介護を「単純労働」と呼ぶ違和感――ある介護事業所に見る介護職の高度な対応力

介護は看護や医療、心理職と同様に高度な対人援助職なのだが……(ペイレスイメージズ/アフロ)

2018年12月8日、外国人材の受入を拡大する改正入管法がついに可決成立した。制度の詳細が決まっていない点など、問題の多い改正法であることはすでに多くのメディア、有識者が指摘している。言いたいことは山ほどあるが、ここではその問題については取り上げない。ここで改めて問いたいのは、この改正法によって受入拡大対象の候補として挙げられている「介護」などの仕事を、なぜ「単純労働」と呼ぶのか、という点である。

介護分野などへの外国人材の受入に反対しているのではない。言葉の上の問題としても、特に「介護」を単純労働と呼ぶことに、介護分野で長く取材をしてきた者として強い違和感を覚えているからだ。そこで、今更ながら、この問題をあえて取り上げたい。

特に、記事後半の、介護の現場での取り組み実例を、介護の仕事を理解するため是非読んでほしい。

介護は「単純労働」か「専門的・技術的」労働か

今回の改正入管法で新たに設けられた「特定技能1号」で受入対象候補となっているのは、「介護」をはじめ、外食、農業、建設、ビルクリーニング、漁業、飲食料品製造、素形材産業、産業機械製造、電気・電子情報関連産業、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊の14業種である。

今回、これらの業種について、一部メディアが「単純労働」と表現した。ではメディアはなぜ「単純労働」という言葉を使ったのか。元をたどると、厚生労働省が発出した文書に「単純労働者」という記述があったからだと思われる。例えば、「平成15年度『外国人労働者問題啓発月間』実施要領」に下記のような表現がある。

政府は、専門的、技術的分野の外国人労働者の受入れをより積極的に推進するが、いわゆる単純労働者の受入れについては、我が国の経済社会と国民生活に多大な影響を及ぼすこと等から十分慎重に対応するとの方針を維持してきている

出典:平成15年度『外国人労働者問題啓発月間』実施要領

ちなみに、この文書は、当時すでに増加していた外国人労働者の適正な雇用と不正就労の防止を図るため、事業主や国民に外国人労働者問題についての周知と啓発を行うために発出されたものだ。

平成15年時点で、国は「専門的、技術的分野」の外国人労働者とは別に、積極的には受け入れたくない外国人労働者として、「単純労働者」を挙げていた。ここから、今回の改正入管法において、メディアは14業種を「単純労働」と表現することにしたらしい。そして、国もこの表現を否定しなかった。

しかし、実は介護の国家資格である「介護福祉士」についていえば、平成29年9月から、「専門的・技術的分野」に該当する在留資格に加わっている。

これは、EPA(経済連携協定)による外国人介護士の受入により、定められた4年間の在留期間中に介護福祉士資格を取得した外国人介護士が、在留資格を得られることになったからだ。

一方で、「単純労働」と呼ばれ、一方では、「専門的・技術的分野」の在留資格の対象とされる。介護の仕事とは一体何なのか?

「介護」は「単純労働」とされる一方で、「専門的・技術分野」にも含まれている(図表:新たな外国人材の受入れに関する 在留資格「特定技能」の創設について(平成30年10月12日 法務省入国管理局)より引用)
「介護」は「単純労働」とされる一方で、「専門的・技術分野」にも含まれている(図表:新たな外国人材の受入れに関する 在留資格「特定技能」の創設について(平成30年10月12日 法務省入国管理局)より引用)

無資格者と国家資格有資格者が混在する介護の職場

介護の仕事、職場は、少しわかりにくいところがある。無資格未経験からの就労者と国家資格である介護福祉士有資格者が、大枠で言えば、同じ仕事を担っているからだ。

訪問介護のホームヘルパーは、介護福祉士あるいは介護職員初任者研修(旧・ホームヘルパー2級研修)修了などの有資格者でなければ就労できない。しかし、特別養護老人ホームや有料老人ホーム、デイサービスなどの入所・通所施設では、介護職に介護の資格は求められていない。無資格未経験でも就労できる。

