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名古屋市デイサービスでの新型コロナ集団感染で休業要請。デイ利用は継続すべき?(3/11タイトル変更)

宮下公美子介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士
近い距離で接し、食事や入浴を共にするデイサービス利用では、感染のリスクはある(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

名古屋市内のデイサービス利用者が感染

2020年3月、愛知県名古屋市緑区内にある、デイサービス(高齢者が日中通って利用する介護保険のサービス)で集団感染が起きた。3月1日に感染が確認された高齢者が、デイサービスを利用していたのだ。同事業所の利用者5人に感染が確認され、そのうちの1人が通っていた別のデイサービスでも8人の感染が明らかになった。

この事態を受けて、名古屋市は緑区と南区のデイサービス126施設に2週間の休業を要請した。

すでに報道されているように、新型コロナウイルスは高齢者、特に80歳以上の人が罹患すると重症化し、命を落とすリスクが高い。このため、多くの介護施設、事業所は感染が拡大していく中、かなりの危機感を持って感染症対策を行っていたと思う。

しかし、目に見えないウイルスの侵入を完全に防ぐのは困難だ。感染者の出たデイサービスの感染症対策については承知していないが、集団感染が起きたという事実だけで批判することはできないだろう。

▲どれだけ感染予防に努めても、新型コロナウイルス感染に対する万全の予防策はない(フリー画像)
▲どれだけ感染予防に努めても、新型コロナウイルス感染に対する万全の予防策はない(フリー画像)

「一斉」休業のデメリットはどれだけ考慮されているのか

それにしても、一斉休業という行政の判断はどうなのだろうか。

重症化リスクのある高齢者が多数利用するデイサービス等では、利用者に感染者が出た場合は、休業もやむを得ないかもしれない。しかし、感染者がいない段階での休業は、波及デメリットが大きい。

自宅では一人で過ごすことが困難であったり、食事や入浴のサービスが必要であったり、心身の状態を整えるためであったり、みな必要があってデイサービスを利用しているのだ。

いきなり今日から利用できないとなれば、家族が仕事を休んで対応しなければならないケースも出てくるだろう。一人暮らしの人であれば、たちまち生活が成り立たなくなるかもしれない。

代替のケアとして、訪問介護が勧められているが、これも現実的とは言えない。平常時でも、訪問介護は従事するホームヘルパー不足で、利用希望があっても対応できていない事業所が多い。

訪問介護事業所は、利用者を訪問するホームヘルパーの感染リスクへの対応も必要だ。そこへ、新たにデイサービス126事業所に通う約5800人の高齢者のケアを担うよう求められても、対応できるキャパシティはほとんどないだろう。

▲訪問介護員(ホームヘルパー)の不足状況の推移。古いデータだが、その後も人員不足はさらに深刻化している(データは厚生労働省 「介護労働の現状」より)
▲訪問介護員(ホームヘルパー)の不足状況の推移。古いデータだが、その後も人員不足はさらに深刻化している(データは厚生労働省 「介護労働の現状」より)

その他、デイサービスの代替ケアとして考えられる「ショートステイ」(一時的に入所して預かってもらう介護サービス)も、受け入れを休止するところが出ている。

デイサービス休止の2週間で、自宅でケアを受けられずに過ごす高齢者が心身の状態を悪化させてしまうことが怖い。

学校の一斉休校もそうだが、「一斉」には大きなデメリットが伴う。行政はその点をもっと考慮する必要があるのではないか。

デイ利用継続か否かは本人も家族も納得できる選択を

名古屋市の当該地域では、デイサービス休業要請が出されたものの、休業せずに受け入れを続ける事業所が多数あるという。感染リスクが現実的に高まっている中、批判もあるかもしれない。

しかし、これは利用者を取り巻く実状を考慮した勇気のある決断だ。できうる限りの感染症対策を取って、利用者を支えてほしい。

そして、デイサービス利用者とその家族は、苦渋の決断だとは思うが、利用継続にあたっては、感染リスクと、そこから起こりうる最悪の事態まで想定しておいてほしいと思う。

未だ実態が完全に把握できていないこのウイルスについて、万全の感染症対策はあり得ない。どこにいても、何をやっても、一定のリスクはある。そして、デイサービスのような複数の人が集まる場に行けば、そのリスクは高まる。

選択肢がない状況の中、酷なことだが、万一感染、さらには最悪の事態が起きたとしても、安易にその責任をデイサービス事業所に求めない覚悟を持って利用してほしい。

感染リスクを回避するために利用を中止すれば、在宅生活で心身状態が悪化したり、転倒などの事故が起きたりするリスクもある。どちらのリスクを、より避けたいのか。

そして何より、利用者本人が(認知症であっても)どうしたいと考えているかをよく聞き、本人も家族も納得できる選択をしてほしいと思う。

筆者自身、介護家族であり、利用者やその家族の心情は察するにあまりある。

筆者は、大事を取り過ぎたためにかえって本人の心身の状態を悪化させてしまった経験がある。高齢者にとって決して長くない、残された人生をどのように過ごすことが最も幸福なのか。それをもっと深く考えるべきだったと、今も悔いている。

厳しい状況にあるが、よく考え、悔いのない選択をしてほしいと思う。

▲デイサービスの利用を継続すれば感染リスクがあり、中止すれば心身状態悪化などのリスクがある。本人、家族はその両方を十分考慮して利用するか否かを決めてほしい(フリー画像)
▲デイサービスの利用を継続すれば感染リスクがあり、中止すれば心身状態悪化などのリスクがある。本人、家族はその両方を十分考慮して利用するか否かを決めてほしい(フリー画像)

介護事業所は職員が感染した場合の備えも

介護サービス関係者は、今後、感染が拡大し、職員が感染した時の対応も想定しておく必要がある。複数の職員が感染により数週間の休職を余儀なくされたとき、どのような職員配置とするのか。その場合、利用者にはどのように対応するのか。

介護報酬については、一時的な人員不足による報酬の減額を行わないという国の方針が示されている。しかし、現実的にはどこもギリギリの人員で運営している中、これも実に難しい対応となる。

要介護の高齢者にとって、介護サービスはライフラインに等しい。一定期間、派遣の介護職を雇用する費用について、行政からの助成などはあり得ないのだろうか。地震などの自然災害も含め、非常時の対応として、介護事業所も行政も、ノウハウを開発、蓄積してほしいと思う。

介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士

高齢者介護を中心に、認知症ケア、介護現場でのハラスメント、地域づくり等について取材する介護福祉ライター。できるだけ現場に近づき、現場目線からの情報発信をすることがモットー。取材や講演、研修講師としての活動をしつつ、社会福祉士として認知症がある高齢者の成年後見人、公認心理師・臨床心理士として神経内科クリニックの心理士も務める。著書として、『介護職員を利用者・家族によるハラスメントから守る本』(日本法令)、『多職種連携から統合へ向かう地域包括ケア』(メディカ出版)、分担執筆として『医療・介護・福祉の地域ネットワークづくり事例集』(素朴社)など。

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