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揺れるNYの学校再開プラン、正解のない答えを求められる親たち

宮下幸恵NY在住フリーライター
ついに学校での対面授業再開に「ゴーサイン」を出したクオモNY州知事(写真:ロイター/アフロ)

ついに、クオモNY州知事が「ゴーサイン」を出した。

「州全体での陽性率が低いため、全ての学区で(対面授業の)再開を認める」

アメリカでもっとも新型コロナウィルス蔓延に苦しんだニューヨーク州。特に、感染が広がったニューヨーク市では、3月16日から公立校が休校となりリモートラーニングがスタート。怒涛の3か月を経て、6月末から長い長い夏休みに突入している。

デブラシオNY市長と教育委員会は、市の新型コロナウィルス陽性率が7日間連続で3パーセント以下の場合に学校再開を認める発表をしており、すでに陽性率1パーセント台を3か月以上保っていたが、知事の一声で覆ることもあり、この日の発表でようやく9月からの登校が現実的になったのだ。

実際、ウィズ・コロナでの学校再開プランはどのようなものか? 1800を超える公立校を抱え、アメリカ最大規模のニューヨーク市教育委員会の発表をみてみる。

授業スタイルは2つのチョイス

リモートラーニングでの一コマ。IT授業ではタイピングも。子供の吸収は早い(筆者撮影)
リモートラーニングでの一コマ。IT授業ではタイピングも。子供の吸収は早い(筆者撮影)

まず、登校が可能とはいえ週5日ではなく、週に2、3日の登校とリモート・ラーニングを行う「ブレンド・ラーニング」か、登校せず「フルリモート・ラーニング」の選択肢があり、保護者はどちらかにするか、8月7日までにオンラインで希望を出すよう求められた。

もちろん、ブレンド・ラーニングを選んでも、学期ごとに完全リモート・ラーニングへの切り替え、またはその逆も可能だ。クオモ知事は7日の発表で、8月21日までに学校側が保護者と「3〜5回のディスカッションセッション」を持つよう指示。前例のない新学期スタートへ、密な意見交換を求めた。

登校の日数は学校の生徒数や、完全リモート・ラーニングを選ぶ生徒数にもよるが、筆者の子供が通う生徒数1000名以上のマンモス校の場合、ブレンド授業を選んだ場合は週に2日だけ登校し、残り3日はリモートラーニングとなる見込み。登校を選んだ生徒は3つのグループに分けられ、「登校日には1クラス9〜12人」となりソーシャルディスタンスを取れるようにする。また、兄弟がいる場合は、同じ曜日に登校できるよう配慮されるという。

完全リモートを選んだ場合、担任の先生が自分が通う学校の先生とは限らないようで、市の教育委員会が雇ったリモート授業専用の先生になる可能性もあるそうだ。

市はリモートラーニング開始に合わせ無償で電子端末の貸し出しを行っているが、引き続き9月以降もリクエストすれば無料で貸し出しが行われる。

ランチは日本スタイルに

現在、市は「Free Meals for All New Yorker(全てのニューヨーカーに無償の食事を)」とし、市内400箇所以上で1日3食を無料配布しているが、9月以降も食事提供は続く。

これまでなら、子供たちは学校のカフェテリアで朝食と昼食を食べていたが、キンダーガーテン(幼稚園年長に相当)まではクラスへ配布、1〜12年生(小学校から高校まで)は学校内でピックアップし、クラスで食べることになるという。もちろん、自宅からお弁当を持っていくことも可能だが、ピーナッツバターとジャムのサンドイッチなど、アメリカンな食事を好まない筆者の子供の場合、すでに3月半ばから3食用意しているので、この負担が9月以降も続くと思うとげんなりしてしまうのが本音だ。

無料で配布される食事。甘いサンドイッチにチョコレートミルク、チョコチップクッキーと、お世辞にも健康的とはいえない。筆者撮影
無料で配布される食事。甘いサンドイッチにチョコレートミルク、チョコチップクッキーと、お世辞にも健康的とはいえない。筆者撮影

また、完全リモート授業を選んだ場合も食事提供が受けられるよう、これまでのような学校での配布も行われる。

感染者が出たら

NY市クイーン区の公立校。門にはバーチャル卒業式を祝うバナーが。(筆者撮影)
NY市クイーン区の公立校。門にはバーチャル卒業式を祝うバナーが。(筆者撮影)

