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アカデミー賞のファッション総解説! 22年春夏に取り入れたい着こなし技

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
第94回アカデミー賞から読み解く2022年春夏ファッショントレンド(写真:REX/アフロ)

「世界最高のレッドカーペット」といわれる「第94回アカデミー賞授賞式」は、華麗なファッションの祭典でもあります。今回の授賞式で目立ったのは、華やかで楽観的な装いです。足かけ3年間にも及ぶ新型コロナウイルス禍の終わりを前祝いするかのような、レッドカーペットらしいゴージャス感が戻ってきました。今回は主な来場者の装いを総解説。集まったセレブリティーの装いからネクストトレンドを読み解いていきます(文中敬称略)。

キラキラと輝くディテールや、きれいな色使い、上品な透け素材、大胆なカッティングで見せる官能美などを多く取り入れていたのは、今回の大きな変化。シックな黒でさえ、きらめきやディテールが凝っていてグラマラスなムードです。キーワードは、「上品な肌見せ」「ジェンダーミックス」「レトロフェミニン」「官能美と未来的」「エレガント男子」です。

ランジェリーエッセンスで上品な肌見せ クチュール感を強調に

Jessica Chastain
Jessica Chastain写真:REX/アフロ

主演女優賞を受賞したジェシカ・チャスティンはきらめきスパークルなストラップドレスで登場。上半身はまばゆいゴールドのブラトップのような仕立てで、腰から下はラメ生地のピンクパープル系。ドレスのブランドは「グッチ」だそうです。ウエストのくびれを強調するシルエットで床に引きずるフロアレングスが艶美。今シーズンはこのようにランジェリーエッセンスを取り入れるのがトレンドです。

Nicole Kidman
Nicole Kidman写真:REX/アフロ

ニコール・キッドマンはブルーグレー系のドレスを選んで、堂々の女優ルックを披露しました。ベアショルダーのうえ、背中が大胆に露出したベアバック。クチュールラインの「アルマーニ プリヴェ」だそうです。ウエストにバッスル風のふくらみを持たせ、背中側に長く別布を垂らすという、クチュール感の高いドラマティックな仕立て。ストラップレスで支え、引き締まったボディーを際立たせていました。デコルテをきらめかせた「ハリー・ウィンストン」のネックレスはリュクスの極みです。

Lily James
Lily James写真:REX/アフロ

プレゼンターのリリー・ジェームズは素肌が透けるセクシードレスをまといました。薄いピンクのドレスは総花柄の刺繍仕上げ。腰の下まで深いスリットが入っているのに加え、トップス部分もブラジャー状のこしらえで、センシュアル(官能的)な着映えです。ドレスは「アトリエ ヴェルサーチェ」です。

ファッショニスタが夢中になる、ジェンダーミックスの究極形

Kristen Stewart
Kristen Stewart写真:REX/アフロ

レッドカーペットでは異例のマイクロミニ丈パンツをまとったのは、初ノミネートのクリステン・スチュワート。コンパクトなタキシード風テーラードジャケットとのコンビネーションは意外感マックス。しかもシャツのボタンは全開。マニッシュとセンシュアルの掛け算です。ジャケット、シャツ、パンツ、シューズ、ジュエリーがすべて「シャネル」。強さと官能性をミックスする着こなしで、22-23年秋冬に有望なトレンドを先取りした、さすがのファッショニスタぶり。片側に流す左右アシンメトリーなモードなヘアアレンジにも注目です。

Uma Thurman
Uma Thurman写真:REX/アフロ

ユマ・サーマンはシャープなシルエットのマキシ丈スカートで登場。膝で絞るマーメイド風シルエットはオントレンドの形。大人の余裕を感じさせる、クールでモードなエレガンスコーデです。肌をほとんど隠しているのに、しなやかな印象が際立つナロー(細身)ラインが優美。ドレスは「ボッテガ・ヴェネタ」です。

Zendaya
Zendaya写真:REX/アフロ

ゼンデイヤはメンズライクなシャツを、肋骨がチラリとのぞくクロップド丈にアレンジ。スカートの間でたっぷりの腹見せを仕掛け、ヘルシー感をアピール。メタリックシルバーのスカートは床を流れる「トレーン」がロマンティック。凛とした雰囲気で「ヴァレンティノ」を着こなしました。腕に何重にも巻いた「ブルガリ」のジュエリーもゴージャスです。

Lady Gaga
Lady Gaga写真:ロイター/アフロ

ジェンダーミックスの頂点とも呼べそうな装いを、プレゼンターのレディー・ガガが披露しました。きらめきを帯びた本格派のタキシード・パンツスーツで、大女優のライザ・ミネリをエスコート。蝶ネクタイの着けながら、靴はハイヒール。衣装は2019年にラスベガスでショーを開いた際に着ていた「ラルフ ローレン」のタキシードスーツがベースのよう。ウエストシェイプを利かせているのは、22-23年秋冬トレンドの予告編のようでした。

