバーン』 (c) John Isaac
映画『オードリー・ヘプバーン』 (c) John Isaac

1993年に亡くなってから、もうじき30年にもなるのに、伝説がさびつかず、むしろ輝きを増しているのは、演技力が優れていたことに加え、大女優の評価にこだわらず、子どもたちへ本気の愛を注ぎ続けた生き方への共感ゆえでしょう。同時に、『ローマの休日』や『ティファニーで朝食を』のアイコニックな装いも、オードリーのイメージをタイムレスに息づかせています。

バレエに打ち込んだ経歴もあって、オードリーは繊細な所作やきれいな立ち姿が印象的です。「永遠の妖精」という、オンリーワンのイメージをまとううえで、彼女の立ち居振る舞いの見事さは大きな強みとなったようです。

今回の映画で感じられるのは、服を自分らしく着こなしているところ。ファッションを通して、「自分らしさ」を表現する達人と言えるでしょう。初々しさや元気感、清らかさ、意志力、気高さなどを兼ね備えたオードリーのイメージは、彼女流の凜とした着こなしのたまものとも映ります。幼い頃の痛みを胸に抱えながらも、「人間・オードリー」として誠実に生きた彼女の人生哲学を、そのファッションも無言で語りかけてくるかのようです。

『オードリー・ヘプバーン』

https://audrey-cinema.com/

公開表記:5月6日(金)TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国公開 配給:STAR CHANNEL MOVIES

(c) 2020 Salon Audrey Limited. ALL RIGHTS RESERVED.

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