生徒数を絞っての学校再開だが、感染者が出た場合にも備えている。

学校は、体調不良の生徒や先生らスタッフが出た場合に備えて「隔離部屋」を設けるようにし、教職員は毎月PCR検査を受けるという。

もし、1クラスに1人、もしくは2人の感染者が出た場合は、その学級が14日間閉鎖となり、学校はオープンしたまま。しかし、2人以上の感染者が複数のクラスから出た場合は、学級閉鎖のみならず、学校が14日間の閉鎖に。

なお、生徒が自宅待機となった場合もリモートラーニングが行われ、学ぶ機会は失われない。

学校内でもマスクを着用し、十分な石鹸やハンドサニタイザーを用意するというが、日本の小学校のように「手洗い場」がなく、トイレに行かないと手が洗えないアメリカの学校の構造上、生徒数を減らしても本当にマメに手を洗うのか、子供を持つ保護者としては疑問が残る。

先生が学校に戻りたくない!

9月からの対面授業再開へ入念な準備が行われている一方、課題も多い。

1つは、教鞭に立つ先生が学校に戻りたくない、という事実だ。

ニューヨークポストによると、ニューヨーク市の名門公立高校であるスタイバーソン高校では、8割の先生が学校に戻りたくないという。(https://nypost.com/2020/07/24/80-of-teachers-at-stuyvesant-will-seek-exemptions-from-returning/)

記事にもあるが、もし現実になれば、生徒は学校に戻っても先生が教室にいない、なんて最悪のパターンも・・・。

さらに、同じくニューヨークポストによると、デブラシオ市長と教育委員会の方針は「混乱を招いている」として教職員組合の1つ、The United Federation of Teacher’s Solidarity Caucusが対面授業再開の条件を「コロナ感染の新規患者ゼロが14日間続くこと」をあげ、教育委員会のトップの辞職を求めて署名活動を始めるなど、教育委員会と教職員の溝も明らかに。(https://nypost.com/2020/08/03/another-teachers-union-group-rips-plan-to-reopen-nyc-schools/)

快く学校に戻る先生がどれだけいるのか、先生不足にもなりかねない事態だ。

専門科目や休み時間、スクールバスは

学校内での生徒の移動を制限するため、これまでは生徒が音楽室や体育館、IT授業を行うパソコンルームなどへ移動していたが、秋からは先生がクラスを訪れ授業を行うという。

果たして、勉強だけではない大事な専門科目が、どれだけ行われるのかは未知数だ。

アメリカの学校では授業と授業の間に休み時間がなく、NY市の公立校では1ピリオド(1限)分、50分のランチ休憩があるのみだが、登校できたとしても、ランチ休憩で校庭に出て遊べるのか、子供がソーシャルディスタンスを取りながら遊べるのか、もし遊べなかったら1日クラスに閉じこもることになるのか。まだ学校から方針が示されていない事柄が多い。

スクールバス内の感染対策も不透明で、バス通学の家庭が完全リモート・ラーニングを選ぶ理由にもなっている。

正解のない答えを求められる親たち

子供を持つ保護者としては、多感な時期に多くの友達と語らい、自分と違う意見を聞くなどの機会が極端に少ない現状が本当にいいのか。感染リスクを考えると、完全リモートのほうがいいのか、正解のない答えを求められているように感じてしまう。

経済活動は再開しているが、小学生の子供を家に1人で留守番させてはいけないため、9月以降も学校に行かない日がある限り、思うように働けないジレンマを抱えるワーキングペアレンツも多い。

筆者の子供が通う学校では先月、校長先生と保護者によるオンラインミーティングが行われ、校長先生が保護者の質問に答える機会も設けられた。

保護者からは、3月半ばから6月までのリモートラーニングで双方向の授業が少なかったことへの不満や、リモート授業で理解が深まるのかなどの懐疑的な声も上がったが、校長は「オンライン授業に対応するため、今先生は多くのことを学んでいる」と話すにとどまり、秋以降オンライン授業の質が上がるのか、始まってみないとわからない。画面越しとはいえ、校長先生の顔には疲労の色がにじんでおり、学校側も苦慮しているのがわかった。

毎日学校に通う、という今までの当たり前に戻る日が来るのか。前例のないウィズ・コロナでの学校再開は、来月に迫っている。

NY在住フリーライター

NY在住元スポーツ紙記者。2006年からアメリカを拠点にフリーとして活動。宮里藍らが活躍する米女子ゴルフツアーを中心に取材し、新聞、雑誌など幅広く執筆。2011年第一子をNYで出産後、子供のイヤイヤ期がきっかけでママ向けコーチングの手法を学ぶ。NPO法人マザーズコーチ・ジャパンの認定コーチに。『「ダメ母」の私を変えたHAPPY子育てコーチング』(佐々木のり子、青木理恵著、PHP文庫)の編集を担当。

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