このため、介護は「無資格未経験でもできる」=「単純労働」という誤解を招きやすい。

実際には、介護職は高度な対応が求められる対人援助職だ。介護の仕事というと、長い間、食事介助、入浴介助、排泄介助という「三大介助」が、その業務の中心であるかのように思われてきた。身体介護が重視されていた介護保険制度草創期など、介護職自身、そう思っていた人が多かった時代もある。

介護の職場には、無資格の未経験者、無資格のベテラン、国家資格の介護福祉士を持つ未経験者、介護福祉士を持つベテランまで多様な介護職が働いている(ペイレスイメージズ/アフロ)
介護の職場には、無資格の未経験者、無資格のベテラン、国家資格の介護福祉士を持つ未経験者、介護福祉士を持つベテランまで多様な介護職が働いている(ペイレスイメージズ/アフロ)

介護の仕事に求められる力とは何か

しかし、今や超高齢社会となり、「認知症ケア」が重視されるようになった。65歳以上で認知症を持つ人は、2012年時点で約7人に1人。2025年には、5人に1人になると推計されている。これからの時代、「三大介護」より、一人ひとり症状の現れ方の違う認知症という病気の特性を十分理解し、適切な対応ができる介護職が求められていくだろう。

ただ、正確に言えば、介護で重要なのは、「認知症」への対応力ではない。

認知症を持つ人に特に顕著に表れる「個別性」を理解し、その人に合わせて対応する力だ。

この力を発揮するには、一人ひとり異なる高齢者のバックグラウンド、考え方、好み、ポリシーなどを知り、尊重することが必要になる。様々な個性を持つ人を受け止めて、日々の生活を支えて行くには、相当の懐の深さが求められる。高齢者にありがちなかたくなな心を溶かす、発想力豊かな働きかけ、柔軟性、行動力、粘り強さ……。つまりは総合的な「人間力」に裏打ちされた対応力が求められるのが、介護の仕事なのだ。

一人ひとり違う高齢者を理解し、その人に合わせた対応をしていく介護の仕事では、総合的な人間力が問われる(フリー画像)
一人ひとり違う高齢者を理解し、その人に合わせた対応をしていく介護の仕事では、総合的な人間力が問われる(フリー画像)

【ある介護事業所の取り組み】 かたくなだった男性が反応した言葉とは

ある介護事業所での認知症を持つ高齢者への対応を例として紹介しよう。

元教師だったある男性は、認知症が進行し、二人暮らしの妻に暴言、暴力が増えていった。妻は耐えきれずに家を出て、男性は一人暮らしとなった。訪問介護を受けて、なんとか生活を維持していたが、それも限界に来た。そこで、通い・訪問・泊まりを組み合わせて利用できる介護保険サービス、「小規模多機能型居宅介護 おたがいさん」(神奈川県藤沢市・株式会社あおいけあ*が運営)が関わることになった。

しかし、「おたがいさん」で当時、管理者を務めていた「あおいけあ」代表の加藤忠相さんが家を訪れても、男性は「帰れ」と言って受け入れない。何週間も玄関先で挨拶をする日々が続き、数週間後、ようやく玄関まで入れてもらえるようになった。そこから男性は徐々に心を開き、次第に加藤さんを家に上げ、アルバムを見ながら会話するまでになった。

関係を築いてきた加藤さんは、何とか事業所に通ってきてくれるようになればと考えた。しかし、ただ来てほしいと言ったところで、来てもらえないことはわかっていた。そこで加藤さんはまず、こう声をかけた。