レトロな縦長シルエットに華やかさをプラス

Demi Singleton
Demi Singleton写真:ロイター/アフロ

スレンダーなシルエットのドレスが復活したのも、今回の傾向です。やや懐かしげな縦長フォルムを、ビジュウやアクセサリーで華やがせるスタイリングが目に付きました。デミ・シングルトンはベアバックの細めドレスを着用。淡いパープルは今年のトレンドカラーです。花モチーフとビジュウ飾りがきらめきを添えました。ブランドは「ミュウミュウ」だそうです。すっきりとしたシルエットに、淡いパープルと手仕事モチーフが高貴なムードを上乗せしています。

Zoe Kravitz
Zoe Kravitz写真:REX/アフロ

大物ミュージシャンのレニー・クラヴィッツを父に持つゾーイ・クラヴィッツは「サンローラン」の淡いピンクの細身ドレスで来場。オードリー・ヘプバーンを思わせる着映えです。ベアショルダーのすっきりシルエットで、胸元に配したビッグリボンがアイキャッチー。レトロなお嬢様風スタイルはトレンドのストライクゾーンです。往年のレッドカーペット風の、クラシカルで上品なドレスを若々しく着こなしてみせました。

たっぷり量感で「女優らしさ」全開 フロアレングスが復活

Saniyya Sidney
Saniyya Sidney写真:REX/アフロ

サナイヤ・シドニーのドレスは床に届く「フロアレングス」で、しかも優雅に裾が広がっています。淡いグリーンの生地に、手仕事感が強い盛り上げ刺繍とビジュウ飾りを施しています。パステルトーンのフラワーモチーフで埋め尽くされたドレスはやさしげなムードで、穏やかな平和を願うかのよう。ドレスは「アルマーニ プリヴェ」だそうです。

Olivia Colman
Olivia Colman写真:REX/アフロ

オリヴィア・コールマンはシルバーの総プリーツドレスで大女優の風格を漂わせました。こちらもフロアレングス。「ディオール」らしいクチュール感が堂々とした気品をまとわせています。袖先がスーパーボリューミーで、膝のあたりまで垂れ下がるほど。女神ライクな装いです。未来に向かって進んでいくようなメタリックカラーも注目トレンドです。

黒なのに華やか ボリュームやアート手法でリュクス感

Billie Eilish
Billie Eilish写真:REX/アフロ

主題歌賞を受賞したビリー・アイリッシュはオールブラックの肩出しロングドレスに身を包みました。ごひいきの「グッチ」のドレスです。黒1色のシックな見え具合でありながら、ラッフルいっぱいでボリュームシルエットが妖艶でもあります。髪も黒く染め直して、オールブラックを徹底。黒を華やかに盛る着こなしのお手本です。

Penelope Cruz and Javier Bardem
Penelope Cruz and Javier Bardem 写真:REX/アフロ

夫のハビエル・バルデムと共に来場したペネロペ・クルスはホルターネック状の「シャネル」のブラックドレス姿を披露。トレンドの健やかな肌見せを取り入れました。この春夏は部分的にくり抜いたような「カットアウト」で素肌を見せるのもトレンドに浮上しています。上半身はコンパクトで、腰から下が広がる「フィット&フレア」のシルエット。ハビエルはオールブラックのスーツ姿。今回はウクライナ侵攻やコロナ禍への弔意を示す意味もあってか、シャツやネクタイまでブラックの男性来場者が増えています。

Maggie Gyllenhaal
Maggie Gyllenhaal写真:REX/アフロ

アートオブジェ風のドレスをまとったのは、脚色賞にノミネートされた女優のマギー・ジレンホール。キャンバスにオブジェを配したかのようなドレスが知的なたたずまい。シュルレアリスムは2022-23年秋冬のトレンドとして有望視されています。レッドカーペットではネクストトレンドをいちはやくお披露目するのがならわし。こちらのドレスは「スキャパレリ」だそうです。

Renate Reinsve
Renate Reinsve写真:REX/アフロ

カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞しているレナーテ・ラインスヴェは官能的な仕立てのドレスを着用。「ルイ・ヴィトン」のドレスです。上品でありつつも、どこかパンク風味が漂う、手の込んだ仕立て。「着るアート」のようなテイストで、ネクストトレンドを先取り。程よい透け感も、官能美を醸し出しています。

レッドドレスはカッティングと素材使いでグラマラスに

Ariana DeBose
Ariana DeBose写真:REX/アフロ

助演女優賞を受賞したアリアナ・デボーズ(『ウエスト・サイド・ストーリー』)は真っ赤なストラップドレスであでやかな姿に。「ヴァレンティノ」ならではの艶美な仕上がりです。ひじのあたりに飾り布でボリュームを出して、ビスチェ状のトップスとワイドパンツ部分が量感のめりはりを生んでいます。ウエスト部分ではトレンドの「チラ腹見せ」も盛り込んだ、ドレスパンツスタイルです。