「今度、うちの事業所でクリスマス会をやるのですが、どんな内容にするか、いいアイデアが出なくて困っています。アドバイスをもらえませんか」

元教師のこの男性は、「アドバイスがほしい」という加藤さんの言葉に反応した。そして、「仕方ないな」と、事業所に出向くことを承諾する。

約束の日、男性を迎えに行った加藤さんは、事業所に着いても、この男性を事業所の利用者たちが過ごす部屋には案内しなかった。案内したのは、職員たちがミーティングをしている部屋。男性を利用者として事業所に誘ったのではなく、アドバイスをもらうために招いたからだ。そして、男性は職員たちと共にクリスマス会について話し合い、アイデアを出し合った。

「そのアイデアいいですね」と、男性の話を聞きながらメモしていた職員たちは、今度は、こう声をかけた。

「いただいたアイデアを元に、クリスマス会のチラシを作りたいのですが、手伝ってもらえませんか?」

チラシづくりにも足を運んできた男性に、職員たちは、今度は「チラシを印刷するのを手伝って」と頼んだ。印刷が終わると、「近所の家にチラシを配るのを手伝って」と声をかけた。この頃には、男性は「こいつらは俺がいないと何もできない」と、職員たちを助けるために、事業所に「出勤」するようになっていた。

誰でも、いくつになっても、人の世話になるより人の役に立ちたいもの。頼られることが行動のモチベーションになる(フリー画像)
誰でも、いくつになっても、人の世話になるより人の役に立ちたいもの。頼られることが行動のモチベーションになる(フリー画像)

介護は支援-非支援の”縦”の関係でする仕事ではない

この対応を読み、どう感じただろうか。注目してほしいのは男性と職員の関係だ。

この男性との関わりの中で職員たちが取った行動に、支援者-被支援者という縦の関係はない。だからこそ男性も職員たちに心を開き、互いに受け入れる・受け入れてもらう、できることをする・やってもらうという、ある意味対等な関係を結べたのである。

いい介護を提供している介護事業所ほど、利用者の認知症の有無などさして気にしない。利用者が職員を助けることもあれば、職員が利用者を支えることもある。そこにあるのは、それぞれに個性を持った人と人との関係なのである。

これが、介護の仕事の一つの例だ。こうした関係の中で、体を動かすことがリハビリになったり、一緒に料理を作ることが認知症の進行の抑制につながったりする。そもそも料理などは、若い介護職が利用者である高齢者に教わる方が多い。

介護技術、対人援助技術を身につけていたとしても、それを振りかざすことが介護なのではない。その人らしい暮らし方を実現し、維持していくこと。それが介護の目的だ。「三大介護」にしても、高齢者との関係を築く上で活用する手段の一つにしかすぎないと、加藤さんは言う。

困っているときには互いに助け合う。そんな当たり前の感覚を持つニュートラルな一人の人間として、高齢者との関係を築いていく――。それは、誰にでもできることのように思えるかもしれない。しかし、実践するのは、実は容易ではない。

そんな介護の仕事を「単純労働」などというのは、本当にやめてほしいと思う。介護人材の不足に危機感が高まる中、なぜ、わざわざ介護の仕事をおとしめるかのように、「単純労働」などという言葉を使うのだろうか。違和感を通り越し、悲しみを覚える。

そして、そんな思いは介護業界同様、「単純労働」と言われたそれぞれの業界の人たちもまた、感じているのではないだろうか。

*株式会社あおいけあ

http://www.aoicare.com/

小規模多機能型居宅介護、認知症グループホームなどを運営する、神奈川県藤沢市にある介護事業所。他の事業所では対応できないと言われた認知症を持つ高齢者を多数受け入れ、穏やかな日々を実現している。記事中で紹介した男性への対応のように、あおいけあでは、世間で認知症ケアへの関心が高まるよりはるか以前から、認知症を持つ人との対等な人間関係を結んできた。そんな介護の先進性だけでなく、近隣住民、事業所に遊びに来る子どもたち、その親など、地域で暮らす人々との自然体での交流でも知られる、介護業界のフロントランナーである。