Kirsten Dunst
Kirsten Dunst写真:REX/アフロ

キルスティン・ダンストは真っ赤なベアショルダーのドレスを選びました。クチュール感の高いオーガンジーのフリルで埋め尽くされて、まるで花束に埋もれたよう。胸元で遊ぶチュールがほのかなフェミニンを薫らせています。「クリスチャン ラクロワ」のヴィンテージドレスというセレクトで、タイムレスな装いに仕上げました。

Jennifer Garner
Jennifer Garner写真:REX/アフロ

ジェニファー・ガーナーは縦に長いレッドドレスをチョイス。コンパクトなフォルムがボディーにフィット。胸元のVラインのカッティングが縦長シルエットを強調。二の腕を隠す布使いで、動きを加えています。ドレスはデザイナーオーディション番組『プロジェクト・ランウェイ』の審査員として知られる「ブランドン・マックスウェル」です。

男性陣はエレガントさが鍵 自分らしいミックス感を

Timothee Chalamet
Timothee Chalamet写真:REX/アフロ

ティモシー・シャラメはきらめきを全体にあしらったクロップド丈のブラックジャケットを素肌にまといました。前を開けてヌーディーな見え具合に。男の色気が漂う着こなしです。ネックレスの重ねづけで、正面の素肌に視線を引き込んでいます。黒のパンツはスリムシルエットで凜々しいレッグラインを描き出しました。上下共に「ルイ・ヴィトン」です。

Kodi Smit-McPhee
Kodi Smit-McPhee写真:ロイター/アフロ

コディ・スミット=マクフィーはウォーターカラーのダブルブレストで異彩を放ちました。「ボッテガ・ヴェネタ」です。シャツ色はもちろん、靴まで色を統一させる徹底ぶりです。カラーをそろえる、トレンドの「ワントーン」コーデで、さわやかな姿に。ころんと丸みを帯びた厚底靴が愛らしさも添えました。

Shawn Mendes
Shawn Mendes写真:REX/アフロ

ショーン・メンデスのタキシードは細身の仕立てでスッキリした印象です。ウエストシェイプがしっかり利いていて、若々しさが際立つテーラリング。「ドルチェ&ガッバーナ」ならではの、大人っぽい色気を帯びた装いです。

Will Smith and Jada Pinkett Smith
Will Smith and Jada Pinkett Smith写真:REX/アフロ

助演男優賞を受賞したウィル・スミスは正統派イメージの強いスリーピース(三つぞろい)で来場。オーソドックスなジャケットに見えますが、実は縁取りや切り替えなど、細かいテーラリング技が随所に盛り込まれています。ネクタイに添えたジュエリー使いにも、おしゃれ意識の高さがうかがえます。妻のジェイダ・ピンケット・スミスは深いグリーンの「ジャン=ポール・ゴルチエ」のドレス。腰から下がダイナミックにふくらんだ、クチュール感の高い装いです。

Troy Kotsur
Troy Kotsur写真:ロイター/アフロ

主演男優賞を受賞した トロイ・コッツァー(『コーダ あいのうた』)はオールブラックのスーツにハンチング帽をかぶって、意外感を添えています。セレモニーの場でも型にはまらない、大人のテイストミックスに自分らしさがにじんでいます。手話でのスピーチが感動的でした。

黒をベースに落ち着いたフォーマルルックを堂々と

写真:ロイター/アフロ

『ドライブ・マイ・カー』の監督・出演者はブラック主体の、比較的オーソドックスな装いで、落ち着いたムードを共有していました。主演の西島秀俊は黒い蝶ネクタイと白いポケットチーフでコントラストを強調。岡田将生はシャツまでオールブラック。霧島れいかはデコルテが透ける、「シャネル」のドレスで上品な肌見せ。キラキラのクラッチバッグをアクセントに。濱口竜介監督は白いポケットチーフを細くのぞかせて、品格コーデに整えていました。

ファッションの力で、平和や未来を願う 

平和を願うようなきれいな色使いや、未来に向かうようなきらめきが目立った、今回のアカデミー賞。厳粛なムードの黒でも、華やかさを帯びていました。特別なセレモニーへの敬意を示しながら、「自分らしさ」を演出する着こなしも多く見られました。

堂々と華やぎをまとうセレブたちの装いは、見る者に元気やパワーをもたらしてくれるかのよう。映画もレッドカーペットも、平和や安全があればこそという意識がこの日のおしゃれに特別なムードを寄り添わせていました。

気持ちを弾ませるきれいな色や、凝ったディテール使い、ジェンダーミックスの着こなしなどは、普段のスタイリングにも取り入れられるアレンジ。自分好みの春夏コーデに役立ててみてはいかがでしょう。

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ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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